勇者パーティーを追放されたので魔王軍の幹部になりました~ざまあをしたいが敵が弱すぎて勇者が苦戦しないので魔族の育成から始めたいと思います~
――拝啓、お父さんお母さん。ごめん、誕生会には行けません。いま、魔王城にいます。この国のザコすぎてヘタレな魔族たちの育成係兼軍師を、僕はやっています。本当は、あの頃が恋しいけど、今は少しだけ、知らないふりをします。僕の作る魔王軍も、いつかあの憎き勇者たちをブチのめすから――
「なんて書くわけにはいかねぇよなぁ…」
東の町の仮住まいのポストから転送されてきた手紙を前に、エートスは頭を抱える。母の誕生日までには帰ってこいとのお達しだ。まあそれは建前で、さっさと魔族を片付けて早く帰ってきてくれということだろう。
しかし、返事をどう書いていいのか分からない。なんせエートスは今、なんやかんやあって勇者パーティーを追放され、紆余曲折を経て魔王軍の幹部をやっている。人族の敵たる魔族を倒すと意気込んで、盛大に見送られた一人息子が魔王軍に入ったなんて聞いたら両親はショックで倒れかねない。
じゃあ適当に誤魔化すかとも考えたが、実は今、エートスは嘘をつくことが出来なかった。そういう魔王との契約である。魔王は底抜けのアホではあるが腐っても大魔族。その契約は賢者であるエートスであってもどうにもならない。
「くそっ!どうする?なんかふんわり適当に…いや、いっそのこと無視しようか?」
一向に埋まらない真っ白な便せんを睨みつけつつ、うんうんうめき声を上げていたその時だった。
「ファイアーボール!あっ。」
魔族の少女がしまった、というような顔を浮かべている。近づいてくる火球に気付いて、エートスは慌てに慌てるがもう遅い。火球はエートスの執務室に見事命中。手紙もろともエートスを焼き尽くした。
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さて、エートスのリスポーンまで少々時間が掛かるので、それまで彼がこうなった経緯について順を追って説明していこう。
エートスは、王国の外れの農村の出身だ。地元では程々に裕福な家に生まれ、幼いころより十分な教育を受けてきた。
彼の父親はエートスに騎士になることを望み、母親は彼に魔導士になることを望んだ。しかし、彼には剣の才能がなかった。そもそもそんなに体力があるわけでもない彼には、剣での栄達など望むべくべきもなかったのである。
一方、彼に誘われてなんとなくで修行を始めた幼馴染の少女リゼは、剣技をメキメキと上達させ、王都からも注目されるようになっていった。エートスは日に日に広がっていく彼女との差に嫌気がさして剣の道を諦め、魔法の道に進むことにした。
しかし、思いがけない壁にぶち当たる。そう、彼には魔力がほとんどなかったのだ。これでは魔導士どころか平の魔法使いにもなれない。魔法の普及が進んだ王都なら、公務員試験を受ければ事務職でも身体検査で落とされるレベルだ。これではいくら魔術理論を理解しても魔法なんて使えるはずもなかったのである。
エートスは絶望した。そして、己の無才と両親の期待の板挟みになり、ふさぎ込んでいった。そんなある日のことだった。
「なに落ち込んでんのよ。アンタ、私なんかよりよっぽど頭いいじゃない!剣や魔法が出来なくったって、賢者くらいなら簡単になっちゃえるって!」
リゼの一言で、エートスは思い出した。かつて自分は、村一番の秀才と呼ばれたことを。あらゆる科目で村の学び舎の主席を取り、この村始まって以来の天才と呼ばれたことを。
「そうか。そうだよな!よしっ!」
エートスはこう見えて単純な男であった。彼はリゼの一言で立ち直り、一念発起して王立学院の文官コースに特待生で入学。そして、彼はあらゆる言語、歴史、医学、魔術理論を修めて、王立学院を首席で卒業、さらに王国の秘儀を大賢者から相伝され、賢者の地位を得た。
一方リゼはというと、王立学院の武官コースに進み、トップクラスの実力を持つ剣士として将来を渇望されるようになった。なお、座学の成績はというと、エートスの助けをもってしても落第ギリギリであった。
丁度その頃であった。これまで人族に対して不干渉の姿勢を取り続けてきた魔族たちが辺境の村を襲撃、魔鉱山を制圧してしまうという大事件が起きた。王都は混乱に陥った。なぜなら、これは大昔の賢者の予言の通りだからである。
――人族の繁栄が頂点に達した時、魔族の王が復活し、人族に対して戦争を起こすだろう。その戦禍は王国を飲み込み、多くの犠牲が出るだろう。――
しかし大賢者は、この続きを知っていた。
――しかし、これを止める術がある。若き勇者、剣士、魔導士、賢者を見出し立ち向かえば、必ずや魔族を滅することが出来るだろう。――
国王は大賢者の進言に従い、若い勇者、剣士、魔導士、賢者を探した。そして、その剣士枠としてリゼが、賢者枠としてエートスが取り立てられたわけである。また魔導士枠には宮廷魔術師のユナという少女が、勇者枠には王立学院武官コース主席のアルスという少年が選ばれた。
かくして勇者パーティーが結成され、4人は魔族たちの国へと旅立った。
彼らの旅は順調そのものだった。エートスが作戦を立て、アルスとリゼが突っ込み、ユナがサポートする。魔族たちは為すすべなく敗走していった。
途中で、一攫千金を目指して魔族の国で盗賊稼業をしていたジン、そしてさすらいの冒険者ガジルを味方に引き入れ、戦力を強化した。ジンもガジルも力こそパワーといった脳筋思考の人間で、同じく脳筋気味のアルスと意気投合した。
そんなこんなで出発から3か月ほど経とうとしたある日の夜、事件は起こった。
「お前にはパーティーを抜けてもらう。」
アルスは、冷淡にもエートスのクビを宣告した。
突然の宣告。エートスには、意味が分からなかった。
(…え?僕が、クビ?なんで?)
固まるエートスに、アルスは舌打ちする。
「わからねえのか?お前は役立たずなんだよ。」
ガジルとジンはエートスを睨みつけている。ユナ、そしてリゼは素知らぬ表情をしていた。
エートスの混乱が加速する。エートスは、自分では役に立っているつもりだった。未踏の地で、初めて相対する相手に優位に立つために、彼は自分の知識を出し惜しみしなかった。戦う力がないからこそ、知識と知恵でパーティーをサポートしたつもりだった。戦わずに指示だけ出すという立場上、アルスやガジルたちとの衝突も何度かあったが、和解してやってこれたと思っていた。
「役立たずだって…!僕が、一体どれだけみんなのために力を尽くしてきたと思ってる!」
「力を尽くした?お前は後ろであーだこーだ言ってただけじゃねぇか!それに、別にお前がいなくても俺らだけでやってけるってことがこの前十分わかった。」
この前というのは、少し前の戦闘でエートスが流れ弾に当たって気絶した時のことだろう。この時アルスたちは指揮系統不在のまま戦闘を続行し、見事大勝利を収めた。
この出来事はエートスにとってあまりいい気がするものではなかったが、それをここでアルスに持ち出されてしまった。
(もしかして、僕って本当に役立たずなのか?)
急に自信がなくなってくる。しかし、ここで折れてしまってはアルスの思惑通りだ。
(でも、きっと自分が役に立った場面もあったはずだ。それなのに、こんな簡単に追放なんてありえない。これはアルスたちの策略だ。うん、きっとそうに違いない!)
エートスは自分に言い聞かせた。そして、幼馴染のリゼならきっと自分の味方をしてくれるだろう、そう思って縋りつくような目で彼女の方を見る。しかし、それを見てアルスは鼻で笑った。
「お前、もしかしてリゼなら自分を弁護してくれるとでも思ったか?残念!実はな、今回お前の追放を提言したのは他ならぬリゼなんだよ!」
アルスはリゼの肩を抱き寄せ、エートスをあざ笑う。
「え…」
エートスは、言葉を失った。そんなはずはない。あってはならない。
(だってリゼは、幼馴染で、いつだって自分を励ましてくれて、そしていつもお互い助け合いながらやってきたじゃないか!)
嘘だ、嘘だと言ってくれ。エートスはそう願った。しかしその願いは無情にも彼女本人に打ち破られる。
「…アンタなんか、いてもいなくても一緒だわ!大人しくこの辺りで地元に帰ったらどう?」
「そういうことだ。さっさと出ていけこの役立たずの無駄飯食らいが!」
かくして、エートスは勇者パーティーを追放されたのであった。
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「おお、ついに目覚めたか人間よ!先ほどはすまなかった!」
エートスは膝の上で目を覚ます。声の主は黒い翼をパタパタ羽ばたかせながら、彼の顔を覗き込んだ。
「にしても、死者すら容易に蘇らせるとは、其方の魔術はまるで神の所業だな。最初はびっくりしたぞ!」
「いいえ魔王様、僕はただ理論を知っているだけです。これは、あなたの膨大な魔力量をもってして初めて可能になる魔術。まごうことなきあなたの魔術ですよ。」
「そうか!そうだな!なんたって余は大魔族!最強にして最高の頭脳を持つ存在だからな!フアッハッハッハ…ゲホっゲホ!」
「なんとなくのノリと勢いで戦争仕掛ける最高の頭脳(笑)あとそこでむせます?」
「おい、いくら嘘がつけぬとはいえ何かもっと言い様があろうぞ!?」
「がっ!」
突然立ち上がった魔王の膝から転がり落ち、エートスは床に顎を強打した。
魔王は大げさなリアクションを取って不服を全身で表現する。余程馬鹿にされたことが気に入らなかったらしい。
彼女はいつもこんな感じで落ち着きがない。黙ってじっとしていれば、整った顔立ちにすらりとした身体、禍々しい黒翼に青と赤のオッドアイと魔王っぽい容姿なのだ。しかし、いざ口を開けばにじみ出るアホの子感を抑えられない。これでは、魔王としての風格なんてあったものじゃない。
とはいえ腐っても魔族の王。その力は本物である。膨大な魔力にあらゆる魔法への適性。そして想像を絶する身体能力。魔王にふさわしい力を備えている。エートスも先ほど彼女がいった「最強」を否定するつもりはない。自由人しかいないこの魔王国を一応なりとも纏められているのは、その強さ故だろう。
しかし、致命的なのはやはりそのアホさ加減だろう。このアホというのは別に頭の良し悪しを示すものではない。むしろ、純粋な演算能力、思考速度なら彼女のそれは人間のはるか上をいっている。この場合のアホは、彼女の、というより魔族全体に見られる脳筋思考と楽観主義、そしてなんとも言い難い適当さ、さらには打たれ弱さを指す。
彼女の場合は、復活した勢いそのままになんとなくのその場のノリで魔鉱山に魔鉱石を取りに行ったらたまたま人族の管轄地域で、なんか戦いになったから取りあえず戦って、なんか勝てたから調子乗って攻めたら返り討ちに遭って、もう戦い止めたいってなったけど討伐命令が出されちゃったせいで引くに引けず、でもまったく勇者たちに勝てないので怯えて魔王城で震えるしかなくなった、というこれまでの場当たり的な行動がそれだ。
また、エートスにとってさらに残念なのは、魔族の中ではこれでまだマシな方であるということだ。
大多数の魔族は基本的に考えるということをしないし、楽観主義、場当たり的思考のレベルがカンストしている。日々、のほほーんとして過ごしているのだ。
そんな奴らだから、基本のステータスは高いのに勇者たちに手も足も出ない。エートスたちははかつて、魔族は言い伝えにあるように凶暴で狡猾な種族だと信じ込んでいた。だからまさか自分たちの勝因が魔族たちの気質によるものだとは思いもよらなかったのである。これでは、本当にエートスがいなくても勇者たちはやっていけてしまう。
「まったく…」
「おい其方、なんか今失礼なこと考えておったじゃろ!?おい、なんとか言え!おーい!」
「はぁ…」
エートスはいつものことながら彼女らのアホさと温厚さ加減に呆れ、溜息をついた。
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話が少々逸れてしまった。さっきの続きを話そう。
さて、勇者パーティーを追放されたエートスであるが、勿論一人である。行く当てもない。帰れるかもわからない。持ち物もほとんどない。彼に出来るのは、失意の中彷徨うことくらいだった。
そして、魔族におびえながら野営し、持ちうる知識を総動員して現在地を確かめ、泥だらけになりながら森を駆け回っていた時湧き上がってきたのは、元仲間たち、特にアルス、そしてリゼに対する怒りである。
エートスは彼らを見返したかった。自分の力を彼らに認めさせたかった。彼らに、やっぱり自分が必要だったと認めさせたかったのである。
そして言ってやりたかった。ざまあみろ、と。自分が抜けてボロボロになっていくパーティーを尻目に、自分が魔王を討伐する。そんな日が来るのを待ちわびた。待ちわびるだけではない。エートスは彼なりに、戦う術を独力で探った。そして遂に、自分の魔力なしで魔法を使うことに成功したのである。彼は生まれて初めて、自分一人で戦場に出た。
そして思い知ったのである。想像以上の魔族のヘタレ具合を。
一見彼らは強い。目にも止まらぬ速度で動き、空を舞い、地を駆ける。力も強く、魔法のようなものも使う。実際に刃を交えてみて、アルスたちはこんな奴らと戦っていたのか、と驚愕した。
が、それも最初の内だけである。戦っているうちに、エートスはある違和感を覚えた。
(こいつら、動きがすげー単純だな)
目が慣れてくると、動きが読める読める。待ち伏せしてぶちかますと面白いように一網打尽になった。そして被害が一定以上になると、急に全体の動きが鈍くなる。明らかに士気が落ちているのだ。
というより、打たれ弱すぎる。攻めているうちは強いが、攻められはじめるとすぐに戦線が崩壊するのだ。これは指揮系統がダメとかそんなレベルの問題ではない。メンタル的な問題だ。有体に言えば、魔族という生き物はヘタレだったのである。
そして思った。
(こいつら弱ぇー!!!)
そう、魔族は実際、別にエートスがいなくても討伐できそうなくらい弱かったのである。
(これじゃあ、まるでアルスたちが正しかったみたいじゃないか。)
実際、追放が正当だったかはさておき、エートスは攻略効率化要員以上の働きはしていなかったわけで、その意味ではアルスたちの主張は的外れではなかった。
しかし、一度湧き上がった怒りはそう簡単に引っ込むものでもない。アルスたちに対する様々な怨嗟が、ひっきりなしに浮かんでくる。それはもはや、八つ当たりに近いものだったのかも知れない。
とはいえ、エートスを責めるのは酷だ。なんせ彼は国王の命令通りに動き、最善を尽くした結果別にいてもいなくても変わらなかったというだけなのだから。
そう考えると、彼が真に怒るべきは国王、いや、それを提言した大賢者、なんなら昔の賢者なのかもしれない。しかし、彼の怒りの矛先が向いたのは勇者一行だ。
なんたって、アルスとは気が合わなかったのだ。そんなやつに出し抜かれたのが気にくわなかった。そして何より、誰よりも信頼していたリゼが自分を裏切り、そんな奴の肩を持ったのが許せなかった。
だからこそ、自分が抜けたことで痛い目を見ればいい、自分が如何に役立っていたかを思い知れ。そうエートスは思っていたのだが、残念ながらその野望は他ならぬ魔族によって打ち砕かれた。
これでは、勇者たちは特に苦労することなく魔王を討伐してしまう…
しかし、彼は曲がりなりにも賢者。そしてお察しの通り器の小さい捻くれた男。こんな程度で諦める筈はなかった。
なんとかしてざまあみろを言いたい彼は考えた。そして思い至る。
(こいつらが弱すぎるからダメなんだ。なら、もうちょっと強くなってもらえばいいんじゃね?)
かくしてエートスは、ちまちま進んでいく勇者パーティーを尻目に、広域探知魔法で見つけた魔王城に向かって単身でひたすら進撃、ヘタレな魔族を追い散らしつつ城門を蹴飛ばした。
「オラァ!!!勇者サマ御一行の賢者エートス様だぞ!命が惜しくば魔王に会わせやがれェ!!!」
「ひぃ!!!どうか命だけは!!!」
このころ魔族たちの間では、勇者の名は恐怖の対象となっていた。ゆえに、その名を出せば兵士以外はあっさり引き下がる。というか、強気に出れば兵士ですらビビッてこの様であった。
エートスは震える魔族に導かれて、エートスは魔王が居座る城内でも一際大きな一室の前に案内された。
「こ、ここでございます…!」
「そうか、案内ご苦労。もう行っていいぞ?」
エートスがそういうと、魔族は駆け足でその場から逃げるように立ち去って行った。
「お、おい、本当に勇者の一味がやってきたのか!?」
「さようで…」
「なぁ、余は今出かけて留守だとでも言っといてくれないか?」
「は!?魔王様ともあろうお方が居留守を使うなど!どうかお会いくだされ!」
「嫌じゃ!会いとうない!まだ余は死にとうないぞ!!!」
何やら扉の向こうが騒がしい。しかし、エートスは気にせず扉をノックもせず勢いよく開いた。
「ぎゃっ!!!」
「これはこれは魔王様。僕は賢者のエートスと申すものです。」
エートスはニコリと微笑んだ。一方の魔王は部屋の隅っこでプルプル震えている。大臣はいつの間にかいなくなっていた。ちょっとこれは怯え過ぎじゃないか、とあきれつつ、エートスは本題に入る。
「貴方に折り入って頼みがあって参りました。」
「たっ、た頼みじゃと!?な、なんじゃ、申してみよ!な、な、内容次第ではっ、そっ、其方もろとも人族を根絶やしに」
「は?」
「ひぃぃぃ!ど、どうか余の、いや、余の命はいい!民たちの命だけでもっ!!!」
ちょっと凄んだだけで魔王まで命乞いを始めた。ここまで怯えられるとエートスもなにか悪いことをしているような気になってくる。しかしエートスは別に魔王を討伐しに来たわけでも、脅迫しに来たわけでもない。彼の目的はただ一つ。
「僕を参謀兼育成役として雇ってください。」
「へ?」
そう、彼は魔王軍に入って魔族を鍛え、勇者パーティーを苦しめよう、そう考えたのである。なんという回りくどい作戦。なんなら今魔王を討ってしまったほうが早いかも知れないが、彼はどうしてもアルスやリゼたちが苦戦し追い詰められる様を見たかったのである。結果、エートスは魔族側につくことにした。
「いやいやいや!!!其方は勇者の一味であろう?なんで其方がそんな真似を!?」
「僕、アイツらに追放されたんですよ。だから、その復讐の機会を頂きたく。」
「え…其方、それだけで人族全部を敵にまわすのか?」
魔王が本気で困惑している。それも当然だろう。温厚な彼女たちには復讐という感覚がピンとこなかった。それに魔王も、今自分を倒せばいいじゃん…と考えていたに違いない。
しかしもちろん、エートスは別に人族全体を敵に回すつもりはなかった。彼は単に勇者たちへの復讐がしたいだけである。なので、適当に彼らを苦しめたら魔族を裏切って人族側に再び寝返り、王都に凱旋するつもりであった。
どうせ報道なんてされないんだから、うまくやれば自分が魔族側にいたことなんて勇者たちには隠し通せる。それに、魔族を根絶やしにすれば口封じもそれで済むだろう。どうせ自分がしなくても魔族は勇者パーティーに根絶されるのだ。なら、自分の復讐に利用させてもらおう。
エートスはそんなふうに考えていた。正真正銘のクズである。言い伝えの中の魔族以上に極悪非道だ。もともと捻くれた性格ではあったが、あの一件によって彼の性格は救いようのないほどひん曲がってしまっていたのである。
(恨むなら、あの憎き勇者たちを恨むんだな…)
しかしそんな彼の性格を雰囲気で感じ取ったのか、魔王はすぐには首を縦に振らない。
「其方が有用なのは分かる。追放されたとはいえあの勇者たちの軍師だった男じゃ。じゃが…」
「なんでしょう?」
「其方を信用できない。」
魔王は、初めて魔王らしいオーラを放ってエートスの目を見た。そこでエートスは初めて気付く。その圧倒的な魔力量。そして、存在の格の差としか表現のしようのない存在感に。
しかし、エートスは目をそらさずに、毅然とした態度で答えて見せた。
「どうすれば信用していただけるでしょうか?」
「契約をしよう。其方が我らと共にある間、二度と嘘を付けなくなる契約じゃ。さすれば、余は其方を雇ってやろう。」
「お安い御用ですよ。」
エートスは二つ返事で了承した。ボロさえ出なければ、別に嘘を付かずとも隠し通せるだろう、そう判断したからだ。
かくしてエートスは魔王軍に入り、現在に至る。
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さて、魔王さまのファイアーボールで消し炭になった後、彼女に蘇生されたエートスは、焦げ臭い執務室ではなく魔王の部屋で報告を待っていた。彼が指導した部隊と勇者との戦闘の結果がそろそろ伝えられる頃である。
魔王ははじめエートスから作戦内容の詳細を聞いていたが、途中で飽きて兵法書でタワーを作り始めた。そんな彼女を横目に、エートスは戦闘が起こったであろう方角を窓から眺める。
その時であった。扉が突然勢いよく開く。
「ほーこくします!!!」
「あぁ!!!」
虚を突かれて驚いた魔王がビクッとのけぞる。その衝撃で兵法書タワーは崩落してしまった。悲しそうな魔王を無視してエートスは続きを促す。
「えーとす!かったよ!ウーたちのぶたい、ゆうしゃたちをやっつけた!」
「本当か!!!」
思わず大きな声を上げる。初めてだ。初めて、魔族が勇者一行に勝った!
エートスは歓喜に浸る。が――
「報告!」
立て続けに伝令が入ってくる。
「ああ、報告ならたった今――」
「ウルムの部隊が壊滅いたしました!!!」
「へ?」
エートスは固まった。相反する二つの報告。これは一体…
「ウルム率いる魔導部隊は勇者パーティーに奇襲をかけ、これに打撃を与えました。が、欲張って追撃を試み接近、剣士リゼの猛反撃にあって壊滅…」
「バカぁ!!!」
ことの詳細を理解し、彼の悲痛な叫びが広い部屋に木霊する。
(やっぱりアホだっ…一体どれだけ、魔導士は接近戦を挑むなって言ったのか…)
エートスは頭を抱えた。
「被害の詳細は?」
「ウルム以下スライミー14名、いずれも重症ですが死者は無し。まあスライミーですからそのうち復活するでしょう。」
「じゃあ良かった!うん!」
投げやりに応えたエートスは、どうしようもない脱力感に襲われた。
アホで調子乗りで場当たり主義の魔族たちが勇者に勝てる日は遠い。
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「オラァァァッ!!!」
「ぴぇぇぇぇ!!!」
戦場を一人の剣士が飛び回り、スライミーたちの断末魔が響き渡る。彼女が通った後には魔族たちの屍が積み重なっていた。その姿は剣士というよりさながら狂戦士である。
「なんでアンタらそんなに弱いのよッ!!!アンタらが!弱いせいでッ!!!」
「ぴぎゃぁぁぁ!!!」
理不尽な怒りをぶつけられ、スライミーたちが地面に沈んでいく。血気盛ん過ぎるリゼを遠目で見て、ユナはため息をついた。
「まったく、慣れない腹芸なんてするからですよ。いいえ、恋に奥手というべきでしょうか。もっと素直に振舞えば良かったものを…」
そして、沈んでいく夕陽を眺めてぽつりと呟く。
「はぁ、エートス様も元気でやっていると良いのですが…」
最後まで読んで下さりありがとうございます!文章の練習がてら一本短編を書いてみました。流行りに乗り遅れて追放ざまあ系を書いてみたかったんです…これざまあ系か?
ちなみに今後の展開としては、リゼが覚醒してパーティーの残りを全員追放、魔王を倒すリゼ無双ルート、エートスがなんやかんやで魔王になって王国を攻める魔王エートスルート、全ての元凶ユナが本性を現すユナ黒幕ルートなどが分岐次第で発生します。嘘です。いま適当に考えました。ユナはそんな悪い子じゃありません。まあ特別反応があったり要望があれば続き書きます。
なお、ガジル、ジンの扱いが薄かったのはガジル、って一発で変換できなくてめんどくさくなったからです。(蛾汁、とか画次るとか…ジンはついでです。)
最後にお願いです!自分の文章力が現状どれほどなのか把握しておきたいので評価をつけていただけると助かります!
ダメダメなら☆1、ちょっと微妙なら☆2、悪くはない、普通、ってくらいなら☆3、結構いい感じなら☆4、すごい良かった、なら☆5という感じです!
☆1とかでも全然構いません。今後の糧にしたいのでどうかお願いします!(9/26追記)