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武器屋の勇者様 ~ 祝福を受けたハズの女子高生の空回り奮闘記  作者: 61
3章:魔法の道具 ~お店をするために~
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新年

--新年--


あらすじ:ミートパスタを作るのには鍛冶屋が必要だった。

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新年明けましておめでとう。


少し違う気がする。異世界だからかな。飾りっ気もない新しい年を迎えた。


王都に雪が降る頃。ここから半月ほど南に有る王都では今頃に雪が降り始めると言うことで、1年の終わりになる。


そして、みんなが年をとる。私も16歳から17歳になった。ミル君も11歳に。カレンダーなんて無いからね。普段の日付は結構適当だ。


だから、誕生日おめでとう?それもしっくり来ない。みんないっしょに年を取るからね。


こちらではとっくに積もっているので実感が湧かないけど、王都では雪の降り始めるこの時期に、王様の挨拶が有って、祭りが開かれる。この街でも王都を(なら)って新年としてお祭りが開かれる。



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そんな新年のちょっと前。


水が冷たい。


そんな事を言うと怒られるので言わないし、言えない。


「祭りの日をお休みにして、武器の整備をしませんか?」


売り上げ向上のための売り文句として考えてみた。年末年始だし休暇を取ってお祭りを楽しめばいいんじゃないかな。それで私たちは稼げる。と思っていた。


それを聞いたミル君がちょっと訂正してくれた。


「祭りの日にカッコイイ所を見せるために、武器の整備をしませんか?」


これがイケなかった。意外と集まった。


今はゴルドさんの加治屋『苔むした巌工房』の人たちと護衛娘3人衆を動員している。


新年になると年を取るので、12歳になった自分の息子や娘が初めてダンジョンに入れるようになるのだ。


子供たちも興奮して新年を指折り数えて待っている。


ただでさえ初めてダンジョンに入る子供達の為に、武器がよく売れる季節だったらしい。『猫の帽子屋』の武器の売り上げはほとんど変わっていなかったんだけど。


そして息子と初めて入るダンジョンの為に、パパさん達が頑張っちゃった。


「祭りで息子にカッコイイ所を見せるんだ。だからカッコよく見えるように綺麗に研いでくれ。」


『苔むした巌工房』の工房を借りて皆でちまちま剣や槍を研いでいる。鍛冶屋さんの手が空く時期で良かった。この時期の為の武器は打ち終わっていた。



口を開くとゴルドさんに怒られそうだから、静かに黙々と剣の手入れをする。


「おつかれさまです!これ、差し入れです。」


干した果物を差し入れに持ってきてくれたミル君が天使に見える。


「で、申し訳ないですけど、追加です。」


背篭から追加の武器を出してきた。ミル君が悪魔に見えた。


「オイオイ。もう受け付けるなよ。」


「すみません。断り切れなくて。あの後も母さんが受けてしまっていたのも有って。」


「ちっ。コレットさんか。」


『苔むした巌工房』の親方ゴルドさんがご立腹だ。とばっちりが来たら面倒なので黙っている事にする。


「ちょっと出てくる。」


ゴルドさんが逃げ出した。



いや、コレットさんに文句言いに行ったんだろうけど。



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しばらくしてゴルドさんが帰って来た。良かった。結構長い事居なくなっていたから本当に逃げたのかと思っていた所だ。


「オイ!あれ作ってくれ。コレットさんの膝元に有ったヤツ」


近い!近い!顔が近い!


コレットさんの膝元ならアンカのことだろう。コタツを応用して行火(アンカ)にしてみた。寝る時に足元に置いておいたら暖かくなるヤツ。


コタツだと寝る時に不便だったのでアンカに改良してみたんだ。まあ、名前はカイロでも良かったんだけど。アンカとして作ってしまったし、カイロだと使い捨ての方を思い出すのよね。


ほどほどに温かくなるだけの魔道具で、火も出ない。


その代わり電気毛布モドキは断念することになった。布の全面を暖かくする方法が全然思いつかなかった。


思いつきで作ってコレットさんとミル君にあげたら、日中はコレットさんがミル君の分を奪って膝元と足元に完備している。今度増やしてあげようと思っていた所だ。


それをゴルドさんは見たのだろう。


「良いけど、何に使うの?」


ここは鍛冶屋なので炉もあるし、部屋ごとに暖炉やストーブもある。水が冷たいのは砥石で水が汚れてしまうので頻繁に入れ替えするからだ。


「カミさんが冷え性でな。ストーブじゃ戸を開ける度に北風が入って来やがる。アレなら腹の中にでも入れておけばずいぶんと暖かくなるんじゃないか?」


女性の冷え性かな。


「あげても良いけど、カイロか湯タンポを作れば?鍛冶屋さんでしょ?」


「なんだそれ?」


「カイロは金属で箱を作って中に炭を入れたもの。湯タンポは金属で水筒を作って中にお湯を入れたものよ。」


教科書か博物館でしか見たことないけどね。湯タンポは小さい頃は流行ったことが有ったっけ。


「金属に炭なんて入れたら熱すぎるだろう。」


「だから、毛布でくるんで使うんだけど。」


そこまで言ってから思い出した。ここでは布が高いから毛皮の方が良く使うんだった。


ベッドは藁のマットレスに何枚か毛皮を敷いている。掛け布団も毛皮をたくさんかける。そして毛皮のなめしより織り布の方が高い。


もちろん毛皮はダンジョン産。けど魔道具と比べると布の方が安い。毛布でも同じだと思う。


皮はそんなに熱に強くない。鍛冶屋さんとかのエプロンでは使われているけど、ちょっとした熱で縮んでしまう。


湯たんぽを毛布でくるんだり、布に綿(わた)を入れたものでくるんだり、布を重ねて断熱する方法は元の世界ではそれなりに使われているんじゃないかな。


でも、布が少ない世界では、布で断熱する方法を知らなかったとか。


「詳しく!」


ゴルドさんの目が光る。


ライバルを作ってしまった。湯タンポなんて誰でも思いつくと思って居たから。まさか毛布でくるむ発想が無かったとは。


値段の差でカイロが売れなくなってしまう。


『猫の帽子屋』に湯たんぽが無いのは貧乏だからだと思っていた。



さすが異世界。奥が深い。



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次回:寒さが揺るぐ『冬の果て』



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