新しい扉
--新しい扉--
あらすじ:ドラゴンをお持ち帰りした。
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結局、新しく出現した扉を開くのは5日後になった。
例のごとく、ドラゴンの遺骸を街に届けてお祭り騒ぎになっていたんだよね。
それに、24階、25階と新しい扉を開くと毒の霧が立ち込めていたり、ドラゴンが待ち構えていたりしていたので皆が慎重になっていた。
扉を開くと中は薄暗く、小さな機械的な明かりがわずかに灯っているだけだった。
あまり広くない。理科室ぐらいかな。
オラシオンのライトに照らされた部屋の中央には祭壇のようなものがあり、黒い台座にはバスケットボールくらいの大きさの赤くて丸い石が鎮座していた。
「何だ?ここは?」
オラシオンで安全を確保して中にみんなを招き入れた時の王子様の感想がそれだった。
トラップも無く、モンスターも居ない。財宝も無く、誰も居ない。ただ、丸いボールが飾られているだけ。
でも、ここがダンジョンの最後の部屋なのだろうか。他へと続く扉なんて無いし、帰還の魔法陣もない。
「財宝でも有ると思った?」
丸いボールは変わっているけどとても宝物には見えない。
「さてな。だが、ここが最後なら、ダンジョンをクリアした真っ当な証くらいは欲しかった。かな。」
私の問いかけを王子様ははぐらかす。
ヘランちゃんもご子息様も辺りをキョロキョロしながら感想を言っている。
「何にも無い部屋ですわね。帰還の魔方陣も無いのね。」
「ここから、元来た道を引き返すのは辛いですね。まあ、僕たちにはアマネの転移の魔方陣が有るから良いけどね。」
王子様は台座の周りを観察し始めた。とは言っても特に文字とかは書いて無いように見える。
「そう言えば、なんたらの国の勇者様の時はどうだったの?」
王子様がドラゴン退治の時に言っていた話を思い出して聞いてみる。
「インディジアの勇者の話か。倒してお仕舞いだったと思うが。オクタは知ってるか?」
「いえ、インディジアの勇者のドラゴン退治の話は知っていますが。倒して物語は終わりだったと思います。」
ヘランちゃんは知らなかったけど、王都ではお芝居になったりしていて男の子には有名な話らしい。
「他にはダンジョンを攻略した話は有りませんの?」
「全部似たような話だったと思うな。最後の守護者を倒してお仕舞い。その守護者の使っていた武器や防具が伝わっていると言う話は聞いたことがあるがな。」
ドラゴンがその守護者ってヤツだったのかな。
「ふーん。それじゃこれで冒険は終わりね。」
少し締まらない終わり方だなと思いつつも、現実はこんなモノかとも納得した。
「そうだな。取り敢えず、このモニュメントだけでも持って帰るか。」
「あ、それは反対!」
私は即座に反対する。
「何故だ?」
「祭壇を壊すのは良くないと思うもの。」
ゲームとか小説だと祭壇や、コアを壊すとダンジョンも壊れる事が良くあるよね。あるいは裏ボスが出てくるとか。
「これが祭壇か?誰も奉っている気配が無いぞ。それに、こんなものを持って行った所でダンジョンが壊れたりはしないだろう?それよりもダンジョンを攻略した証になりそうなモノは持って帰りたい。」
「そうですよ。こんなに立派な建造物がたかだかボール1つで無くなったりしないでしょう。」
王子様とご子息様が持ち帰り派に回った。
「それって大した価値も無いって事でしょ?」
「こんな所に在るようなモノだから持ち帰って研究すれば、何か変わったモノかも知れないぞ。新しい鉱石の可能性もある。聖剣が造れるかも知れないぞ。」
諦める気は無いみたいだ。
「なおさら、ダンジョンの心臓みたいな役割をしているかも知れないじゃない。ダンジョンの不思議な現象はたくさん有るでしょ?」
ご子息様が少し考え込む。
ダンジョンが無くなって1番困るのは彼だ。ユーハイムの街はかなりダンジョンに依存している。肉や野草の食料品に、毛皮や油、それに薪なんかの生活用品。特に雪が降る冬は無くなると生活が出来なくなる。
「確かに、万が一ダンジョンが無くなったりしたら困りますね。そう言えば、歴史的にも攻略と同じ時期に消えたダンジョンの噂が有ります。持ち帰らずとも、転移の魔法陣もありますし、ここで研究させればよろしいのでは?」
「たかだか玉ッコロだろ!」
王子様がイラついた様に怒鳴る。
「それでも!ダンジョンが無くなれば沢山の民が生活に困ります。」
「だが、仮にダンジョンが無くなればモンスターの氾濫に脅える事は無くなるのだぞ。今この時を逃せばダンジョンを壊すことは永遠に出来なくなるかも知れないぞ。」
ごく稀にダンジョンからモンスターが氾濫して街や村が壊滅する事が有るらしい。大聖女オヨネ様はその氾濫を防いだと言われている。
「確か定期的にモンスターを狩っていれば氾濫しないと言うお告げが有ったじゃ無いですか?何か有ってもアマネが居ればまたここまで来ることが出来る。」
「アマネが居なくなったら?年老いたら?勇者が現れるなんて行幸この国が出来てから初めての事だぞ!」
「そ、それは確かに。しかし転移の魔法陣をここに置いておけばいつでも来ることが出来ます。」
「この玉は持って帰って研究をさせる。それで良いな。ダンジョンの新しい事実が判明するかも知れないぞ。」
「それでダンジョンが崩れた場合の保証はどうなるのですか?今はアマネのおかげで特需が有りますし、当家としては莫大な損失に成ります。」
何が何でも持ち帰りたい王子様にご子息様が食い下がる。
「その時は他のダンジョンを攻略して補填に充ててやろう。アマネが居ればどうとでもなる。」
「やーよ。」
ミル君と離れて他の街で何か月も暮らすのは絶対に嫌だ。
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次回:ダンジョンの『玉』




