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先生の授業  作者: 川光俊哉
7/19

(7)

「聞こえたって、なにが」

「なにか、変な声とか、音とか」

「走っていく人の足音」

「それ、わたしです」

「そうなんだ」

「そうなんです。ほかには」

「なにも」

「なにも」

「うん。なにも」

「なにをされてたんですか」

「一服してました」

「はあ」

「ひまなんで、大きな音を出したいな、と。それで、さっき来て、部室に入る前に、一服」

「なるほど」

 それで、たばこの火を灰皿でもみ消して、捨てて、手ぶらで軽音楽部の部室に行きました。灰皿は、巨大な乾電池みたいな、黒い柱でした。たばこ屋さんの店先とか、駅とか、市役所にあるようなやつ。

 文化系サークル会館のなかを見ながら、喫煙所のわたしからむかって左が軽音楽部で、そっちの窓から、ドラムの音が聞こえてきました。

 それで、思ったんです」

「なにを」

「わたし、声を聞いたって言ったじゃないですか。

 やめて、助けて、って。

 それって、防音ドアを通しては聞こえるはずがないから、窓からもれたのが、かすかに聞こえてきたんじゃないですかね。

 思い出したんですけど、先生といっしょに足あとを調べてたとき、あの、池に面したほうの窓、あいてたんですよね。そこから、わたし、そのまま頭を出して、池の鯉を見おろしてました。

 声が聞こえたときも、部室のその窓はひらいてて、わたしがくぐって外に出た、喫煙所のあの窓もちょっとひらいてたんじゃないですかね」

「つまり」

「つまり、声は、外の喫煙所を通って、ソファのわたしにとどいたんです。

 わたしより前からいたはずの内藤さんが聞いてないのは、おかしいじゃないですか」

「なるほど」

「犯人は、わたしが最初に部室に入ったとき、部室の窓をのりこえて喫煙所にかくれてて、わたしが誰かを呼ぼうと出ていったのを見はからって、部室にもどって、死体をひきずって、喫煙所までひきずって、池に浮かべてたゴムボートに落とした。文サの前で、ぼん、って聞こえたじゃないですか。あれが、そのときの音です。内藤さん、それも聞いてないってことですよ」

「つまり」

「となると、内藤さんが、犯人なんですか」

「そう思うの。それでいいの」

「え。分かりません」

「どういうこと。論理的に破綻してるの」

「いちおう、成立すると思います。いったん死体を処理したあと、しれっとたばこ吸ってごまかしてた」

「じゃあ、それでいいのかな」

「でも、わたしが来るのを知ってて、計画してたってことになりませんか。つまり、つまりですよ、わざと部室の鍵をあけといたまま殺して、わたしに目撃させて、人を呼びにいくあいだに片づけようって思ってたってことですか。ゴムボートまで用意して。

 それって、なんなんでしょう。

 アリバイ工作なんでしょうか。なんか」

「論理的に破綻してる」

「はあ。なんの意味があるのか、よく分からないです。わたしがびっくりするだけじゃないですか。七不思議みたい、って」

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