知ってる天井
--知ってる天井--
あらすじ:空から落ちた。
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まぶたを開けると、見覚えのある天井が広がっていた。
木の柱に漆喰の壁、開発室の隣の仮眠室だと思うけど、使わない場所だからはっきりしない。
「あ、アマネェちゃん。目が覚めた?大丈夫?」
気を失う前の事を思い出してると、ミル君が声をかけてくれた。ずっとそばに居てくれたのかな?嬉しいな。
「大丈夫…かな。」
体を起こして動かしてみる。問題ないと思うけど、念のため治癒の魔法をかけておく。
「良かった。心配したよ。」
言葉を返そうとしたら、バタンと扉が開いた。
「目が覚めたのか、大丈夫か?」
王子様だった。
王子様に続いてゾロゾロとみんなが入って来ようとするので、心配ない事を告げて開発室のソファーの方へ戻ってもらう。
というか、けが人の部屋にゾロゾロ入って来るなよ。
服を整えて開発室に入ると、気を利かせてくれた侍女の人が紅茶を入れてくれる。
良い香りがただよう。
目覚めの乾いた喉に熱い紅茶はちょっとキツかったので、口の中に水の魔法をかけて湿らせると熱い紅茶の香りだけを楽しむ。
気遣いを断らなくて良いので気が楽だ。
最近はトイレもベッドの中で済ませる事があるし、魔法が無い生活に戻れそうに無い。
「何だったんだ?あの魔法は?」
王子様が問い掛けてくる。
熱い紅茶の香りを楽しみながら、寝ぼけた頭をゆっくりとまわして気絶する前の事を思い出そうとしたけれど、目の前の王子様の顔が怒っているので急いで聞くことにした。
「どうなったんでしたっけ?まだ、頭が回っていなくて。」
「24階の大鷲を倒した魔法は何だったんだ?」
短い言葉だったけど、やっと記憶が繋がった。
「ああ、カマイタチですか?風を操作して真空を作ると出来ますよ。単体だとこの魔道具ですね。」
部屋の入口の傘立てに入っている10本ほどの中から1本の杖を選んで、壁際に置いていた木製のユキダルマに向かって実演してみせる。
実験で作った物だから威力は弱めにしてある。
ヒュッヒュッっと乾いた音を立てて雪だるまの頬に十字傷が増える。
元々は丸太だった彫像は、度重なる魔法の実験で雪だるまみたいな形にまで削れていた。
「試作品の非売品だから、あげないよ。」
「何でだ?」
睨まれる。
「遠くから静かな魔法で撃たれる。そんな自分の身に起きたら怖そうなものを他の人にあげると思う?」
音がするといっても、強めの風切り音なので、鉄砲ほどの爆音はしない。
「いや、しかし、あれを使えばもっと楽に倒せただろう?」
「大鷲も自分たちで倒せないと今後に不安が残るでしょう?それに、王子様が死ぬことを恐れなくても、その子供は?奥さんは?更に言えば子孫は?広まってしまうと抑制出来なくなるのよ。私は怯えて暮らすのはイヤだからね。広めないよ。」
今回の戦いで、冒険者の1人が連れ去られてしまったので後悔はしている。でも、カマイタチの杖を広めたくないと決めたのだ。
王子様からすれば、私だけ良いオモチャを持っているようで気分が悪いだろうけど、私だって自分の身を護れるものを手元に置いておきたい。
「あんなに無造作に置いておいたら盗まれるだろう?」
「一応いくつか仕掛けをしてあるんで、盗まれたら動かなくできます。」
オクサレ様の魔導書から魔方陣を消せば動かなくなる。実験済みだ。
だからと言って広める気は無いけど。万が一私が動かなくした時に危険が迫っていてどうしても必要だったなんて事があると寝ざめが悪くなる。
「じゃあ、あの空を走っていたのは?」
「2段ジャンプのブーツね。いつもオラシオンに乗るときに使っていたじゃ無い。」
「確かに変な動きだったが、オラシオン殿の力だと思って居たぞ。あの馬は変な動きをするだろう。」
そんなに変な動きはしないと思うんだけど。私が普通の馬を知らないからかな。
「あれも非売品ですね。2段ジャンプのだけのつもりで作ったのに空を走れる様になってしまったんですから。今日みたいに魔力が尽きたら落ちてしまうんですよ。怖くて人には譲れません。それに簡単に2階から出入りできちゃうんですよ、防犯のためにも譲れません。」
2段ジャンプが出来るように魔力を通した時だけ空気を固定して反力を発生させる事が出来るようにしたけど、同じ要領で3段、4段でもお構い無しに空を蹴れるようになってしまった。
考えてみれば2段ジャンプだけしか出来ないゲームの方がよっぽど複雑に作ってある気がする。
ブーツが無いとオラシオンに乗るのに苦労するから使っているけど。
「私の事はもう良いでしょう?あの後どうなったんですか?大鷲に捕まった人は無事なの?」
大鷲にちゃんとトドメを刺せたのか判らないし、冒険者の方も怪我までは確認できていない。
「大鷲は無事倒すことができました。攻略班が近付いた時には、すでに事切れていましたので、後は大鷲を解体して運んだり、武器の回収をしたりと言った所ですね。ああ、大鷲に連れ去られた彼も無事です。アマネ様に後日感謝を述べたいと言っていました。」
ご子息様が補足してくれる。
「その後は?」
24階をクリアした王子様が25階を見に行かない訳がない。ため息を吐きながらご子息様が続ける。
「はぁ、25階を見に行きました。そこには大きな扉がありました。」
「扉?迷路とかフィールドとかじゃ無くて?」
「ちょっとした広場に我々の3倍位の高さでしょうね、黒い鉄の扉が有って何とか開けたんですが…。」
ご子息様が凄く言いにくそうにしてる。
「開けたら?」
「ドラゴンがいました。」
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次回:『ドラゴン』に挨拶を。




