合流
--合流--
ダンジョンを攻略するための準備をした。
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ダンジョンに設置した転移の魔方陣を使って、5階の村に辿り着いた。魔法陣に乗ると半日の距離が一瞬なので、ホント楽だね。
待ち合わせの約束通り村で王子様を探す。
居ない。
王子様が居ない。
王子様御一行様が居ない。
何で待っていないのよ!
5階の村を管理しているギルド職員に尋ねると、それらしき集団が村を通過したことがわかった。
泊まらずに進んだらしい。そして、昨日の夕方に8階で立ち往生している集団を見た冒険者が居ることが判った。
10階の転移の魔法陣は、11階へと続く階段の塔の中の帰還の魔法陣の隣に設置してある。
管理はダンジョンの入り口でやっているので常駐している人はいない。
塔の外に出ても居ないし、先に進んでしまったのだろうか?でも先に進んだ様な轍や足跡も見当たらない。
それに、まだ午前中だ。立往生していたと聞いたし、もう少し待ってみよう。
入れ違いになっても困るので、塔の前で待つことにした。この場所なら必ず通らなきゃならないしね。
携帯電話が有ればすぐに連絡がつくのに。
しばらく携帯電話の魔道具が作れないか検討してみる。電波は届かないだろうから転移の魔方陣を応用して、声だけ届くようにできないかな。
女神様に貰った魔導書に魔方陣を書いては消し、書いては消し。なかなか魔方陣にならない。
魔道具を作るのに一番面倒な作業だ。中2病みたいに書く以外の法則が解らないので、どうしてもトライ&エラーの繰り返しになってしまう。
お昼ご飯を食べてお茶を飲む。ホットドッグ美味しい。
のんびりしているとやっと馬車の音がしてきた。
ガッタンゴットンドッタン。
魔導書から顔を上げて見ると疲れた様子の王子様がいた。まだまだ本番じゃないのに、あの様子だと先が思いやられる。
「遅いよー!」
立ち上がって手を振るとビックリしてる。
「お前、どうしてここにいる?」
「5階の村に居なかったので先回りしました。もう行ってしまったかと心配しましたよ。」
「どうやって?」
「転移の魔方陣で。」
「何だ?それは。聞いてないぞ。」
「5日ほど前に開通したんです。冒険者ギルドを通して領主様に報告もしていますが?」
領主様の息子が青い顔をしている。
まぁ、私もわざと言わなかったしね。
ダンジョンの1、2階では安全に交差するだけの幅が無いので、馬車は一方通行にしか進んではいけない。
そして、本来は冒険者ギルドに事前に申請してから通る。上から目線で一方的に通ると皆が困る。あの場で反転してもらっても困るのだ。
だから王子様に困ってもらった。
それに、私を拉致したからね。準備のために時間も稼ぎたかったし丁度良い。うふふ。
まぁ、5階で止まってくれていれば、私も王子様も、もう少し楽だったんだろうけどね。
「帰還の魔法陣と違って、行ったり来たり出来る転移の魔方陣の魔道具を作りました。領主様への報告もしてありますけど、行き違いになったのでしょう。今は10階までしか転移の魔法陣がないですし、今回のダンジョンの攻略に使える新しい物を設置できるように、冒険者ギルドを通して領主様にお願いしてきました。」
「ならば最初に言っておけ!今までの苦労は何だったのだ!」
私の抑揚のない説明に王子様が怒り出した。
「なら、最初から簀巻きにしないでよ!何の準備もさせずにダンジョンに連れて来るなんて、バカじゃないの!?」
怒鳴り返してやる。下手したら死んでしまうので当然だ。
「そ、それは悪かった。お前はダンジョン攻略など興味なさそうだったからな、巻き込めば嫌でも手伝ってくれるかと思った。すまなかった。」
「そのうち攻略しに来ていたと思うわ。」
「嘘だ!王都で話している時にはそんな素振り見せなかっただろう!」
「来年以降の話よ。『猫の帽子屋』の息子が来年12歳になって、ダンジョンに入れるようになるの。その子が攻略者になれば、お店の知名度が上がるでしょ?攻略に使った武器は良い武器に見えない?命を預けるお高い武器よ。信頼出来るお店から買いたいわよね。」
「お、おう。なら、なぜ今回協力する気になった?」
「巻き込まれたからよ。私が協力しなかったらダンジョン攻略は止める?」
「止めないな。俺の事だから余計ムキになって突っ走るな。」
「貴方が攻略に成功すれば、その後で攻略しても知名度は下がってしまうし、失敗した後で私が『猫の帽子屋』の息子を攻略させれば、悪い噂も立つかもしれない。王子様を見捨てた勇者だって噂がね。なら、恩が売れる方がマシなのよ。」
「マシなのか。王子よりも平民の子が良いか?」
「もちろん。ミル君…もとい、『猫の帽子屋』の勇者様だからね。」
「ダンジョン攻略の暁には、勇者の血を取り入れるためにも、オレの嫁に来て欲しいのだが。」
「いやよ。って言うか婚約者が居るでしょ?かわいいのが!嫉妬で生魚出してくるような、かわいい婚約者が!」
「政務の為だ。マリーを第二夫人にしてしまうが、仕方ない。お前らは仲が良かったから何とでもなるだろ。」
「バカじゃないの?」
「王妃だぞ?なりたくないのか?」
「政務の為の道具でしょ?私は恩の為に動くわ。私を受け入れてくれた『猫の帽子屋』のためにね。」
愛でも良いけど。と言うかミル君の愛のためがカッコ良かったかな。
「そうか…ならば、『猫の帽子屋』が有利に成るようにするから協力してくれ。」
「良いの?」
あっさり引かれると、私の価値があんまりなかったように感じる。
「ダンジョンを攻略するのが最優先だからな。結婚はオレがカッコいいところを見せればその気になるだろう。転移の魔方陣が有れば楽になる。すでに攻略の目処は立っているのだろう?」
「21階まではね。その先は情報が少ないから解らないわよ。とりあえず拠点を作りましょう。5階の村に戻って作戦会議よ!」
「お、おう。」
携帯電話が有れば、こんなに待ちぼうけしなくて済んだのに。
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次回:『作戦会議』と言う名のすり合わせ。
 




