玉
--玉--
あらすじ:ダンジョンに奉られている玉で意見が分かれた。
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「やーよ。」
私が異を唱える。新しいダンジョンの攻略なんてする気なんてない。
今でも1つ攻略しただけの名声は手に入るし、ホアード様の庇護も受けられるから、メリットが無い。
それに、ユーハイムの街のダンジョンが無くなると生活していけなくなるし、新しい街でダンジョンを攻略するために、ミル君と離れ離れになるなんて考えたくもない。
「やーよ、ってオマエ!ダンジョンが壊れて困るのはオマエだろう?」
「そもそも、このダンジョンはまだ壊れていないのだから新しいダンジョンを攻略する理由にはならないわ。何なら他のダンジョンの物を壊せば良いじゃない。」
「しかし、ダンジョンなどそう数が有るわけでも無い。ましてや他への影響が少ない辺境のダンジョンとなると情報も少ないから、攻略するのにどれだけかかるかもわからん。ここのダンジョンなら直ぐに結果が解るし、次に攻略するのも情報が多い街のダンジョンを使うことが出来る。」
王子様は熱弁する。この街に住んでいる訳でもない彼にとって、ユーハイムのダンジョンも他のダンジョンも同じような物なのだろう。
それに、ここのダンジョンだけが盛り上がりユーハイムが発展し過ぎるのは、貴族をまとめる立場としては良くないのかもしれない。
「だったら、他の街のダンジョンで壊せば良いじゃない。途中まで攻略されている街で壊すのよ。」
「オマエの街のダンジョンが壊れるかも知れないけど試させてくれと、俺に言えと言うわけか?」
王子様がキレかけている。
「まさに今、言っているじゃない。」
「ええい!話にならん!俺の命令だ!台座から玉を外せ!」
王子様がキレた。だから俺様キャラって好きじゃ無いのよね。王子様が連れてきた兵士たちと他数人が台座の方に向かう。
「お待ち下さい!」
今まで静かだったヘランちゃんがその兵達との間に立ち塞がる。慌ててご子息様もヘランちゃんを守るように走り出す。
ユーハイムの街の兵士もヘランちゃんとを護るように位置取って、2つの兵同士で争いが起こる格好になって行く。
「どけ!」
「ヴィッセル様。この街には自治権が有ります。いかに王子と言えどこの暴行はいかがでして?領主に確認くらい取るのか筋では無いかしら?」
「また、ドラゴン退治をしろと言うわけか?」
各階の白い大猿や、牛頭馬頭などは何度も復活していることが確認されている。
「復活する前に戻ってくれば良いじゃ無いのですか。それが出来るアマネ様の転移の魔方陣がありますのよ?」
「ここは俺の国だ。俺が決める!ダンジョンなどいくらでもある!」
「横暴な!せめて、ここに転移の魔法陣を置いてここで研究してくださいまし。」
お兄ちゃんのご子息様に任せて置けば良いのにヘランちゃんは頑張った。筋は通していても王子様は話を聞く気もないようだ。
やっぱり、女の子では言葉の重みが違うのだろうか?
「ふう、仕方ない。」
私はため息を吐く。
「ヴィッセル様。私は平和な国を願いましたよね。」
「それとこれとは別だ。」
一発触発で争いが起きそうになっているのよね。
「貸しが有りましたよね。」
「何の話だ?」
「このダンジョンの攻略を始める時に言ったわよね。『貸しにしてあげる。』って『高いわよ。』って。」
ダンジョン攻略を始める前にちゃんと約束したのだ。そしてそれは時間が有ったから、ちゃんと正式な文書として残してある。
それも、ご子息様とヘレナちゃんという領主様の子供が立ち合ってくれて文書にしたのだ。
あの球を壊したくない2人は確実に味方になってくれるよね。
「いや、それはだな…。」
「高くても良いって言っていたじゃ無い?」
「金品で補うぞ?」
「私が金品で動くとでも?」
王子様は黙ってしまった。
お金で動かない訳じゃ無いけどね。お金はこれから魔道具を売ればいくらでも入って来るようになるんじゃない?
「安いと思うわよ。訳がわからないモノを諦めるだけで、ユーハイムの街が敵対しないし、税収も上がる。そして、私が敵対しない。」
「いや、オマエに力が集まるのもどうかと思うのだが。」
そうか、ユーハイムの街より私を危険視していたのか。村娘Aに大層な事で。
「でも、貸しは貸しでしょ。借りたのでしょ?返して貰うわ。」
「くっ。」
王子様の『くっ』頂きました。
俺様キャラの呻きがこれほど気持ち良いものだとは!
人の弱みに付け込んで優位に立ったと言う実感がわくよね。
それではもう1押し。
必要ないかも知れないけれど、きちんと諦められる理由を作ってあげよう。『約束』だけだと王子様の落ち度にしかならないしね。みんなが納得できるようにしてあげよう。
魔道具のショートソードを抜いて構える。
大剣なんて普段から使うのには面倒だからね。スタンロッドとカマイタチの魔法の杖の小型版を載せている。カマイタチの杖が下草を刈る時にすごく便利なんだ。
「あなた達も従ってね。じゃないと、私はあなた達をお家に帰して上げられなくなるわ。」
バスン。
言い終わると同時にカマイタチの魔法で私達の持ってきた転移の魔方陣を壊す。魔方陣は2個あるのだから、まだ帰ることは出来る。
でも、2個目が壊れてしまったら、大した装備も食料も無しにここから帰れない。
オラシオンが居て転移の魔方陣が造れる私以外は。
王子様が慎重だから、しばらくは持ちこたえるだろうくらいの備えは持っているけれど、新しい扉を開くために多めの人数を連れて来ているし、全員が確実に5階の村まで戻るには足りない。
それに、私が完全に裏切ってしまえば転移の魔法陣自体を動かないようにすることができる。
「くっ。」
兵士達全員が呻く。
ガタイの良い男達が青ざめて行く。ちゃんと私のしたことの意味を解ってくれているようだ。よかった。
だけど、もはや私が悪役である。
良いかも知れない。
ちょっとゾクゾクする。
兵士達が武器を落として降伏した。すでに王子様の命令なんて聞くことが出来ないだろう。
「わ、解った。諦める。諦めるよ。」
王子様も降参した。
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次回:ダンジョンの『贈り物』




