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先生の授業  作者: 川光俊哉
3/19

(3)

 それで、軽音楽部の部室にまた入りました。わたしは三度目です。先生は、はじめて。

「なんにもないね」

「はい」

「これが変だということは、なにかある予定だったの」

「はい」

「なに」

「血まみれの、あの、死体だと思うんですけど、人がたおれてました」

「なるほど」

「先生」

「とりあえず、つづけて」

「ええと、最初から話します。この部屋から、声が聞こえたんです。

 やめて、助けて、って。

 それで、あけてみたら、ちょうどこのあたりです。この、ドラムの前で、奥のほうが頭、足を扉のほうにむけて、人が大の字になってたおれてたんです。たぶん、体の感じとか、女性だと思うんですけど、頭の上、肩、背中まで、血だまりにつかってました。

 あわてて階段をおりて、文サを出て、誰か、人を探そうとして」

「ぼくを見つけたの」

「そうです。文サって、この、文化系サークル会館ですけど。すみません」

「ところで、ここ、土足」

「あ、ちがいますね」

 わたしと先生は、入口の横のげた箱に、はきものをそろえました。

 スリッパをぺたぺた鳴らして、先生は部屋のなかを歩きまわりました。

「どう思う」

「はあ」

「いや、山本さんが。どう思っているのか、おしえて」

「すみませんでした」

「まあ、すみませんでしたって思ってるのはいいよ。それで」

「なんか、見まちがえたかもしれません」

「本当に」

「はあ」

「いや、あなたしだいなんだけど。見まちがいってことにして、納得できるのか、どうか」

「正直、納得できてません」

「ということは」

「え、死体が、どっかにあるってことですか」

「ことですか、というか、どう思う」

「変なこと言っていいですか」

「いいよ」

「さっきの、血、関係ある気がするんですけど」

「つづけて」

「犯人が、凶器を持って、歩いて。どうにか処理しようとして。あれ」

「なに」

「犯人と凶器、急に消えたってことですか」

「そう思うの」

「分かりません」

「こっち、来てみる」

「はい」

 こっち、というのは、窓ぎわで、変色して黄ばんだ古いギター雑誌がつんである棚に手をついて、下をのぞきこみました。落ち葉が、地面をうすくおおっていました。完全にはかくしきれてなくて、黒い土がところどころ、虫くいみたいに見えました。

 足をひきずるような、だるそうな足音が聞こえて、誰か来た、と思ったら、先生でした。おしりのポケットに両手をつっこんで、

「山本さん」

 わたしを見あげました。

「はい」

「すごくやわらかい土だね。ぐずぐずの葉っぱがだんだんくさって、いい堆肥になるでしょう。去年の秋、冬の落ち葉がまだ残ってる。ぐるっとまわるよ」

「はい」

 ぐるっとまわりました。

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