ドラゴン
--ドラゴン--
あらすじ:25階にはドラゴンが居るらしい。
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ドラゴン。
この世界でのドラゴンは神話の中に居る。彼らは火の神様に魔法を与えられ、長い年月を経て魔法の基礎を作ったと言われている。
何千年をかけてドラゴン語を作り、何万年もの間生き続け、森の人に魔法を教えながら静かに暮らしていると伝えられている。
今では人間とエルフが不仲になったので、ドラゴンとの関係も途絶えてしまって、神話やお伽噺の類いとしてしか登場してこない。
その伝説のドラゴンが目の前に居る。
「ドラゴン殿!私はモノストーン王国、第1王子、ヴィッセル・ウェブ・モノトーンズと言う。少々お話をさせていただきたい。」
ドラゴンの真ん前。
私と王子様とオラシオン、2人と1頭でドラゴンと話し合いをするために近寄った。
静かに眠るドラゴンはメチャクチャこわい。
でかくて赤いトカゲが静かに横たわっている。
私とオラシオンは王子様の護衛役になる。
本当は来たくなかったんだけど、イザと言うときはオラシオンのバリアで王子様を護るためにお願いされた。
これ以上の護衛は無いよね。
大人数で押しかけたらきっと警戒すると思うし、そしてオラシオンのタンデムで逃げるには他の人は邪魔になる。
オラシオンが動いている時には広いバリアも張れない。
ドラゴンがどれほど強力だとしても、女神様印のバリアなら中々破れないだろうし、伝説の中では森の人と共存するような生き物だ。いきなり争いになんてならないよね。
ドラゴンが気づいて鎌首を上げる場所まで、王子様と一緒に歩み寄った。他の階層の守護者達が攻撃するようになる距離まで近付くことが出来た。
これ以上近づけば攻撃されるかもしれない。
昨日の作戦会議ではドラゴンとの戦闘と言う話には成らなかった。
なにしろ魔法を作った存在そのものだ。その叡智を引き出せないかと言う話以外には出てこなかった。森の人と同じようにドラゴン語を学ぶだけで暮らしは便利になり、他国に対しても優位になれる。
まさにホアード様が目指した世界だ。
私としてはドラゴン語を自分で教えなかった程度にはドラゴン語が拡がって欲しくはない。
ホアード様の言うように苦労している人々を助ける魔法が有れば良いとは思うけど。それで戦争になりそうな話はごめんだ。
魔法が使える森の人がどんな暮らしをしているか解らないけど、今やっている狩りなら負傷はしても治癒の魔法で助かることが多い。
人が消し炭になるような大魔法ができれば治癒の魔法も意味は無いだろう。
ドラゴンが魔法を教えてくれるか解らないけれど、少なくとも話し合ってダンジョンをクリアできるようにしたい。
せっかく、みんなで攻略してきたのだから。
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25階の鉄の扉の中は薄暗い空間が広がっていて、体育館が10個くらいは入りそうだった。あちこちにかがり火が焚かれ、神殿の中に居るような柱や彫刻が並んでいる。
正にラスボスの部屋と言った雰囲気の空間だ。
ドラゴンの赤い鱗はかがり火にゆれテラテラと怪しく光っている。鋭い爪は黒く、あるいは眩しいほど光を反射する。
持ち上げられた鎌首は離れていても見上げなければならないし、金色に光る瞳が私達を値踏みするかの様に見下ろしている。
グルルルル。
近づいた私達を警戒するように喉を鳴らし腕を一歩前に出す。
ドスン。
王子様もまた一歩前に出て、危害を加える気が無いことを示すように腕を広げる。
「ドラゴン殿!まずは話がしたい。私達はこのダンジョンを登ってここまで来た。ドラゴン殿がどうしてこの場所に居るのか教えてもらえぬか?言い伝えでは森の人と共に暮らしているのではなかったんだろうか?」
グルルルル。
私の耳にも言葉のようには聞こえない。ドラゴン語を作ったくらいだから言葉は話せると思うし、女神様の加護で私はこの世界のどんな言葉でも解るハズなのに。
『ドラゴン様。なにゆえここにいらっしゃるのですか?』
ドラゴン語で問いかけてみた。
もしかしたら人間の言葉が解ってないかもしれないからね。
グルルルル。
喉を鳴らして威嚇する音が返される。
ドラゴンは目を細め首を上げる。
『貴方はこのダンジョンを守護してるのですか?』
王子様も突然知らない言葉で話し出した私を見て目を見開いている。
私はドラゴンを見つめたままだ。話し合いで目をそらしても良いことはない。
『言葉は解りますか?』
更に言葉をかけると、ドラゴンの喉が膨れ上がる。
映画で見たことが有る。あれはブレスを吐く前兆だ。
「オラシオン!バリア!」
叫ぶ。
ぼあぁぁぁぁぁあ。
ドラゴンブレスが吹き荒れ、バリアの境界が解るくらいに一面に炎が吹き付けられる。
「王子様!1度逃げましょう!」
「お、おう。」
二段ジャンプでオラシオンに飛び乗り、王子様を引っ張り上げる。
オラシオンの肩に搭載されているライトをつけるとドラゴンブレスが止まる瞬間を狙って反転する。
逃げる。
グギャアァァァア!
ドラゴンは翼を拡げて威嚇すると、大声をあげて立ち上がった。
どう考えても話し合いになりそうにない。
オラシオンを入り口の鉄の門に向けて走らせる。
鉄の門は逃げ道を確保するために岩で押さえをしてあるし、兵士や冒険者が守っている。
「退却する!皆引けぇええ!」
後ろに乗った王子様の怒声があがると、みんなが門の外に逃げてくれる。道が開く。
後は、私達が出てしまえば大きなドラゴンは出てこれないだろう。
オラシオンを走らせながら逃げ切れる事を確信したとき、目の前の床が競り上がり天井まで届く壁になって出口を塞いでしまった。
王子様と2人、ドラゴンの部屋に閉じ込められてしまった。
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次回:閉じ込められた『2人と1頭』
 




