それから。
--それから。--
あらすじ:ダンジョンから出たら囁かれた。
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ダンジョンを攻略したので、ユーハイムの街の秋の収穫祭は大いに賑わった。
辺りの村々から半農冒険者たちがやってきて街が一気に活気づく。今年も冒険者ギルドで射的大会が開催されたし、食べ歩きもダンジョンの10階以降の珍しい食材で新しい食べ物がたくさん出回っていた。珍しい食材が必ずしも美味しいとは言えなかったけど。
ミル君と一緒に街をあちこち出回っては色々な食べ物を食べた。
今年は我慢しないで何でも食べられるので嬉しい!
お腹を空かせながら見てるだけなんて事はないのだ!!
ダンジョンを攻略するために5階の村が大きくなったけど、それはそのまま使用されることになった。
王子様が使わなくなったからって取り壊す必要はないからね。
だけど、問題なのは20階以降の転移の魔法陣が使えなくなったことだ。
攻略するために転移の魔法陣は各階の入り口と出口に、2ずつ作ったのだけど、使えなくなってしまった。
調べても原因は解らなかったけど、ダンジョンがその気になれば転移の魔法陣なんていつでも使えなくすることが出来たのかもしれない。じゃないとダンジョン側には不利になるものね。
20階まで残してくれたのはダンジョンの厚意なのかもしれない。
おかげで10階~20階の色々な種類のモンスターを手に入れやすくなったし、5階の村は冬の半農冒険者たちが増えた事もあって人でにぎわっていた。増々ダンジョンの中は賑わうだろう。
だけど、いつ使えなくなるか解らない転移の魔法陣についての取り扱いは慎重になり、日帰りでも戻って来れるだけの力がある人がそれなりの装備を持って行かなければならないことになってしまった。
ダンジョン攻略が終わって私も5階の村に通わなくてよくなったので、これから『猫の帽子屋』でのんびりと新しい魔道具を造ったりしようと思っていた。
なんだかんだいって、ホアード様の言う「村ごとの貧富の差」が気になっていたし、流通に使えそうな車とか、あるいは冬の家の中で出来るような『家内制手工業』に使えそうな魔道具とか作って見たいと思っていたんだけど。
「いや、父上から呼び出しがあると言っただろう?」
王子様が連れ出しに来てしまった。
「私なんて要らないって!もうドレスを着て王様の前に行くなんてコリゴリよ。」
王様の前でオクサレ様が出てきて面倒になった事しか覚えていない。それにホアード様にも面倒だから会いたくない。
「オマエはダンジョン攻略の功労者だぞ。転移の魔法陣が無ければ攻略できていなかったし、他にも色々道具を作ってくれただろう。それにドラゴン退治はオレとの共同って話になっているんだし、これで王家が大々的に褒美を出さなかったら、父上の立場が危うくなってしまうのだ。」
「いやよ。面倒なだけじゃない!転移の魔法陣も次の攻略に使えないかもしれないって事だし。」
「それに、アマネ殿には、オラシオン殿を使ってドラゴンの遺骸を運んでもらいたいんですよ。」
ご子息様まで王都行に賛成らしい。ドラゴンの肉はお祭りでかなり消費されたけど、骨や革、鱗だけでもまだまだ量が有った。
「それこそ、馬車を増やせば良いじゃない。」
「そう簡単に馬車を作るわけにも行かないんですよ。馬車を操作する人間を雇うだけでも莫大な費用になるので、単独で運べるオラシオン殿にぜひお願いしたいんです。」
例えば10台の馬車にドラゴンを分割して乗せて、10人の人を雇ったとすると、その人たちを雪解けまで雇わなければならない。雪で埋もれてしまうユーハイムの街に帰すわけにも行かないからだ。
だから、ただ10人雇うだけでは済まなくて、10人を何か月も雇わなきゃならない。
そして、王都でやらせる仕事もない。もったいない。
その点、オラシオンなら10台連結させても引いていくことができるので乗り手は私1人で良い。しかも王様からのご招待なので王都での生活も保障しなくて良い。
いや、コスパが良いのは判るけど、10台雇えばいいじゃない。
私のお財布から出るお金じゃないんだし。
「アマネ様、またマリアナ様と王都で遊びましょうよ。ヴィッセル様の仕事のしわ寄せがマリアナ様に行っているようなので、ヴィッセル様のお小遣いで遊べますわよ。」
ヘランちゃんがにんまりとした顔で誘惑してくる。
王子様の婚約者のマリアナちゃんからの手紙は私も読んだ。
王子様が王都でするはずだった式典とか、接待、それに書類作成に認可。マリアナちゃんが手伝う羽目になってしまって、仕事が増えすぎてこちらに遊びに来れない恨み言がつらつらと書いてあった。
手紙が来た時には王子様をなじっていたし、マリアナちゃんも可愛そうだけど、だからと言ってミル君と離れて王都に行くなんて…。
「アマねぇちゃん。王都に行こうよ。」
ミル君に誘われた。
ええ、行きますよ!地の果てでも海の底でも!!!
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結局、『猫の帽子屋』はコレットさんと、ずっと護衛をして店の手伝いをしてくれていたエキシナさんに任せてミル君と一緒に王都に行くことになってしまった。
先にミル君を篭絡されたら、行かないわけにいかないじゃない!
「王都の武器屋を見てきませんか?よければ鍛冶屋も紹介しますよ。勉強になりますよ!」
ヘランちゃんの言葉にミル君は1も2もなく乗ってしまったらしい。
ミル君は勉強熱心だもんね。仕方ないよね。
ヘランちゃんの策士めっ!
こうして、王都まで行った先でダンジョンから貰った指輪をきっかけに新しい物語に巻き込まれてしまうわけだけど…。
それはまた、別のお話。
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ご愛読ありがとうございました。
--あとがき--
拙い文章でしたが、お付き合いいただきありがとうございます。
また、ブックマーク・評価・感想・誤字報告などしてくださった方にも感謝いたします。とても励みになりました。
これで、当初に書き上げていた12万字ほどの物語は終わりです。
ただ10万字をめざして思いつくままに書き殴ったものを手直ししながらあげていましたが、倍以上の長さになってしまうとは思ってもみませんでした。
1話が300字しか無かったりと元がひどかったので少しは読みやすくなったと思いますが、キャラ付けが甘かったり、会話が少なかったり、接続がおかしかったり、フラグ管理が下手だったりと、反省する点が多々あります。
もう1回書き直したい…。
最初の考えではもっとユルく、勇者と女神と武器屋の女将でゆるゆるとダンジョン攻略しながら、どうやって武器を売って行くかってワイワイガヤガヤの話だったのに…。
オマケでチョロチョロするはずだったミル君がいつの間にやら大きな存在になってしまいました。
なので、ミル君が活躍できていないのですよね。
登場させようとすると普通の1日になってしまうし。いや、イチャイチャしても良いんですけど。
ヘランちゃんとマリアナちゃんとの大冒険の第2部『魔王様のお城編』とかミル君が主役の外伝『武器屋の息子様』とかプロットを作ってちょこっと書きましたが、今までの文体自体を変えたいこともあって筆を置くことに決めました。
ちなみに、ミル君とはあんまりイチャイチャできないのですよね。クールミル君。
そんな事を考えて、風呂敷だけ広げてしまった場所もあって申し訳ありません。
私も正直、名残惜しいので機会が有れば書きたいです。
そうしてまで文体を変えた結果が『裏路地占い師の探し物』なんですけどね。
上手くいかないものです。
アマネとミル君では少なかった会話を、ヒョーリとジルとで和気あいあいと進めていけたらいいなと思っています。
できれば、ヒョーリとジルの物語も見てやってください。
長くなりましたが、この物語を見つけてくれてありがとうございました。
いつかどこかで、また読んでもらえることを願って。
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