王子様
--王子様--
拉致られた目的はダンジョン攻略らしい。
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隊列の先頭まで行くと、馬車に乗った大量の荷物を下ろして階段の上に引き上げようとしていた。見ているだけでも大変そうだ。
私が近づくと指揮をしていた王子様が驚いた顔をした。構わずに怒りを込めた声で尋ねた。
「こんにちわヴィッセル様。これはどう言う事でしょう?」
王子様の名前は王都でマリアナちゃんが連呼していたので覚えていた。
優しいとかカッコイイとか言っていたけど、私の中ではめんどうくさいオレ様クソ王子だった。なにせホアード様のお孫さんだしね。
ダンジョンの事を根掘り葉掘り聞いてくるくせに、やたらとオレ様目線でけなして来る。
「悪いな勇者殿。乱暴な招待で申し訳ない。ダンジョンを攻略するために勇者殿のお力をお借りたいのだが。」
「乙女を攫っておいて言うことですか?先に言って下されば考えましたのに。」
「『猫の帽子屋』の勇者は国の命令では動かないのだろう?」
「交渉次第です。女神様は私の事情で動いて良いと言っていたでしょう?」
「ならば何が欲しい?言ってみろ。」
平穏な日常が欲しいです。ダンジョン攻略とか印刷機の開発とか要らないです。
そうは言えそうにない雰囲気を出している。
私が戦うことを拒んでいる事はマリアナちゃんからでも聞いたのかな。
王都で王子様と話していても、私は攻略に興味無いスタンスを取っていたから無理矢理拉致してきたのだろう。
「いきなり拉致しておいて交渉が出来ると思っているんですか?まぁ、欲しい物は無いですね。貸してあげますよ、高くしますけど。」
すぐに報酬なんて思いつかないけど、ただで働くのも嫌だ。何か思いついた時にたっぷり返してもらおう。
王子様なら色々と融通が利きそうだし、このまま王様になってくれれば返してもらえるものも多くなるかもしれない。
「ならば力を貸せ。多少の無理は聞いてやる。」
「はっきりしない貸し借りは、あまりしない方が良いですよ?」
そんなにホイホイ貸し借りしていたらマリアナちゃんもさすがに怒るんじゃないかな。心配になるレベルだよ。
「我が国はあまり国際的な発言力が強く無くてな。あちらの国は聖女様が、こちらの国は勇者様が、あちらこちらで手柄を立てている。おかげでいつも譲歩させられるのだ。うちの聖女様のお陰で怪我も病気も気にしなくて良いのだろうと、昔の話を掘り返して来やがる。そこへ来てやっと我が国の勇者様だ。早い内に手柄を立てさせて利用出来るようにしたい。魔道具の女神が|
遣わせた勇者と言うだけでは大した手札にならんからな。」
ホアード様もそうだったけど、説明が長くて暑苦しい。それに王子様は私怨で身勝手に動いている感じがする。
「新しい魔道具の販売だけでも発言力は強くなりますよね?」
「そんなに悠長に待っていられるか!ダンジョンの攻略はすでに3年も前から計画している。勇者がダンジョンを攻略した話はいくらでも有るからな、オマエみたいな弱そうなヤツを連れて行ってでも、攻略できる可能性は少しでも上げておきたいのだ。なに、お前は後ろで震えているだけでも良いぞ。オレ達だけでも十分に攻略できるはずだ。もっとも先ほどの借りとやらは安くなるがな。」
「いえ、もう少し計画を見直して来た方が良かったのではないですか?」
食料と防寒着はあるから21階までは行けるだろうけど、その先まで行けそうな気がしない。
だって、この街では私が『7歳児に負けた娘』だって有名なんだよ。戦力になるとは思えない。
例え、後ろで見ているだけでも、どんな危険が待ち構えているか判らないような場所に、足手まといを連れて行くのだろうか。
それに、転移の魔法陣を設置してあるんだよ。10階までは馬車を人間が持ち上げるなんて面倒な事をしなくても、簡単に行けるのに。
知らないのかな?
「すでに何度も計画を練り直した。」
「私の話だけではなく、現地の冒険者の人の話をもっと聞くとか。最新情報を手に入れるとか。」
「オクタがやってくれているさ。」
そう言うと、領主様のご子息様をちらっと見る。
そしてニヤリと笑うヘランちゃんのお兄さん。
ヘランちゃんのお兄さんも関わっているのに、転移の魔法陣の存在を知らないのか…。
転移の魔法陣はちゃんと領主様に話を通してある。冒険者ギルドのおネェさんがやってくれていたので間違いないだろう。ギルド長より権力有りそうだし。
ギルドのおネェさんがしっかりしているので、設置に関しての領主様のサインが入った書類もあるし、設置の時にはお役人さんが見に来ていた。
もうしばらくしたら領主様が視察に来るって話もある。
それを領主様のご子息が知らないとは…。仲が悪いのかな?
「俺は気が短くてな。元々ダンジョンを攻略すれば多少の箔が着くと思って計画していた所だった。そして今は暴走中だ。そのまま帰れば罪に問われるだろう。だから攻略して帰らねばならぬ!」
熱いなぁ、暑苦しい。このままではマリアナちゃんが可愛そうだ。
「はぁ、解りました。とりあえず用意してくるので先に行っていて下さい。村娘Aのままでは足手まといですから。そうですね。明後日に5階の村で待ってて下さい。」
タメ息と共に、いつもの布の服に皮で継ぎ接ぎされた村娘Aの姿をヒラヒラさせて見せる。
というか、ダンジョンに来るのにショートソードも持ってきていない。せめてスタンロッドだけでも持たせてもらいたい。
もっと言えば、この王子様の隊には男しかいない。女の子の身だしなみを整える様な物は期待できないじゃない。
ぜったい、このままでは付いていきたくない。
だから、それだけ言うときびすを返しダンジョンの入り口に戻って行った。
王子様が喚いているけど無視する事にした。
話が違うって言われてもね…。
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次回:道具よりも大切な『根回し』
本日8時15分くらいから新作をアップします。
1時間に1本で合計10本を予定しています。
『裏路地占い師の探し物 ~勇者の殴り方は占えないんですか?~』
また、貧乏スタートです。




