5階の村
--5階の村--
あらすじ:職業冒険者の人はすごかった。
--------------------------------------------------
ミュハエルさんの狩りが終わった。
普段の冒険者の動作の細かい所まで見たかったので、この先も私とエキシナさんは手伝わないようにするつもりだ。新しい商品になるヒントはどこに有るかわからない。それはミュハエルさんにも最初に了承してもらっている。
まぁ、手伝わないのは最初だけで、次からはこの後にする解体くらいは手伝おうと思うけど。
「ざっとこんなもんだ。この辺りの連中なら似たような感じじゃねーかな。2発目も弓のヤツもいるが、俺の腕じゃ厳しいからな。」
「なんで短槍が刺さってるんですか?」
「モンスターの力を利用したのさ。」
ミュハエルさんは軽く言うけれど、モンスターの皮をそれだけで貫けるのだろうか?まったく力を入れていなかったように見えたけど。理解は出来なかったけど、実際に見たんだからそうなのだろう。
それに、あの勢いで刺さった短槍が無事だった事にも驚きだ。柄の部分だって木にしか見えないんだけど。
私が現実を理解しようとしている間にも、ミュハエルさんは獲ったモンスターの足に紐をかけ、木の枝に引っ掛けてもち上げる。モンスターのサイズが大きいので吊り下げるには結構高い木が必要になった。
ドバドバ血が流れる。
流れる血の量に私の血の気が引いてしまう。それでもウサギや鳥とも違うんだなと改めて感心する。血抜きなんてもう慣れたなんて思って、ごめんなさい。
そんな様子を見ているエキシナさんの猫尻尾がピコピコ揺れてるのは何でだろうか。ミュハエルさんの勇姿に感動したとかなら良いけど。まさか、流れる血を見て興奮してるとか無いよね。
血抜きが終わったら、簡単に解体して証明部位として耳を切り取る。獲物をまとめて毛皮に血文字でミュハエルさんの印を描いたら、轍のある道のそばの風通しのいい木に吊るす。
冒険者ギルドが運航している馬車に回収してもらうためだ。
冒険者がそれぞれ獲物を運ぶより、ギルドの運び人が馬車を使っていっぺんに回収した方が効率が良んだそうだ。そうすれば冒険者が次のモンスターを探している間に、狩られた獲物は5階の村経由で街の冒険者ギルドに運ばれていく。
後からミュハエルさんが証明部位だけ持って行けば、冒険者ギルドで自分の獲物を引き取れる仕組みになっている。
印を付けた耳をギザギザに切っておいて、運び込まれた獲物と合致したら渡してもらえる。
リアル勘合貿易(耳)だ。
吐きそう。
--------------------------------------------------
他に3匹ほどモンスターを狩って、5階の村にやって来た。
すでに暗くなってしまって、村には灯がついていた。ダンジョンの中でも暗くなるのね。
「悪いな、遅くなった。」
「両手に華で何やってたんだよ。」
「ガールズハントの実地講座?」
「成果は?」
「オケラさ。お嬢様は俺にときめいてはくれなかったみたいだ。だから宿は2つで頼むよ。お嬢様方と俺は別々だな。」
「情ねえな。そら、12番と22番を使ってくれ。」
ミュハエルさんが冒険者ギルドの職員と軽口を叩き会う。オケラは収穫無しの事だ。つまりエキシナさんとは進展が無かったという事だけど、芽は有ったと思うけど、どうだろう?
荷物を置いて共同の調理場で、今日の獲物の切れ端を使って簡単なスープと串焼きを作って夕飯にする。山菜もスープの分を摘んできたし、ミュハエルさんの成果なので料理くらいさせてもらった。女の子の手料理だよ、エキドナさんも一緒にしてたし、嬉しかろう?うふ。
「思ったより獲れましたね。」
焚き火を囲みながらミュハエルさんに聞いて見る。
「今日はその魔道具のお陰で楽に獲物が見つかったからな。方向が解るだけでも、だいぶ楽になるよ。それの販売はいつからするんだ?」
探査の魔道具は1方向だけならそこそこ使えた。見通しの悪い森の中で、どの方向に獲物が居るのか判ったので、ウロウロ探し回るより効率が良くなった。
ただ、ネズミサイズの小さなモンスターにも反応してしまったので、効率の良い狩りにしたいなら、もっと調整しないといけない。
そして、最終的には全方位をいっぺんに探査できるようにしたい。狩りのためよりも、女性や子供でも安全に山菜を採取できるようにしたい。
「領主様と相談してからですね。モンスターを獲り過ぎても問題が有るでしょうから。」
「獲った分だけ儲かるんじゃないか?」
ミュハエルさんは呑気に聞いてくる。
「採りすぎたら1頭分の値段が下がったり、獲物が絶滅してしまうかも知れないじゃないですか。」
「憎たらしい事にダンジョンのモンスターは絶滅なんてしませんよ。アイルレットのダンジョンで勇者がモンスターを全滅させたらしいですが、数日後に元に戻ったという話があります。もっとも全滅の心配が無いので肉には困りませんがね。」
エキシナさんが捕捉してくれた。
「まぁ、全滅はしなくてもモンスターの価値が下がるのは頂けねーな。けど、野草を採取する時間を増やす事も出来るし帰宅組の帰りも楽になる。早く売りに出してくれれば嬉しいな。」
「酒場に居る時間が増えたり?」
「そうそう、おネェちゃんのいる店に長いこと居れるって、オイ!」
ノリが良いミュハエルさん。さっきの冒険者ギルドの人とのやり取りを聞いてたから、軽口に乗ってくれるとは思っていたけど、良い人だ。
「だそうですよ。領主様のスパイさん。」
ついでにエキシナさんに振ってみる。代官様から派遣された護衛という話はミュハエルさんに話している。別に隠す事じゃない。
護衛として物々しい姿で店に居られると、お客さんが寄り付きにくくなるし、ミル君との時間も少なくなると思っただけだ。
逆に領主様の護衛が居るって言っておけば防犯になるし、魔道具を秘密にしなきゃならない理由の信ぴょう性が上がる。
私の言葉にエキシナさんは動揺している。
「わ、私は護衛の為に居るのであって…。」
「でも、報告はしてるんでしょう?」
たたみかける。最初から単純に護衛だけをしているとは思っていなかったから、確認と牽制だね。
「まぁ、職務ですから。」
「現場の声も届けて下さいね。魔道具が売れると酒場が儲かるって。」
私がニヤリと笑うとミュハエルさんが笑いだした。
「さすが『7歳児に負ける賢女様』だ。」
要らないよ!そんな評価!
--------------------------------------------------
次回:私のターン。『私の狩り』




