魔法研究の第一人者
--魔法研究の第一人者--
あらすじ:魔道具の未来のための話し合いが始まった。
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「献上してもらった冷蔵庫の魔道具とやら、陛下と共に興味深く見せてもらった。それで褒美を取らす前にいくつか確認しておきたくて来て貰ったのだが、まず、聖女では無いのだな?」
領主様が続ける。
護衛隊長のジーナスさんの話だと、冷蔵の魔道具は冬の間に王都まで運ばれていた。
私も一緒に連れて行こうと考えていたらしいのだけど、「『7歳児に負ける娘』を雪の中で無事に王都まで届けられるか?」という疑問の声が上がったそうだ。
弱いと言う汚名が領主の館まで届いていて恥ずかしいけど、寒い中をソリに乗って半月も移動したく無いので助かった。
「女神様が聖女では無いと仰っていました。その後、女神様に呼び掛けても返事は有りません。」
以前、代官様に言ったことを繰り返す。
「女神様からの神託を受ける事はもう無いと?」
「それは女神様次第になると思います。私は女神様に『猫の帽子屋』の再建と、彼女への信仰を増やして欲しいと頼まれました。それらが叶う、あるいは私が不甲斐なければ、またご光臨されるかも知れないですが、確証は有りません。」
長い丁寧な言葉は喋りにくくて、舌が途中で絡みそうになる。
『女神の勇者』の祝福で本当なら会話は出来るハズだったんだけどね。相手が出ないんじゃ仕方ない。
「ふむ、信仰か、一考の余地はあるな。それで、新しいドラコン語は、魔道具の女神様に教わったと聞いたが、全ての言葉を使えるのか?」
素直に言って良いものだろうか?
全ての言葉を使えると言ったら拷問してでも聞き出されるかもしれないし、そうならなくてもドラゴン語の辞書を作れとか言われるのは勘弁してもらいたい。
でも、ほとんど使えないと言うと、後で作りたい魔道具が作れなくなるかもしれない。
「わずかな時間でしたし、全てでは無いと思います。魔道具を作れるように教えて貰いました。」
これなら嘘では無いよね。わずかな時間と言うか『基本セット』だし、通常会話には困らないだろうけど、どこまで話せるのか試したことは無い。ドラゴン語で話をする機会なんて無いしね。
「それは魔法に転用できるのか?」
領主様を遮って、魔術が趣味だと言うホアードさんが前傾姿勢で訪ねてくる。よっぽど魔法に興味が有るらしい。
「転用…できると思います。言葉の組み合わせが上手く合えばですけど。ですが、安易にドラコン語を広めて良いものなのかと考えています。」
難しい魔法は魔法陣を覚える都合上この世界では無理だろう。でも、簡単に出来る組み合わせが見つかれば魔法として使えると思う。私も同じようにして魔法を作っていたし。
「広めれば良かろう、便利に成るのじゃ。今でも魔法は便利なもの、生活に欠かせないものじゃ。さらに便利に成るのに何の不都合がある?そのために冷蔵庫の魔道具なんてものを持ってきたのだろう?」
「ホアード殿。」
白熱するホアードさんを、領主様が嗜める。
魔法は便利な物。だけど、魔道具にしないと女神様の為にならないし、『猫の帽子屋』の儲けにもならない。その点、冷蔵庫の魔道具はシンプルな魔法を使っているけど、長時間冷やし続けなければならないから魔道具にした方が便利だろう。
「冷蔵庫の魔道具に使われている魔法は、昼も夜も維持できるようにしてあります。人間が魔法で再現することは難しいと思います。」
「氷室を多く作れば良かろう。魔法で氷を作れるとなれば夏の暑さを気にする必要もなくなるし、雪が降らぬ土地でも使えるじゃろうでの。それに、魔法なら敵の手足も凍らせることが出来るかもしれんじゃろ。おとなしく魔法にするんだ。」
「氷室では大きすぎて一般家庭や、行商人に持たせることが出来ませんし、代官様が戦争に使われる事を懸念されていました。」
「戦争など遠くの話だ。この街には関係が無かろう。」
このお爺さんは何が何でも魔法にしたいらしい。もしかすると魔法が使えるなら戦争を始めるかもしれない。慎重に話して戦争に使われないようにしたい。
「私も代官様と同じ気持ちです。ですから魔法にしたいとは思いません。それに、魔道具として世に出すにしても、魔法陣が解るようにしたくないのです。例えば戦争をしている国が魔道具を手に入れて、新しい魔法を作り出したら?戦争がこの街まで来なくても、大事な人が戦争に連れていかれたら?私はきっと後悔するでしょう。」
「それで、魔道具に細工がしてある訳か?」
見ただけじゃ解らないように細工をしたけど、どこまで解析されているのだろう。
「はい、どこまで上手く行くか判りませんが、戦争に使われないためにも文字が読めない様にしてあります。」
「魔道具を独占して、金儲けをするためにしている事だろう!」
ホアードさんが怒鳴り出した。また胃が痛くなってきた。お金は必要なんだよ!
「女神様の望みは『猫の帽子屋』の再建ですのでお金は必要です。そして私の望みは戦争に使われないようにする事。両方の面から魔法の発展とは繋がりません。魔法で出来ないなら魔道具を使えばよろしいかと思いますが?」
最後の言葉は余計だった。だけど言いたかった。後悔はしている。
「な、なんと!」
ホアードさんは顔が真っ赤にしてプルプルしてるよ。
「ホアード殿、少し部屋で休まれてはいかがかな。」
見かねた領主様が介入してきた。
そりゃ、あれだけ血が登っていれば心配にもなる。ホアードさんは言葉少なく挨拶をすると部屋を出ていった。
「その方の言い分は解った。しかし、女神様のご威光が有るとは言え強く出すぎだ。」
「も、申し訳ございません。つい頭に血が登ってしまいまして。」
しまった。相手はお貴族様だった。
やってしまったかな。
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次回:『領主様』の憂慮。
 




