激論
--激論-
あらすじ:ホアード様は思ったより考えていた。でも…。
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「使い方次第でも、簡単に与えられた力はダメだと思うんですけど。」
「どういう事じゃ?」
「便利な魔法は確かに人々の暮らしを楽にするかもしれません。でも、ただで魔法を貰っただけじゃ人は努力しなくなると思うんです。」
募金を貰った人が募金を待つだけになって働かなくなるって話を聞いたことが有る。魔法を貰ったら新しい魔法を待つだけになってしまうんじゃないかな。がんばって森の人に謝れば良いのに。
「苦労させろと?それなら、魔法を覚えるだけでも一苦労だろう。新しい魔法を覚える苦労は良く知っている。」
ああ、ホアード様も、あの言葉を組み合わせて、うんうん言いながら覚えないと発動しない方法を試しているんだね。あれは一生懸命覚えても発動しなかったりするから大変なんだよ。心が折れる。
「それは、新しい魔法を開発しようとすれば、ですよね。新しくても決まった魔法を覚える程度ならそんなに難しくは無いんじゃないですか?」
「老人でもか?年老いてから新しいことを覚えるのはかなり辛いぞ。頭の回転が悪くなるからの。新しい王命が覚えられないジジイがたくさんいるぞ。」
白髪のジジイが言うのか…。
まぁ、年寄りは頭が固くなるって聞くけど。
「けど、若い子はすぐに覚えてしまうでしょう?」
「若い者は苦労しないから、魔法にしたくないと?」
「違います。王様から魔法が貰えてしまえば、次の新しい魔法も待っていれば貰えると思ってしまいます。新しい魔法を作るような努力をしなくなります。」
「それは魔道具でも同じことだろう?新しい魔道具が売られるのを待てばよかろう?」
「新しい魔道具を買うために、お金を稼がなきゃならないじゃないですか。それだけでも努力ですよ。」
「それこそ、貧富の差が激しくなるだけじゃろ。貧乏人は苦労しても、富んだ者は余剰の金を出せば済んでしまうからの。」
「だから、アイディアを出してもらって私が作れば、アイディアを考える努力はしてもらえます。」
「その点は魔法でも同じだったろう?新しい魔法のアイディアを出してもらえば良いだけの話じゃ。それに、結局は魔道具だと作り手のオマエの意志ひとつで世界が決まってしまうじゃろ。」
くぅぅ。ああいえばこういって、全部魔法にしたがる…。確かに魔道具だと私しか作れなくなって人々が工夫する余地が減るけどさ。
「それなら、流通だけ見直せば、かなりの改善がされるのでしょう?流通の為だけに戦火が広がるかもしれない魔法なんて投入できませんよ。」
「アホウ!流通だけだと商人が儲かるだけじゃ。村人たちが搾取されないためにも多くの魔法が必要じゃ!」
さっき、流通が良くなれば色々便利になって援助もできるって言ってたじゃない。おかしいよ。この人。それこそ、王命とやらで何とかしてもらいたい。
「魔法だって使わなくていい人が出るじゃないですか。」
「じゃが、覚えれば全員が使えるようになるぞ。」
「魔道具だって、買えば全員が使えるようになります。」
「ふん。流通だけ見直してどうする?」
「ダンジョンから遠い村の品が売れるじゃないですか。今まで馬車に乗せられる量しか持ち運べないから、作る量も限られていたのでしょう?そう言ってましたよね。」
「確かにな。それじゃ、ドラゴンにでも運んでもらうのか?」
「いや、トラックで十分でしょう?」
「トラックとな?」
ああ、そこから説明しなきゃならないのか。
「馬車2~3台分を馬を使わないで馬車より重たいものを積める魔道具を走らせるのです。魔石なら安く手に入るでしょう?」
「ふむ、異世界の知識か…。それはゆっくり聞かせてもらいたいモノじゃな。よし、それじゃあ、王都に行くぞ。」
「は?」
唐突すぎる。
頭の中ではトラックの作り方を考えてフル回転していたのよ。トラックを作るにしても道路網が無いじゃないかって心配していたのに。
「は?じゃないわ!2度も女神様を降臨させたのじゃぞ。女神様が聖女じゃないと言おうと、人間は聖女と見なすじゃろう。その異世界の知識だけでもじゃな。神殿のヤツらも騒ぐだろうし、王宮で保護するぞ。それで、その間にトラックとやらの話をまとめるぞ。」
「ちょ、あのポンコツ様だよ!オクサレ様だよね!アレの聖女とか冗談じゃ無いわ!」
「『猫の帽子屋』には話はつけておいた。この店はワシが保護するぞ。さすればあの親子は安泰じゃろうし女神様との約束も違わんじゃろう。」
え?売られた!?いつの間に?ミル君とコレットさんに?
嘘。…嘘よね?
ミル君の所へダッシュする。
ミル君は庭で剣を研いでた。シュッシュッと剣を研ぐ小気味のよい音がする。
「ミル君!私ってもう要らないの?」
「?どうしたのアマネェちゃん。アマネェちゃんは大事な人だよ。」
ミル君の言葉にちょっと落ちつく。
「ホアード様が私を王都に連れてくって。保護するって。」
「ああ、王都に行った方がアマネェちゃんが良いもの着れて、美味しい物が食べれるって話だよね。寂しいけど、アマネェちゃんの為になるって言ってたよ。お母さんもアマネェちゃんにはお世話になってるし、良い暮らしが出来るようになるなら、王都に行かせてあげたいって。」
ああ、早とちりか。良かった。
要らないって訳じゃ無くて、私の為にだったのか。
「私は王都の美味しい物よりミル君と一緒に居たいの!」
ミル君を抱きしめながら思わず口にしてしまった。告白か!?11歳だぞ、この子は。
困った顔のミル君が口を開く前に、
「ハァハァ、どっちにしろ、1度は王宮に来てもらうぞ。新しい魔道具を販売すれば目立つのじゃ。この店にも客以外の人間が増えてしまうじゃろう。困るのはこの店じゃ。」
ホアード様が追い付いてきて言った。
確かに領主様に見せただけで大騒ぎになっている。このままでは神官とか貴族とか毎日の様に店に訪れるだろう。
女神様とのコネや魔法を求めて。
大した女神様じゃ無いのにな~。
いや女神様と言うだけで大したものか。
渋々王都行きを了解した。
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次回:現実逃避に『クリスタルの魔法』
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