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武器屋の勇者様 ~ 祝福を受けたハズの女子高生の空回り奮闘記  作者: 61
4章:女神様の道具 ~名前を広めるために~
52/93

『赤い海の月の向こうで』

--『赤い海の月の向こうで』--


あらすじ:女神様があらわれた。

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「どうして?」


「いや、呼んだでしょ。」


「今までは、お祈りしても来なかったわよね?」


「ポンコツ様呼ばわりされたら、来たくも無くなるわよ。」


「最初はちゃんと祈ってたじゃない!」


そう、最初は普通に祈っていた。


相手は女神様だし、失礼の無いように。少なくとも私を異世界に連れてきたんだから、何かしらの力を持っていると信じて。


けど、3ヶ月ほど経って音沙汰(おとさた)が全く無い事に限界がきて、呼び方もポンコツ様になり、祈りもいい加減になって、そのうち祈りもしなくなった。


『女神様の勇者』の祝福で祈りが通じるハズだったのに、返事無しじゃ普通はキレるでしょ?


私は悪くない。


「最初は気まずい空気で終わったじゃ無い?顔が出し辛かったのよ。食べるのも苦労していたみたいだし。でも、私って世界に直接関与出来ないのよね。お金が渡せる訳でも無いし。まぁ、あなたの世界にちょっと興味が湧いて見学してたってのも有るけど。『メノウ、私は海に生きます。』萌えるよね♪」


ポンコツ様が大業(おおぎょう)な仕草で元の世界のマンガの台詞を言う。微妙に古い気がする。


「元の世界?…戻れるの?」


…そうだ、私はなぜこの世界に居るのか良く解って居ない。


元の世界の最後の記憶が無い。


「残念ながら戻れないわ。あなたは元の世界では死んでいるから。」


冷たい声で返される。それは私の心を揺さぶった。


「どうして!?何で死んだの?」


叫んだ。涙が出ている。


いつ死んだんだ?

何で死んだんだ?

記憶が無いことが不安になる。

普通に高校に通っていた。

普通の女子高生だったはずだ。


「覚えて居ないなら聞かない方が良いわ。思い出しても意味は無いわよ。ただの事故よ。あなたが悪い事をしたわけではないわ。悪い事をしていたなら転生の対象にならないもの。落ち着いて。」


冷たい口調で女神様は言う。


落ち着けない。

不安がつのる。


半狂乱になりながら女神様に問い詰める。


両親の事。弟の事。親友の事。


女神様はその度に私に落ち度が無いこと、女神様に責任は無いこと、元の世界は私が死んだ事以外は元通り落ち着いて来ていることを(さと)していた。


それが余計に腹が立った。


優しく子供に話しかけるその言葉使い。


怒鳴りつける。

(まく)くし立てる。

責め続ける。


しばらくして、ミル君が私をなだめて(なぐさめ)めてくれた。疲労感が広がる。彼の胸で泣き崩れた。


転生だろうが転移だろうが戻れない事は覚悟していた。そう言うお話しをたくさん読んでいた。納得はしない。けど、諦めていた、自分は戻れないと。



女神様が現れるまでは。



軽い口調で言い放たれるまでは。



--------------------------------------------------



落ち着いた。

落ち着いた。

落ち着いた。


言い聞かせる。


ふっと息を吐きミル君を見つめる。

心配そうに、それでも笑顔をくれた。

涙を拭いてくれる。優しい。


軽く頷いて、ぎこちない笑顔を返す。


「ポンコツ様」


「ポンコツじゃないって!」


私がミル君に(なだ)められている間に、お爺さん二人組に(あが)められていた女神様が反応する。


「今さら出て来て女神ヅラするヤツはポンコツだ!…で、『赤い海の月の向こうで』を読んできたんだ?」


先ほどポンコツ様が引用していた少女マンガの題名だ。


海賊となった元貴族と、彼の婚約者だった令嬢との切ない恋と冒険の物語だ。とても好きだった漫画だ。海賊になった彼の元に行くために令嬢が夜の街へ初めての冒険をしに行く、と言うところまで読んだ記憶がある。


「ええ、読んできたわ。スオウがアサギと新しい航路を(ひら)くためにメノウを置いて西の海へ旅立って行ったわね。」


「ナニソレ詳しく!」


スオウが元貴族でメノウがヒロインだ。アサギは初めて聞く名前だけど1年も経っているのだ、新キャラくらい出ているだろう。


挨拶もソコソコに『猫の帽子屋』に戻って、その夜は熱く語り合った。



女神様が腐っている事が良く解った。



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別に理由もなく『赤い海の月の向こうで』の話をした訳じゃない。


もう読めないと思っていたマンガの続きが気になっていたのも有るけど、お爺さんズから女神様を切り離したかったのだ。


お爺さんズがドラゴン語を修得してしまったら、私の実入りが少なくなる。それだけは何としても避けたい。


女神様がお爺さんズに簡単に教えるとは思えないけど、女神様と私の仲が悪くなれば、面倒くさくなった女神様がお爺さんズにドラゴン語を教える事もあるかもしれない。


いや、むしろ信仰を得るためなら簡単に教えるかも知れない。


ミル君の胸の中で落ち着いた私に聞こえて来た会話には、崇拝(すうはい)畏敬(いけい)が混じっていて、まだ核心までは遠そうだったので、早めに話題を作りれそうな漫画の話をしてみた。


というか、女神様と共通の話題にできて、お爺さんズの興味を引か無さそうな話題が他に思いつかなかった。


一晩中語って、意外なほど盛り上がっちゃったけど。


まぁ、両親と弟、それに親友のミーちゃんや片想いだった人の事とか気にならない訳じゃないけど、女神様が嘘を言っても私には解らない。


だから、元気かどうかだけ聞いた。それ以上は未練になるから聞かない。


もし私が女神様なら、元の世界に心残りが出来ないような嘘をつくだろう。


「世界は突然の隕石の来訪により滅びたのです。」


とかソレっぽい事を言っておけば、召喚された人は前の世界の事を気にしないで済むよね。



私なら、そうする。



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次回:『腐海』の淵の女神様

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