冒険者
---冒険者--
あらすじ:冒険者の1人が大鷲にさらわれた。
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「王子!出るわ!」
双眼鏡を投げ捨てて、私は王子様に1声かけるとオラシオンに2段ジャンプで飛び乗る。
大鷲はすでに冒険者を爪にかけたまま空へと飛び上がって行ってしまっている。
深く考える事もなく飛び出してしまった。
王子様の護衛なんて事を隊長さんから言われてたけど、頭から抜けていた。
なによりも、今までの攻略で死人は出ていないし、今回も出したくない。その想いでいっぱいだった。
大鷲とは距離も空いているし、砂壁もトンネルの魔道具もある。王子様を気に掛けなくても、近くにいる護衛の人がどうにかしてくれるだろう。
オラシオンを走らせながら私は括りつけていた『ぼくのかんがえたさいきょうのぶき』を抜く。
軽量化しているとは言え大剣だ。重たい。だけど、投げつけるために抜いたワケじゃない。
飛んでいる大鷲相手に、飛べないオラシオンでの突進攻撃には使えないけど、内蔵した魔法の杖は使える。
大剣には有名な魔法学校の生徒が持つような、短い杖を指し込めるスロットが5つ付いている。
お馴染みのスタンロッドを杖状にした雷の杖。真空衝撃波が撃てるカマイタチの杖。新しく付けた塩水を散布できる海の杖。
それに空いたスロットには魔晶石の杖を差していて、他の杖の魔力が無くなった時に補給できるようにしてある。
オラシオンを加速させ続ける。
もう少しで魔法の杖の射程に入るはずだ。
大剣を横に構えて、勢い付けに叫びながら魔法の杖を作動させる。
「カマイタチ!」
大剣に内蔵させた杖の魔方陣が起動して、真空の刃が大鷲を狙う。
まだ、距離が離れていて届かない。
焦る気持ちを抑えて大剣を構えなおす。オラシオンの背中は揺れないので、狙いが定まりやすい。
「カマイタチ!カマイタチ!」
2撃、3撃と大鷲の体を狙って打つ。叫ばなくても撃てるけど、叫ばないと落ち着かない。
間違っても捕まってる冒険者に当たらないように気を付けなければいけない。
私の叫びとは裏腹に、大鷲はくるりと避けてしまう。ああ、クソ!
「カマイタチ!」
大鷲の行先に飛ばした大剣の魔法に、とうとう避けきれず大鷲は首から血を吹き出した。
「カマイタチ!」
でも、まだ終わらない!冒険者を掴んだ大鷲の脚を狙ってもう一度打ち込む。
冒険者を助けなければ!
動かなくなった大鷲の脚はアッサリと切れて冒険者が落ちてくる。
そのまま落ちてしまえば助かるような高さじゃない。
「オラシオン、跳んで!」
もちろんオラシオンに飛ぶ機能なんて無い。オクサレ様は布教の邪魔だと飛ぶ機能を付けてくれなかった。
だから跳ぶ。
彼はヒヒンと一声上げると脚をしならせ大地を蹴ってできるだけ大きく跳んでくれた。
私の意図をすぐに汲んでくれるけど、まだ足りない。全然足りない。
見ている間にも冒険者は空から落ちてくる。
彼に届かない。
私は大剣を捨ててオラシオンの背に立ち上がると、彼の跳躍が最頂点に来た頃を見計らって跳び上がった。
オラシオンで足りないなら、私が足してやればいい。
そしてもう一度、空中を蹴る。2段ジャンプ。
もう一度蹴る。3段ジャンプ。
空を駆ける。
冒険者を視界に入れて、彼に治癒の魔法をかけながら、ブーツにも魔力を込めて空を駆ける。
魔力が魔晶石を動かして、何もない場所に空気の足場を作る。
蹴り飛ばす。
冒険者を捕まえると息をしている。
良かった。
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後は、地面に降りるだけ。
というか、降りる方が自信が無い。
2段ジャンプのブーツだって跳び上がれるだけだ。
当然、落下耐性なんて便利な物はない。
出来る事は空中を蹴り続ける事。
2段ジャンプの魔道具になっているブーツで空気を空間に固定させて反力を得られる。
一瞬だけ出来る足場にとどまることはできない。
冗談半分で考えた降りる方法を実践するしかない。
空中を蹴る回数を減らせば安全に降りられんじゃないかな。はは。
冒険者を抱き込むと、大気を蹴る。
掴みなおすほどの暇はない。
いつもはしっかりと踏みしめた感じがするのに、今は泥を踏み抜いた程度の力しか脚にかかってくれない。
重量オーバーしている。思ったより減速しない。
自分の体重の分しか考えて作って無いのよ。誰かを抱えて跳び上がるなんて考えていなかった。
せめて、ミル君をお姫様抱っこして跳び上がる事でも妄想していれば!
3個ずつ付けていた魔晶石の魔力も、冒険者の所まで跳び上がるために減ってきているはずだ。
確認したいけど冒険者でブーツは見えないし、もしも足りなかったら絶望しかない。
どうせ蹴り続けないと墜落してしまう。
目を瞑って2段ジャンプのブーツを作動させ続ける。
上手くいくか判らないけど、魔晶石に魔力が充填されるように魔力を送ってもみる。
脚が宙を切りスカッと音が聞こえた気がする。
寝ている時に脚を踏ん張って空を切るそんな感じ。
とうとう魔晶石の魔力が切れたのだろう。2段ジャンプの魔道具自体、魔力を多く使用する。
だから、3つもの魔晶石に変えていたんだし、こんな風に空中を駆け回るなんて想定していない。
突然、足場が無くなって体勢が崩れる。
ダンジョンの薄ぼやけた天井が見える。
ドカシャン。
脚が崩れて、背中から落ちる。
下は大岩で、そして腕には大柄な冒険者を抱えて居たからサンドイッチになった。
体の中の空気が一斉に搾り取られると、私は意識を手放した。
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次回:生きているから『知ってる天井』
 




