表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生の授業  作者: 川光俊哉
5/19

(5)

「その怪談を連想した」

「はい」

「それでいいの」

「いい、ってなんです」

「納得したの」

「なんとなく、似てる気がします」

「ああ、そう」

「いや、納得はしてないですよ」

「じゃあ、どう思う」

「先生は、どう思ってるのか聞いてみたい、と思っています」

「怪談なら、それでもいいよね。ただ、似ているところより、似ていないところのほうが多い。

 まず、現在、一時すぎの、まあ、昼さがり、といった時刻でしょう。少なくとも夜ではない。

 ここは医学棟ではなく、文化系サークル会館だね。自転車で一〇分くらいはかかるから、医学棟から二、三キロくらいははなれてるんじゃないの。

 特に、これがとても気持ち悪いんだが、血に一貫性がない」

「血の一貫性ですか」

「幽霊だか魂だか知らないが、その本体とともに、怪談の趣向の本質である血は消えてなくなるらしい。しかるに、われわれは、二種類の血を知っている。

 消える血と、消えない血ね。

 消える血は山本さんが見たし、というか、見えなくなったのか、消えない血はぼくがふきとった」

「ああ」

「とりあえず、以上ですけど」

「どうしましょう」

「もういいかな」

「あ、すみません」

「図書館に行きたかったんですけど」

「すみません。あの、先生」

 そのまま、本当に行ってしまわれそうだったので、呼びとめました。

「はい」

「なんで、あの血を、ふきとっちゃったんですか」

「お盆だから、清掃の業者も休みだと思うよ」

「はあ」

「気づいた人がきれいにする。それ以上の理由が必要だろうか」

「そうですね」

 なんで、証拠を、って言いかけてたんですけど、なんの証拠か分からない。殺人、ではないし、七不思議の証拠、それも、なんか、おかしい。

「では、また、休み明けに授業で」

 先生は、去っていった。

 さっきの窓から、見おろしました。先生は、アスファルトの道路を、木の根に侵食されてなくて快適そうでした、おばさんみたいに左足をペダルにのせて、右足で蹴って、いきおいをつけてからサドルに腰をおろして、自転車をこいでいきました。葉っぱごしの光のなか、だんだん、ペイズリーの柄よりちいさくなって、虫、アメーバ、砂つぶ、ほこり、やがて、消えてしまいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ