(8)
「それで」
「意味がなくても、まあ、いいんですけど」
「それで」
「先生に、変なところを指摘してほしい、と思います」
「理論上は可能だろうね。その内藤さんが、体育専門学部のオリンピック特待生で、走り幅跳びとか高飛びとかの陸上競技で超人的な記録を持っていて、しかも、窓からの大ジャンプの練習をあらかじめしてたなら」
「はあ」
「分からない」
「え。いや、分かります。軽音の部室の窓、喫煙所、最短でも二メートルくらいはあると思います。窓枠に足をかけて、助走なしで」
「内藤さんに、できるの」
「ひょろいです。背は高いけど。たばこは吸ってるし、やつれてるし、髪は、変なちょんまげだし、そんな身体能力を秘めてるとは」
「じゃあ」
「な」
「うん」
「な、七不思議」
「ちがうと思ってるなら、言わなきゃいいのに」
「すみません。でも」
「うん」
「血が」
「説明がつかない」
「はい。一貫性。そうなんですよ。全部、消える血だったら、わたし、気のせいにできたんですけど。先生も見ましたよね。てゆうか、そうじしてたじゃないですか」
「そうだよ」
「そうだよ、って」
「どうするの」
「なにがです」
「論理的に説明しようとがんばるの。七不思議ってことにするの」
「どっちもできませんでした」
「どうするってことだろう」
「聞いてください」
「はい」
「そのあと、軽音楽部のむかいの吹奏楽部、これも防音ドアですけど、あけようとしました。あきませんでした。
二階にあがって、テーブルとソファを横ぎって、右が女子トイレで、左に入る廊下があったじゃないですか。
そっちに行ったんです。
文サなので、文化系サークルの部室がならんでるんです。部室といっても、パーテーションでみっつに区切られてるだけでしたけど。
一番手前の部室は、まんなかに正方形の机があって、書類がちらかってました。わたしに背中をむけて、テレビを見てる人がいました。
「あの」
って声をかけても、ふりかえってくれませんでした。ヘッドホン、してたんです。それで、近づいたら、テレビの画面にうすくうつったわたしに気づいて、
「はい」
「あの」
「なんですか」
「さっき、なんか、変な音がしませんでしたか」
「どんな」
「足音とか、ぼん、って音とか、声とか」
「ぜんぜん」
「ぜんぜん、ですか」
「ゲームしてたんで」
くわしくないのでよく分からないんですけど、RPGみたいでした。プレステでした。