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武器屋の勇者様 ~ 祝福を受けたハズの女子高生の空回り奮闘記  作者: 61
1章:森の恵 ~飢えなくするために~
9/93

春の祭

--春の祭--


あらすじ:チートなんて無かった。

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ここ、ユーハイムの街は恵まれている。


山合に有るにも関わらず大きな川が流れているし、森からはスライムの恵みが流れて肥沃な平野が広がる。平野は畑として使われ、山裾の森と共に雪と大地の恵がもたらされる。背後に迫る山々は険しく外敵を寄せ付けない。雨も太陽も過不足なくもたらされる。


天然の要塞に囲まれているので高い塀もなくちょっとした高台に上ると遠くまで畑が見渡せるのが気持ちがいい。


何よりも特筆する点は、ダンジョンが有ることだ。


たとえ平野が不作となっても、ダンジョンは独特の生態系を持って居るので、ダンジョンの恵みを得ることができる。


雪が降るこの地方では、冬の間に近隣の村々から出稼ぎに来た人がダンジョンに潜るらしい。


何が言いたいのかと言うと、雪解けのこの季節は半農冒険者の人達は村々へ帰ってしまって武器屋のお客が減ると言うことである。



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雪が融けた場所がぬかるんでいる。暖かくなってきた証拠だ。


この時期、街への出入りが(はげ)しくなる。


雪に閉ざされていた街道が馬車でも通行出来るようになり、街へと商人が入って来るようになる。


商人は香辛料や布を持ってきてはダンジョンの肉や毛皮と交換していく。


反対に冬にダンジョンに来ていた半農冒険者は畑作業をしに村へ帰って行く。


半農冒険者は村に帰る前に商人達から生活に必要なものを買いつけると、この街の人達との別れを惜しんで宴会をする。冬の間に取ったお肉も荷物になってしまうため不要な分を大盤振る舞いしてくれる。


そうこうしていると冬の間に王都に出ていた領主様が街に帰って来て騒ぎはいっそう大きくなる。王様へ無事に年貢を納めた事を祝い、今年の豊作を願い皆を激励する。新しい年に新しい芽吹きに祈りを捧げる。


浮かれ(なげ)き、歌い笑う。街は別れのお祭り騒ぎだ。


街へ入ってきた商人たちが出店を行い。他の街の味を教えてくれる。


このお祭りの隣でお湯に土魔法の塩を入れただけの塩スープはキツかっただろう。森の恵み様々だ。蛇様も美味しゅう御座いました。



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ミル君と市場を覗きに行く、買える訳でも無いけど市場に何があるかどんな値段なのか調べている。人々の噂話も耳に入ってきてマーケティングにはちょうどいい。


商売をする上で市場調査は必要だろう。


『猫の帽子屋』以外の武器屋もある。布屋、毛布屋なんてのも有る。布も毛布も結構高い。


ユーハイムの街では布も毛布もほとんど生産していない。毛皮が有れば事足りる。布は贅沢品。でも、布の服を着ている人が多いんだよね。軽さが違うからかな。



ミル君に手を引かれて市場を歩く。


美味しい香りが風を漂ってくる。


この匂いはトマトとお肉様のコラボレーション。トマトスープの酸味の効いた香りがする。そして温野菜の温かみのある甘い香り。ジャガイモに人参、ブロッコリー。ああ、お味噌を少し混ぜてコクを出したらさぞ美味しいだろう。バターでも良いだろう。


おなかが鳴る。


次に漂うのは香ばしい鳥のお肉様と醤油の焦げた香り。醤油だけだと少しトゲが有るから砂糖を混ぜて甘辛くしたい。焼き鳥も良いな。ネギ間にしてお肉の辛味とネギの甘みのコントラストも美味しいよね。


ここの屋台は丸々焼いていた。香ばしい皮とホックりした鳥肉も味わいある。何よりまるまる焼いた肉を食べるという贅沢。ああ、ヨダレが出そう。


おなかが鳴る。


お肉様への邪念を振り払っていると、魚の香りがしてくる。ユーハイムの街の近くには海がないので川魚しか取れない。そして保存が効かない魚は入ってくることが少ない。


でも、この匂いは西京焼きか。海の魚でも保存が効く状態で持ってきているかもしれない。白味噌に酒か酒粕が混じっているのだろう。豊かな香り。少し味噌が焦げる香りがまた素晴らしい。


ヨダレが垂れた。


安く売ってくれてはいるけれど、手持ちのお金が無い。


気を引き締めよう。迷子になった実績もある。


もう、この手は離さない。家に帰れなくなってしまうから。



もう二度と屋台の匂いに釣られない。



市場に陳列(ちんれつ)されている食材も(にぎ)やかだ。その昔、聖女と呼ばれた人が食料改革を行ってくれたかららしい。食の大聖女オヨネ様。どう考えても同じ世界の人だと思う。


先ほどのジャガイモやトマトに加え大豆やゴボウなんかもある。もちろん元の世界と全く同じとは限らないし、どれも乾燥か塩漬けにされて日持ちするようにしたものばかりだけど。それっぽい。


醤油や味噌が有るのがありがたい。今はまだ買えないけど。見てるだけだけど。懐かしい味があると言う事実が嬉しい。


いつか、買いたい。


輸入品価格だけど手が出ない金額じゃない。浄化の魔法があるので菌が繁殖しにくい事も保存性を高めてくれている。


まぁ浄化の魔法のせいで、味噌を買って大豆を追加して発酵させるのは難しいかも知れない。


遠い国の珍しい物もちらほら有る。香辛料や砂糖も売っている。かなりお高いけど。


見てるだけ、見てるだけ。



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雪が全て無くなる前に街は静かになった。


半農冒険者は村に帰り、行商人はダンジョンの品を仕入れて旅立った。


大きな広場がガランとしている。


「行商人はダンジョンの品を手に入れるために時々来るよ。」


ミル君とガランとした広場を歩く。

今度は味噌と醤油が買えます様に!



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次回:お店紹介『猫の帽子屋』



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