冬の果て
--冬の果て--
あらすじ:年末休暇は無かったよ。
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今日はダンジョンの探索だ。モンスター狩りのリベンジに行く!
今日の為に作った新型のブーツを履く。
前回の靴は、クッション性を良くする為に革の靴底をくり貫いて、柔らかい麦藁を編んで詰めていた。
前の靴は問題点が山だらけだった。
麦藁を編んで強くしたつもりだったけど、長い時間使っていると麦藁が潰れてしまった。
しかも外側の皮の部分は潰れないから、とても歩きにくくなった。それに麦藁を詰めた部分は柔らかくなりすぎて、森を歩いていると木の枝が突き刺さる。
革の接着面も少な過ぎて最後には崩壊した。
そこで、魔法でシリコンを生成を試してみた。できてしまってビックリ。
塩の魔法が有るから、もしかしてシリコンも出来るかも程度のダメ元だったのだけど。固さも自由に変えられる。キッチンの強い味方、柔らかいシリコン素材が出来た。
塩の魔法もそうだけど、錬金は出来ない。つまり鉛に魔法をかけても金にならない。出来れば金策が楽だったのに。
回りに塩の成分が無いと発動しないと云われている。土とか、汗とか、血とか。塩の魔法が使えるって事は塩の成分の塩化ナトリウムが含まれているから出来る。
シリコンの材料も言って見れば焼き物の材料と同じもの。だから土にそれなりに含まれている。
だけど、面白がって私の魔法を真似たミル君にはシリコンは生成出来なかったし、私でも炭からダイヤモンドを作る事が出来なかった。ドラゴンの魔法の基準が判らない。
新型の靴底には踏み抜き防止の薄い鉄板と革とシリコンのウエハース状にしてみた。固さと厚さも山靴くらいにして安全靴の構造も取り入れた。滑り止めの溝も彫ってある。
後は下草対策に編み上げのブーツにした。
他は前回の格好と一緒かな。村娘Aの服に毛皮の腰巻き装備だよ。
今回は、前回と同じメンバーだけど日帰りの予定だ。何度も泊まりたいと思うほど良い宿屋でも無かったしね。帰れるならミル君の居る『猫の帽子屋』に帰りたい。
「なかなか、重装備じゃないか。今回もお試しか?」
ミュハエルさんが声をかけてくる。
「はい、前回の反省を生かして改良しました。下草でズボンが切れる事も減ると思います。」
前の靴は途中で壊れて予備の靴に替えたからね。
「ああ、それで膝まであるのか。走りにくそうだけどな。」
「それを含めての実験だから、やってみてダメなら切ってしまえば良いかなって。」
ダンジョンに入る人の靴はくるぶし丈の人が多い。ズボンを一緒に縛って中に虫が入って来るのを防いでくれる。
ダンジョンの1,2階をささっと抜ける。すでに3度目なので目新しい物も無いし、モンスターも出ない。
例え出て来ても、オバケネズミとかオバケコウモリとかで、デカイだけでミュハエルさんとエキシナさんの敵じゃない。
3階は平原が続くのでパスして、前回と同じように4階の森に入っていく。
リュックから探知の魔道具を取り出す。今回は懐中電灯型とランタン型の2つを用意した。
原理は前と同じようにモンスターの持っている魔石に反応するようにしている。というか、魔石以外に判別する方法なんてわからないし。
懐中電灯型は探索距離を変更できるようにした。モンスターの方向が判っても距離が解らないのは使い辛かった。
改良したので、2方向に反応がある時にどちらに行けば近いのか、どれくらいでモンスターに合うのか判る様になるだろう。
調整のためにも私が懐中電灯型を持って使ってみる事にする。
「エキシナさんはコレを持っていてくれる?イザとなったら投げ捨てても構わないから。」
ランタン型の探知の魔道具を渡す。コレこそが本命。安全なダンジョン採集ライフのためにも成功してほしい。
「これは何ですか?」
「スイッチを入れておくと、モンスターが近くに寄ってきた時に反応するの。だいたい…あの木くらいの距離までわかると思うよ。モンスターが近づくと赤く光るから皆に注意を出してね。青く光る時は魔石の力が弱まっているから私に言って。交換するから。」
ランタンの明かりが照らすような範囲が索敵範囲になる。
これで、ダンジョンでもビクビクしないで採取が出来るようになる。集中して周囲の確認を忘れてしまったなんてポカも減らせる。
「なるほど、便利な道具ですね。」
言いながら、エキシナさんが魔道具のスイッチを入れる。とたんに赤く光る。
「な!?」
ミュハエルさんもエキシナさんも身構えて警戒する。十分時間が経っても何も無いのでミュハエルさんが周りを確認してくれた。
「何もいねーぞ。」
誤作動らしい。おかしい。実験では上手くいったのに。
ランタン型の魔道具のスイッチを入れたり切ったりする。赤く光る。
「ミュハエルさん魔道具とか魔石とか持ってる?」
「ああ、一応な。水と火の魔道具を念のため持っている。魔石はないぞ。」
「エキシナさんは?」
「念のため水と火と塩の魔道具は必ず持ち歩きます。軍属なら必ず持っているでしょうね。」
もちろん私も持っている。水と火と塩の魔道具。これが有れば帰り道が解らなくなっても、どこでもキャンプが出来る。
魔法でも出来る事だけど、万が一重傷を負ってしまって、治癒や浄化の魔法で魔力が無くなってしまう事もある。
滅多にないとは思うけど、冒険者ギルドでも万が一に備えて水と火の魔道具を持つことを推奨している。
「エキシナさん魔道具をちょっと貸して。んで、この魔道具を持ってあそこの高い木の所まで行ってスイッチを入れてみて。」
「あ、まさか。」
ミュハエルさんはまだ不思議そうにしているけど、エキシナさんは気がついたみたいだ。魔道具を預けてくれると木の所まで行ってくれた。
「光らないですね。やっぱり原因は魔道具ですか。」
言いながら近づいてくる。途中で赤く光る。
何のことはない、自分たちの持っている魔道具の中に入っている魔石や、魔晶石に反応していたんだ。
作る時の実験でははミル君にランタン型の魔道具を持って貰った。ミル君は魔石を持っていなかったのだろう。
簡単な事だけど、解決策が全く思い付かない。
「また、失敗ね。」
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次回:『鹿のモンスター』にリベンジ。




