根回し
--根回し--
あらすじ:王子様を放って帰って来た。
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王子様には興味がないフリをしていたけど、攻略に興味が無いわけじゃない。せっかくの異世界、せっかくの勇者だもん。
前世ではできなかった冒険には興味がある。冒険者の人に話を聞いてワクワクしたりもした。だから、王子様の興味を引くような話もできた。
何より、このまま武器屋を続けるなら、名声が宣伝に使えると思うよね。ダンジョンを攻略した夫婦がやってる武器屋。知らない武器屋を使うより信頼出来そう。
そして、『猫の帽子屋』もホットドックとファンシーグッズ、それに王様からのご褒美で潤ってきている。お金が入れば私のレベルとやらも上がっていると思うし、『ぼくのかんがえたさいきょうのぶき』もある。
つまり、ダンジョンに行く準備はしてきていた。
独りで行く気はなかったけどね、今回は訓練を積んだ兵士の人が30人もいるのだから。後ろで見ていれば良いんじゃないかな。
それに、今の私には攻略の秘策がある。
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王子様の『誘拐』から逃れて、『猫の帽子屋』に帰ると既に夕食の支度か出来ていた。
コレットさんの作った夕飯を食べながら、今日有った事を報告する。
「でね、王子様からの要望でダンジョンを攻略することになったんだ。」
「何でアマネェちゃんがダンジョンに行くことになるの?あぶないよ。」
「何でも、外国の人とお話しする時に、昔の勇者様の話を出されて王子様の言う事を聞いてくれないみたいなの。」
「うん。」
「だから、ダンジョンを攻略して威張りたいんだけど、心細いから私にも付いて来て欲しいって。」
「『7歳の子に負けた』って話は聞いていないのかな。」
「女神様が勇者だって言ってしまったからね。」
「アマネェちゃんに勇者なんて務まらないと思うんだけど。でも、そうすると今度はずっとダンジョンに行ってしまう事になるの?今までもずっと王都に行っていたからまた寂しくなるね。」
ミル君の寂しそうな顔にウルっとしてしまう。
「大丈夫。いつでも帰って来れるから、王都よりも近いよ。」
そう言って抱きしめようとしたけど、逃げられた。
チッ、良い雰囲気だったのに。
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次の日は冒険者ギルドと交渉するために忙しかった。王子様との約束が有るので今日中に準備しなければいけない。
「こんにちは。おネェさん。領主様に報告したいことが有るんだけど。」
「なによ、私の所に来なくても、アンタなら直接セオのトコに行けば良いじゃん。」
さすが冒険者ギルドのおネェさん。領主様の事を愛称呼びしてるよ。
「今日中に終わらせないといけないし、冒険者ギルドにも関係がある事なので、誰かに引き継いでもらいたいんですよ。」
かいつまんで昨日の事を話す。王子様と領主様のご子息様がダンジョンを攻略しようとしている事。
「そう言えば勝手に通っていたわね。しばらくしたら誰かに様子を見に行ってもらおうと思っていたのだけど。」
「それで、明日から王子様に同行してダンジョンに行くんですけど、転移の魔法陣を活用できないかと思っているんですよ。」
転移の魔法陣、それが私の秘策だ。
「なるほど、転移の魔法陣を進軍と合わせて設置していくんだね。」
「いえ、馬車の中に転移の魔法陣を置いておこうと思います。作るのも大変だし、たくさん設置しても面倒になりそうですし。」
ダンジョンの帰還の魔法陣は石板に魔晶石がはまっていて、魔法陣の形をしている。
私の転移の魔法陣はそれを真似て、クリスタルの板に魔晶石をはめている。
クリスタルの魔法で魔法陣の土台を作るのは魔力をたくさん使うから、しんどいんだよね。
「まぁ、冒険者が変な所に入り込まないように管理するためにはその方が楽だけど。階段とか馬車が入れない所はどうするんだい?」
「後は、王子様に人力でやってもらいます。それくらいやってもらわないと。それより、転移の魔法陣で毎日帰って来ることが出来るので、兵士の人をどこかに泊まれるようにしたいんですけど。」
「30人だっけか。なら、5階の村に泊まりなよ。今の時期なら空いているからね。ああ、王子様とオクタンはセオの家に泊まれば良いだろう。」
オクタンは領主様のご子息様の愛称かな?
半農冒険者の人は村に帰ってしまったので、5階の村なら空いているし、移動の手間も省ける。
「ありがとうございます。その事を領主様に連絡してもらっても良いですか?宿代は領主様もちって事で。」
「何勝手な事を言っているんだよ。それはセオが怒るよ。10階より上のモンスターは滅多に手に入らないから、それらをギルドに回してくれれば良いさ。10階を越える奴らは、大猿の毛皮しか持って帰って来ないからね。」
笑いながらスムーズに話がまとまった。やっぱり受付のおネェさんは仕事が出来る。
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次の日の朝。
ダンジョンに挑む日の朝。
勇者の服に身を包み、いつもの赤い猫耳帽子を被る。
勇者の服は三銃士をイメージして作ってもらった。
上は白いブラウスに黒く染めた皮のチョッキ、そして『猫の帽子屋』の看板を描いた赤いケープ。下は7分丈の赤いキュロットスカートに膝丈の2段ジャンプのブーツ。尻尾も完備。
断じて、長靴を履いた猫の方じゃない。
お店のお金も潤ってきたので、看板娘の衣装を更新したのさ。
コレットさんが店番をしながら作ってくれた。
オラシオンに当面の荷物と『さいきょうのぶき』を積んでミル君に別れを告げる。
「行ってきます。」
いつも通り、帰って着ますと。
夕飯の前には帰って来たいな。
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次回:行き違いの『合流』




