(6)
「葉っぱごしの光あたりからは、嘘だよ」
ばれた。
「なんとなく、冒頭のほうでつかった描写でとじればまとまった気になる。でも、本質と関係ないし、あまり意味がない。すぐに小細工だって分かる」
「すみません」
コーヒーを出してもらった。紅茶のほうがよかったけど。机がよっつ、それがむかいあって二列、端の部長か課長でもがすわりそうなところにプリンターが置かれてた。わたしは入口に近いほうの列の左から二番目、先生はそのななめ前で、
「研究室って、こうなってるんですね」
「講師控室だよ」
「ちがうんですか」
「非常勤講師に研究室なんてないよ。みんなまとめて、この部屋。それ、メールボックスだけど、これだけの人がつかってる。コーヒーは飲みほうだいだけど。教授と講師のちがい、分からないかな。まあ、いいや」
「すみません」
「なにが」
「つまんない文章で」
「エッセイにはおもしろさを求めてないから、これでいいよ。とても正確で、いい文章だと思ったよ。もちろん、おもしろいかどうかは別だけど。
それにしても、よっぽどひまなんだね、山本さん」
「そうですね」
「夏休みの課題、こんなに早くやった人ははじめてです」
「そうですか」
「質問があったらどうぞ、とは書いたけど、本当に会いに来たのはあなたがはじめてです。社交辞令じゃないから、まあ、それは対応しなきゃいけないんだけど」
「すみません」
「文章については、そんなところです。あなたは、たぶん、文章を書ける人だから、書くべき内容を見つければいいんじゃないですか」
「ありがとうございます」
「というか、これなの」
「なにがです」
「これが気になってしょうがないから、書いてきたの」
「そうですね」
「その後、どうですか」
「どうもなってないです」
「相談か報告なのかと思った」
「あ、そうです」
「聞かせてもらえるんですか」
「はい。ぜひ」
「どうぞ」
「あのあと、軽音楽部の部室を出たんです。吹奏楽部の部室の防音ドアとのあいだに、真四角の窓があったじゃないですか。窓をあけて、のりこえると、喫煙所になってるんですけど、煙がただよってるのが見えて。
左にコンクリートの角がでっぱってて、はしごがついてて、屋根の上にのぼれるんですけど、その陰でたばこを吸ってる人がいました。
「すいません」
って、わたし、足がみじかいし鉄棒も苦手で、窓枠をまたぐのも大変でしたけど、喫煙所で、声をかけたんです。
「はい」
「なにか、聞こえませんでしたか」
本当に、馬鹿みたいな第一声でした。きっと、その人も馬鹿だと思ったでしょう。
わたしの要領の悪い質問は省略しますけど、軽音楽部の部長で、内藤さんという三年の生物資源学部の人でした。