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「そもそも、なんで、わたしが文サ、文化系サークル会館に行ったか、なんですよ。わたし、サークルなんてやってないから、はじめて入りました。
やどかりに、さそわれたんです」
「大丈夫」
「はい」
「ああ、そう」
「あ、やどかりって、そういう、カニとかザリガニみたいな、あのやどかりじゃなくて、やどかり祭実行委員のことです。
先生、やどかり祭は」
「知らない」
「学園祭とは別の、宿舎祭です。毛ノ成宿舎、拾瀉宿舎、御弓宿舎の学生が、宿舎生活をもりあげるためにやるって趣旨なんですけど、まあ、ちいさい学園祭みたいなものです。
六月に終わったんですけど、来年度にむけてもう準備をはじめてて。次は学園祭があるじゃないですか。まだサークルに入ってなくて、学園祭実行委員に流れていく新入生を、この時期に勧誘するんです。
まさにわたしがそういう新入生で、サークルもバイトもしてない、ひまなやつです。ドイツ語の授業で知り合った、なっちゃん、村上奈津美さんが、やどかりにさそってくれたんです。なっちゃんは、四月の新歓のときに入って、今年のやどかり祭も経験ずみだそうです。
文サで待ちあわせて、どこか、カフェとかファミレスとかでくわしく話す予定だったんです」
「分かった。やどかり祭の実行委員って、変な、派手なハッピを着てるでしょう」
「そうです。活動中は、はおってるのが決まりなんだそうです」
「会えたの」
「いいえ」
「来なかった」
「はい。先生と軽音の部室を調べてたじゃないですか。一時の約束だったから、あれくらいの時間には、もう来てるはずだったんです。それどころじゃなくなったので、完全に忘れてましたけど。
SF研究会の野口さんと渡辺さんとごはんを食べてるとき、メールに気づきました。
「ごめん。
行けなくなった」
って。それだけでした。
「本当にごめん。待った」
って、なっちゃん、会ったとき、申し訳なさそうにしてましたけど、わたしは別に。むしろ、急になにがあったのか、心配したくらいでしたし。
なっちゃんは、国道と宿舎の敷地にはさまれた、土手になった歩道に立って、携帯をいじってました。大学を貫通してるので、その歩道をずっとたどれば、学部棟とか図書館のほうに通じてます。
「なんか、あったの」
って、なっちゃんに聞きました。
「ちょっと、提出するやつ、忘れてて。あせってレポート書いてた」
「そっか。まにあったの」
「うん」
「よかった」
なっちゃん、本当にいい子ですよ。
図書館に行こうとしてたけど、なっちゃんに会えたから、もういい、その用事はあとまわしにする、って言ったら、
「そっちこそ、なんかあったの。顔色が」
って聞いてくれたので、
「もういい。安心した」
ってこたえたら、ほっとして、長く息をついて、笑ってくれました」
「よかったね」
「あの」
「はい」
「なっちゃんに聞きました。わたしの宿舎、廊下、ドアが見えるところに立ってたけど、変な人はいなかったって。
でも、たしかに、音は聞こえたって」
「ドアをたたく」
「ま、マラソン幽霊」