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武器屋の勇者様 ~ 祝福を受けたハズの女子高生の空回り奮闘記  作者: 61
4章:女神様の道具 ~名前を広めるために~
58/93

道程

--道程--


現実逃避しながら厳しい礼儀作法のお勉強をした。

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ポックリポックリ。馬車は進む。


腰が痛い。今日、何十回目かの治癒の魔法を使っておく。


王都への馬車の中。


シンデレラに出てきそうな立派な馬車の中で、旅装(りょそう)となっているのは動きやすいけど生地のしっかりしたドレスだ。


馬車の中で領主様の娘のヘランちゃんと暇潰しにリバーシをしている。


馬車は揺れるのでリバーシに磁石を埋め込んだ。電磁石を作って鉄に磁性を帯びさせた物を作って、透明な紫とピンクの石の間に白い層を作って埋め込んだ。紫とピンクだと表裏が解りにくかったのもある。


広々と広がる畑の風景も、長く続く川の風景も、遠くに見える雄大な山の風景も、既に見飽きている。最初の頃は初めて見る街の外の景色にはしゃいだりしていたのだけど。…懐かしい。


街を出て雪も早々に見当たらなくなって、新しい芽生えの季節の風景を楽しめた。最初は。


だけど、2週間以上は、ねぇ。流石に飽きる。


一団は急いでいない。中に居る私達を揺らさないように、ゆっくりと移動してくれている。


今やっているリバーシもすでに飽きてる。相手になってくれる護衛の人も侍女の人も併せて15人くらいしかいない。


最初はノリノリだったヘランちゃんでさえ。まぁ、礼儀作法の復習なんかよりずっと良かった訳だけど。


旅団は全部で25人ほどの団体だ。最初は同行していたホアード様も、すぐに飽きたと言って単騎颯爽(さっそう)と駆けていった。相変わらずオレ様なお爺ちゃんだ。見た目は魔法使いなのに。


街から町へ、そして村へ。泊まるのは各町村にある領主様の別邸なので野宿は無い。領主様が毎年王都に行くときに使う場所なのできちんと整えられている。


街の外の世界は平和で、モンスターや野党なんてのも出てこない。治安が良いことは嬉しいことだけど、イベントが無い。ヒマだ。



「アマネ様、ヘラン様。王都が見えてきました。景色もちょうど良いですし、お昼に致しましょう。」


ヘランちゃんの護衛の人が馬車の外から声をかけてくれる。


馬車が止まる。


ヘランちゃんが先に外に降りてエスコートしてくれる。とてもさりげない風を装う感じ。男前だ。


「海だー!」


小高い峠を抜けたその場所から、広い海と大きな街が見えた。これが王都なのかな。


「海の香りがする。」


石造りの都とささやかに香る海の香りを楽しんでいる内に吾妻屋(あづまや)のテーブルにクロスが敷かれて昼食の準備が始まる。後ろでは(しつら)えて有った竈に火が入れられる。


多くの人が休憩に使うだろう場所には、あらかじめ竈が用意されている事が多い。


ヘランちゃんによると、毎年使うから領主様が整備させているんだそうだ。きちんとした炊事場は一般にも解放されている。流通に力を入れたい現れでもあるのだろう。



「アマネ様は海にいらした事があって?」


ヘランちゃんが尋ねてくる。


「私が生まれたのは小さな島国でしたので、割りと海に近い所に住んでいました。」


言葉使いの練習に丁寧な言葉を使う様に言われている。マナーの先生が(にら)みを効かせているけど、さっきのちょっとした大声は見逃してくれたようだ。


「あら、それでは海の幸は食べたことが有るのね。」


「もちろんですわ。魚を生でも食べる国ですよ。」


「まぁ、オヨネ様と同じなのですね。彼の方も生で食べたとの記録がありますわ。」


「同じ国かも知れませんね。お名前の感じからですと、私の国でも古い名前の様ですけど。」


「古い名前なんて有りますの?」


「名前にも流行り(すた)りが有りますよ。最近は特にひどいですけどね。天音なんてオヨネ様の時代には無かった名前だと思います。」


「アマネと言う名前には何か意味が有るのですか?」


(てん)(おと)と言う意味ですわ。風の音、雨の音、虫の声。自然を大事にしましょうって両親が考えてくれたらしいですよ。」


「素敵な名前ですね。でも、その中に女神様の声は含まれていないのですか?」


生憎(あいにく)なことに信仰が薄くなった国でしたので女神様は含まれてはいないと思いますよ。でも、信仰の薄い私が女神様に呼ばれるなんて不思議な話ですね。」


「女神様にも都合が有ったのでしょうね。例えば、他の神様に寄り添っていない人を選びたかったとか。ああ、私も信仰を捨てれば他の世界に行けるのかしら?」


「やめておいた方が良いのではないですか?この世界では神様が実在するようですし。天罰を貰いますよ。きっと。」


「そうですね。ホアード様が見たって言うくらいですし、実際にお会いした時に怒られるのはごめんですわ。」


「その方がよろしいかと。所で、ヘランさんの名前の由来を聞いてもよろしいですか?」


そうこう話している内にお昼御飯が運ばれて来る。久しぶりの香りがする。


「魚介のスープですね!」


先ほどから漂っていたので判っていたけど、目の前に配膳されるとさらに強い潮の香りがする。フワッとした白身の魚と長ネギが見える。


「やっぱり判るんですね。この独特な潮の香りが。王都の別邸から迎えが来てスープを持って来てくださいました。気に入って下さると嬉しいのですけど。」


「取り寄せとは贅沢ですね。この風景を見て、お魚が凄く食べたかったので嬉しいです。」


まるで地中海にでもいるかのような素敵な景色を見ながら、久しぶりの海を幸をふんだんに使ったスープはとても魅力的だった。


昔は魚より肉の方が好きだと豪語(ごうご)していただけに、こんなに魚料理が美味しそうに思えるとは思わなかった。



久しぶりの魚のスープは美味しかった。



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次回:崖の下の『ホワード様のお屋敷』



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