雪解けの始まり
--雪解けの始まり--
あらすじ:魔石が壊れたらお肉が美味しくなくなった。
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川が雪解けの水でせせらぎ、融けた雪の間に新しい芽が吹き出る。
もうすぐこの世界に来て1年になる。長いような短いような1年だった。最初は食べる事だけに必死だったもんね。
街道にはダンジョンへの冬籠もりを終えた、出稼ぎ冒険者の人々が、次の畑の恵みを得るために街を出始めている。
少し寂しくなる。
冬の間に常連になってくれたお客さんも混じっているんだ。街に残る私には遠い世界。
「また来るよ。」と言って去っていくお客様達。
稼ぎが減ってしまう。
まぁ、去って行った人を思ってもしょうがない。あの人達はパンのための小麦を作りに帰って行くのだ。
来年、また来てくれた時にがっかりさせないように頑張ろう。
雪が融けて街道を馬車で通れる様になったので、領主様が帰って来た。
そろそろお呼び出しがかかるのではないだろうか?
冷蔵庫の魔道具を含めて、新しい魔道具はまだ販売していない。代官様に止められているし、なによりドラゴン文字がどのように影響するのかわからない。
ポコスカばら蒔いてドラゴン文字が広がってしまうのが怖い。DEATHの魔法みたいなモノがいつの間にか作られたら…もしかしてミル君が標的になるかもしれない。
今は戦争の噂は聞かないけれど、ミル君に聞いた昔話の中には戦争の話もあった。新しい力を持った人間が戦争を始め無いとも限らない。
少なくとも、代官様は戦争に使えるかどうかを聞いてきた。
今はまだ戦争に直接使われるような魔法が無いけれど、元の世界でも鉄砲の発展と共に死者が増えている。戦争に使えるような魔法が作れれば、戦争が起きるかもしれない。
例え些細なドラゴンの言葉だとしても、DEATHの魔法のように、意外な組み合わせで恐ろしい結果になる可能性もある。
その時、どう判断するのか?私としては領主様とか王様に丸投げしようと思う。
責任は取りたくない。でも、便利な生活はしたい。冬の間ずっと考えていたけど、結論は出なかった。
売るなと言われたらどうしよう?貴族向けに売るとか、認可制にしてもらうとか。できるのかな?
けど、黙って売って収集が着かなくなるのが1番困るし。どうしよう。
魔道具を使った工場を作って、そこで作られた商品は普通の品になるようにするとか。例えば、パン屋姉妹のミートスパゲティ作りみたいに。
もぉう、なるようになれ!
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しばらくして領主様の館に呼び出された。
独りで行くのは嫌だったので、代官様の時と同じように家具屋『静かな湖畔屋』のガーファンクルさんに連れて行ってもらおうと思ったのだけど、拒否された。うう。
「お前が呼び出されたんだろう?独りで行ってこい。どうせ魔法なんて機密事項に触れるんだから、オレが行っても部屋の中まで入れないだろうしな。」
領主の館だからね。作法やら挨拶やらが心配なんだ。この世界のお貴族様はどんな人なのか知らないけど。そして、何より独りは心細い。
護衛の3人が付いて来てくれることになった。まあ、代官様から派遣されているんだから、当然1人は来るよね。
でも冬の間ずっと一緒に居たけれど、代官様から派遣された護衛なので、どうしても味方とは思えない。イザとなったら絶対に領主様に着くよね。
しかも3人が全員来るって言うのは、逆に不安だよ。悪いことをして連行されている気分になる。
まあ、3人の中でも一番体格が近いウェイルエさんから衣装を借りられたから、継ぎ接ぎのある村娘Aの姿で行かなくて済んだだけでも良かったとしよう。
領主様だからね。きっと立派な衣装を着ているに違いないんだ。服装でみじめな思いをしなくて済むだけでも嬉しいんだよ。
領主様の屋敷に着くと、代官様に会った会議室のような部屋に通された。
40前後の男性が中央に座っていた。領主様だろう。その隣には奥様と息子様、娘様らしき人も居る。って家族総出なのかよ!
壁に掛けて有る肖像画は領主様では無かったみたいだ。領主様らしき人は肖像画に良く似ているけど、少し若い。
そして領主様をさらに若くしたような息子様が居る。お貴族様と言えば優男を想像していたけれど、きちんと体を鍛えているようで、胸板もそれなりにある。カッコイイ。
こう言う人達に召喚されたかった。まあ、今ではミル君に勝る人なんて居ないんだけどね。
娘様も領主様に似ているけれど、どちらかと言うと奥様よりかな。可愛らしいドレスを着て座っている。うん。少し羨ましい。
それと、白い長い髭のいかにも魔法使いと言った感じのお爺さん。魔道具屋のシュラン爺さんも魔法使いの風体だったので、この人も魔法を使う人なのかな。
他は代官様と会った時と同じような人が並んでいる。領主様家族を合わせて総勢20人以上の人が居る。私独りにこんなに人数は要らないよね!どんな尋問だよ。おなかが痛い。
「ようこそ、ユーハイム領主邸へ。私が領主のセオルヘルムだ。そして、こちらは王宮で魔法研究の第一人者をしておられるホアード殿だ。それに妻のヘリエッタと、息子のオクタメデルと、娘のヘランだ。」
「第一人者とは恐れ入る。道楽で魔法を嗜んでおる。ホアードだ。よろしく。」
それぞれが簡単な挨拶をしてくれる。
私の挨拶も失敗していないよね?護衛の人たちと練習したし、怒られなかったから大丈夫だろう。大丈夫だよね?
そして、魔道具の未来のための話し合いが始まった。
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次回:『魔法研究の第一人者』の叫び。




