チート
--チート--
あらすじ:人間はロクでもない。
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お仕事のナイフが研ぎ終わった。
ミル君に出来上がりを確認をしてもらったら、新しい魔法の訓練を始める。
魔方陣を書いた羊皮紙をじっと見つめる。こういう時は仕事が少ないっていいね(涙)
コレットさんもミル君も使ったという、この家で代々使われている羊皮紙に書いてある魔法陣を、見つめて覚える。それは目に焼き付くようにしっかりと覚える。ここがポイントなのだ。
浄化や治癒の魔法は魔法陣に簡単な記号が書いてあるだけだったので簡単だったけど、火・水・風・土の属性魔法の魔法陣は文字列が書いてあるから覚えにくい。
私がジーっと魔法陣を見つめている横でミル君は計算の練習を始めた。掛け算の暗記だ。足し算と引き算で事足りる世界で、さっくりと在庫のポーションの値段を計算した私に驚いてくれた。嬉しいね。
魔法の練習はひたすらに覚えて、覚えて、覚える。文字列だけを覚える難しさと違う、画像を詳細まで覚える感じだ。
この世界の呪文は唱えなくても問題ないけど、魔方陣の内容に合わせて唱えると使いやすくなるらしい。魔法の数も少ないから唱えるのは小さい子供だけだし、恥ずかしいから呪文なんて唱えたくない。
ちなみに、火を操る呪文がこうだ。
「火の精霊よ、我が意思を聞け、我が魔力に合わせ踊れ!」
魔方陣にそのまま書いてある言葉だ。ぜったい唱えない。
お金があるなら魔方陣だけ燃える様にしたスクロールを使うと言う。網膜に焼き付いて使いやすくなると言うことだ。マグネシウムとか塗ってあるのだろうかな。理科の実験でやった覚えが有る。
もちろん私にはお金が無い。使い捨てのスクロールなんて勿体ない。
ちなみに、山の人と言うのがスクロールを考え出して、人間がスクロールの技術を盗んで、山の人と疎遠になる。森のヒトの時と言い…、人間ってやっぱロクでもないな。
「アマネェちゃん、4×7=24?」
「残念、28よ。」
ミル君が尋ねてくる。最初の頃は私の集中を切らせないように気づかってくれていたけど、私が気にして無いのを知って最近は質問の回数が増えている。出来るオンナはツライね。答えを訂正してあげる。
さて、ドラゴンに教えられた属性魔法は何種類かの単語を置き換えて目的に合わせて使う。先ほどの呪文のように単語と文法は決まっているので単語を置き換えて使う。『水の精霊』とか『水よ集え』とかの部分ね。
使えるのは火・水・風・土の4つの属性と『現れよ』『動け』。多少言葉は違っても意味は同じな計8種類。少ない。
しかも全部生活に便利な程度の魔法。
攻撃魔法?無理。無理。
松明の火のところだけ投げつけて狼が殺せるか?
バケツの水をぶっかけて猫が倒せるか?
風が吹いてネズミが死ぬか?
石を投げてゴキブリに当たるか?
現代科学だって火炎放射器に油が使われているから火が燃え移る。焚火で肉をあぶっている時にうっかり落としてしまっても灰が付くだけで燃えないように、シンプルな火だけじゃ簡単に燃えないのよ。
高圧洗浄機程度の水圧じゃお肉は切れないのよ。
石を当てれば攻撃になるかもしれないけど、それなら拾った石を投げつけたほうが早くない?
そんなわけで、この世界に攻撃魔法は無い。まあ、ドラゴンに会えれば解らないけど。
ともあれ、ドラゴン語である。文字であり、文章である。
有りましたよ、チート。
できましたよ、チート。
ふふふふふ。
何度か見た覚えのあるチート。語学に困らないと言う祝福通りにこの世界のどんな文字も読める!女神様に貰った基本セットの効果により、ドラゴン語が解るよ。
『この世界の言葉が読み書き出来るようになる。』
ドラゴン語にも有効だったよ。うふふ。習わない単語でも知っているよ。
新しい魔法も創れるよ。
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大魔法?あれはイケない。人間のすることじゃないね。
ここの魔法は魔法陣を覚えて瞳を通じて世界に反映させる事が必要だ。つまり長い言葉にすると、その分たくさん覚えなきゃならなくて、そしてそれを魔法陣として再現しなくちゃならない。
できると思う?完全記憶でも持たないとできないよ。早々に挫折した。
詰まった時は困難の分割だ。攻撃力のあるファイヤーボールにするには、燃料を出して火を着けて、それをコントロールして飛ばさなきゃならない。3ステップ。とりあえず、燃料を出してみよう。
ガソリンはなんか怖いから軽油?いや、灯油から始めよう。で、灯油ってドラゴン語でなんて言うの?詰まった。つまり灯油という概念がドラゴンには無いらしい。そう言えば灯油って石油を精製したものだっけ。
それなら石油を出してみよう。幸い石油はドラゴン語に変換できた。ドラゴンの知識に感謝したい。
石油って水の精霊かな?土の精霊かな?土っぽいかな。
『土の精霊よ、我が意思を聞け、我が魔力を持って石油よ、湧きいでよ!』
うんうん言いながら覚える。そして実践!
…何も出てこない。魔法陣はうまく動いているようだけど…。
「それは、元となる素材が足りないからじゃないかな?鍛冶屋さんが鉄を作る時も素材が必要だって言ってたもの。」
ミル君に教えて貰った。…石油の材料って何だっけ?骨が埋まって化石になって、それから石油になるんだっけ?骨で良いのかな?
この間のウサギの骨はすでにスライムさんのご飯になっているので、お肉屋さんから骨を分けてもらった。変な目で見られた。使えない骨だけ買う人なんていないのよ。
ダンジョンから肉がたくさん供給されているので、骨からダシを取ることが無いので仕方ない。ただで貰えたんだし良かったじゃない。
まぁ、結果として石油は出なかった。なんでかな?
私が頑張って作れたものは一片の氷だけだった。
それも何度も何度も魔法陣を作り直してやっとだよ。呪文を作るたびに覚えなおして発動までできるようにするのは、ものすご~く大変だ。
もうしばらく新しい魔法作りはやりたくない!
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次回:お腹に悪い『春の祭』