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第二話

日が変わる前に二話目が投稿できて嬉しいです。

これ以降は通勤の合間にちまちまと書きます。

整えられた調度品、豪奢すぎず、決して成金じみた雰囲気は漂わずとも一眼見ただけで類稀なる逸品ばかりが集められているとわかる屋敷内。

勤める使用人も教育の行き届いた精鋭ばかりが集うフォンディーヌ家であるが、ただ一人慌ただしく屋敷内を駆け回る使用人がいた。


「お嬢様!お嬢様!?」


フォンディーヌ家が誇る使用人の中でも筆頭、家令であるクラエス・ドーラはすでに還暦を迎えながらも麗しいロマンスグレー。

彫りの深い顔立ちに刻まれた皺に、年を重ねたものだから出せる色気をまとった彼であるが、普段とはかけ離れた様子で屋敷のあちこちをああでもない、こうでもないと扉を開けては閉める。


「おい!誰か、誰かお嬢様を見かけた者はいないか!?」


見つける執事、メイドらに聞くも皆首を振るばかり。


「ええい……お嬢様はどこへ行かれたのだ!爺は、爺は許しませんよ、お嬢様ァーーー!!!」


虚しく響くロマンスグレーの叫びを、皆は特に関知せず仕事へ戻った。

思う心は皆一つ『またいつものか』と。






『様ァーー……』


遠くで聞こえるロマンスグレーの叫び。


「……やれやれ、爺も懲りないね。それにしても還暦とは思えない肺活量だとは思わない?」


探し人であるフォンディーヌ家が当主、リンデイアは優雅にティータイムの最中であった。

飄々とした様子に傍らのメイドは仕方がないな、とでも言いたげな顔でため息をつく。


「もう、そのうちクラエス様の血管が切れてしまいますよ」


「いいや、そうは思わないね。あれはそういう健康法みたいなものさ。私の手がかからなくなったら、きっと爺は手応えのなさに一気に老け込んでしまう」


肩をすくめたリンデイアは素知らぬ顔で紅茶を啜る。

飲み干したカップをメイドに向け差し出そうとするが、少し距離があったため浮遊魔法でふわふわと浮かせて運ぶ。


「お嬢様ったら、お行儀が悪いですよ」


嗜めつつもカップを受け取ったメイドも、そう言いながらおかわりを準備し始めるのだから大概リンデイアに甘い。


「フィー、そんなところに立ってないで君もこっちに来てお茶にしたら?」


「誰のためにここにいると? ……ほら、噂をすれば」


扉の外から駆け寄る足音がする。

すぐさまリンデイアは扉へ背を向けたソファーへ寝そべった。

慌ただしく扉を開いたのはクラエス・ドーラその人。

メイドの顔を見るとこれまた慌ただしく尋ねる。

我らがロマンスグレーの整えられた眉はすでに可哀想なほどに下がりきっていた。


「フィーネ! お嬢様を見かけませんでしたか?」


「あらあら、クラエス様。どうされたのですか、そんなに慌てて……」


「どうもこうもありません! 今日の登城から帰ったら『東の砦へ明日からしばらく行く、不在の間は任せた』などとおっしゃって姿が見えないのです。お嬢様にしか判断できないものも多くある中、しばらくなどと曖昧な期間どうしろと言うのか……」


流石は我らがロマンスグレー。いついかなる時も部下相手でも丁寧な接し方を忘れない。

彼が口を荒げ駆けずり回るのはそれこそ幼い頃から見ているリンデイアを相手取った時くらいのものだ。


「それは……参りましたねぇ」


フィーネと呼ばれたメイドは、クラエスから死角となったソファーに寝そべるリンデイアをちらりと見つめる。

普段であれば勘のいいクラエスだが、今日は駆け回りほとほと疲れたのかフィーネの視線には気づかないようだった。

瞬時フィーネと目が合ったリンデイアは困ったような微笑みを浮かべて手を合わせた。

フィーネはこの顔に弱い。


「……お嬢様でしたら先程までこちらにいらしてたんですが、クラエス様のいらっしゃる少し前にどこかへ行ってしまいましたよ。その話が本当なら、旅支度でもされに行ったのでは?」


「そうか、道具屋か!! あの人は最近あそこの看板娘にちょっかいを……」


言いながらすでにクラエスの足は扉の外へ向かい、リンデイアへの文句を垂れ流しながら駆けて行ってしまった。

フィーネの言葉から旅支度を整えに街へ向かった時思ったのであろう。

待ち構えるのではなく追いかけて屋敷を飛び出しかねない勢いだった、おそらく一刻以上は帰ってこないことだろう。

リンデイアにとっての問題は、共犯よろしくクラエスから匿ってくれる手筈だったメイドがこのまま丸め込まれてくれるかどうかだけである。


「……いやぁ、フィー様々だな。これでしばらく爺に怒られず済む」


「ええ。クラエス様には、ですが」


「…………」


リンデイアは聞こえないふりをして紅茶を……と思ったが、クラエスが来る直前フィーネへカップを預けたことを思い出す。


「お嬢様、聞いていませんよ? 東の砦と、あと道具屋の娘、でしたか??」


にっこりと笑みを浮かべたフィーネは変わらずソファーへ沈み込むリンデイアへ距離を詰める。


「言っていないからね」


リンデイアも負けじと困った笑みで縋ろうとするが、生憎とこの手は先程使ってしまったばかりだ。

リンデイアの顔に弱いフィーネであるが今度は効きそうもない。


「大体、しばらくとはいつまでですか」


「さぁ? 内容は機密扱いになりそうだから話せないが、ことが落ち着くまでとしか」


「お一人で向かわれるつもりで?」


「今回は貴族のお嬢様が来たと思われちゃ困るんだ。一人で旅の者に化けて行った方が都合がいい」


「道具屋の娘とは?」


「…………」


質問するごとにじわじわと寝転んだリンデイアへ距離を詰めるフィーネ。こう言う時のフィーネが手強いことをリンデイアはよく知っている。

乳母子である彼女はそれこそ生まれた時からの付き合いだ。逃げきれないと察したリンデイアは攻撃へ転じる。

フィーネは幼子に視線を合わせるようにリンデイアの前へしゃがみ込み、小言を続けようとした。


「大体、お嬢様はいつも」


「それ」


最後の詰めとばかりに口を開いたフィーネへ、リンデイアは人差し指を突きつける。

遮られたフィーネは怪訝な表情を浮かべた。


「いきなりなんですか」


「さっきからなに、その呼び方」


突きつけた指先をそのままフィーネの口元へ持っていくと、唇をなぞった。

雰囲気に呑まれかけたフィーネだが、ぷいと顔を背ける。


「……誤魔化されませんよ」


「私も誤魔化されない。二人きりなんだからいつもみたいに呼んで?」


「だって、さっきはクラエス様がいたじゃありませんか」


リンデイアの顔に自分が弱いことをフィーネは知っている。

目を合わせぬように顔を背けたまま言葉を続けるが、リンデイアは攻撃の手を止めはしない。

体制を少し起すと、フィーネを後ろから抱きすくめて語りかける。


「爺が来る前からだったろう。しばらく会えないんだ、きちんと私の名前を呼んでくれ……頼むよ、フィー」


"しばらく会えない"の言葉に勢いを取り戻そうと気を取り直しかけたフィーネだが、ダメ押しに耳元で名を囁かれ腰が抜けそうになる。


「……リンディ」


「やっと呼んでくれた」


リンデイアは笑みを浮かべフィーネを抱く力を強めた。加えて内心「勝ったな」とほくそ笑む。


「フィーがさっきからどこか遠く感じてしまって、話すのが遅れたのは謝るよ。本当は私の口から屋敷を離れることも伝えたかった……」


「本当に一人で行ってしまうの?」


いよいよ愛称を呼ぶだけでなく、口調も崩してしまうフィーネ。

幼い頃から共に過ごした二人は、お互いしかいない場では主従の関係を取っ払っていた。

もっとも取っ払うだけでなく時には一夜を共にするわけであるが。


「ああ、寂しくて仕方がないけれどね。けれど中々危ないことになりそうなんだ。君をそんな目には合わせられない」


調子づいたリンデイアは誰にも止められない。ただでさえ彼女に弱いフィーネなど尚更。


「……そんなこと言って。向こうで好き放題するくせに」


「まさか。君は、フィーは私の唯一の人だよ。これから君に触れられない日々が来るなんて、一番信じたくないのは私さ」


リップサービスと共にフィーネの首筋や耳元へ唇を落とす。


「道具屋の子って?」


「あの子はまだ子供さ、私が妹が欲しかったのはフィーも知っているだろう? 可愛がっているだけだよ」


とはいえ年齢は一つしか変わらないし、発育のいい子だけどねーーー心の中で言葉を付け加えながら、リンデイアはフィーネを宥め続ける。


「なるべく早く帰ってくる。少し面倒な案件だ、戻ったらしばらく休暇を取るよ。フィーはどこへ行きたい?」


「リンディはいつもずるい……そうやってご機嫌を取ってればいいと思ってるんでしょう? いいわ、誤魔化されてあげる」


(いつも通り)根負けしたフィーネは振り向いて口付けに応えた。

言葉の通りすっかり誤魔化されてやることにしたフィーネは、リンデイアにもたれかかるようにして次の休みの予定を考える。

しばらく、一刻をゆうに超え日が傾き始めた頃、憤怒したクラエスが屋敷戻るまで二人は幼い頃のように部屋の隅でくすくすと笑いながら言葉や口づけを交わし続けた。

息をするように女を口説く、今作の主人公はそんなタイプです。

勘のいいガキ(敬称)ならお気づきかもしれませんが、タグの「無自覚系」は女の子相手には適応されません。リンデイアはゴリゴリの自覚系です。

「あれ?私なんかやっちゃいました?」ってなるのは内政や戦とかに対してのみです。可愛げがないですね!!!

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