戦争と冷蔵庫
--戦争と冷蔵庫--
あらすじ:領主様の代わりに代官様に会った。
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いきなり戦争に使う事を考えてくるとは思わなかった。もう少し保存の性能とか流通とかの面で話をすると思っていたのに。そんなに隣国との情勢が悪いのかな?
「糧食の運搬やポーション類の保存には使えるかと思いますが、直接は役に立たないと考えています。」
ガーファンクルさんがさっと答える。打ち合わせに無かった事だけど、すぐに返事をしてくれるのが、かっこいい。
冷蔵庫を戦争に持って行くって話は聞いたことも無いけれど、病院で薬品の保存に使っていたりするから、ガーファンクルさんの言うように戦争にも利用できるだろう。
それに冷蔵庫の魔道具は電源が要らないので、冷蔵車のように馬車の荷台を冷蔵庫に変えて、食料を運ぶのにも役立つと思う。兵士に美味しいものを食べさせて、士気を上げる効果があれば、それも戦争の役に立つとも言える。
私としては、普段から新鮮なミルクとか魚を、行商人さんが持ってきてくれるようになれば嬉しいのだけど。
「いや、魔道具としてではなく、魔法としてだ。」
「それは…。」
強めの代官様の声にガーファンクルさんが言いよどむ。
魔法として…、冷気を飛ばす魔法とかかな。
浄化の魔法のように、便利な魔法が使える事は人間にとって良いことだろうけど、戦争が始まるのは困る。攻撃魔法が使えるようになれば戦争にも使われてしまうだろう。領主様が冷気の魔法を使って戦争を始めるような人だと困ってしまう。
元の世界の技術の中には、戦争が生み出した物がいくつかある。サランラップとか、インターネットとか。人の生死が、戦争こそが技術を急速に発展させたなんて言う人も居る。
だけど、私としては生き死になんて関係なく便利になって欲しい。戦争が無くても技術が発展して欲しい。だって私が知っているんだもの。そして、便利になって生クリームが食べたい。
武器屋としてはどうかと思うけど。
「質問で返して申し訳ないですが、火の魔法を軍事に使わないのでしょうか?例えば火矢を作る時に。」
今度は私が答えた。
あんまり目立ちたくは無かったけど、代官様の質問に答えるにはガーファンクルさんでは難しいと思う。魔道具のキモとなる魔法陣についてはナイショにしているし。
冷蔵庫の魔道具に使われている言葉は冷気が出るだけだけど、組み合わせ次第では戦争にも利用されるかもしれない。
私の質問にふふっと代官様が笑う。なんかバカにされているようだ。気分が悪い。
「戦争と言うものを考えていないのだな。ガーファンクルの言う様に糧食の保存だって戦争ならば、もっと裏方の戦争だってある。質問を変えよう。使われているのは新しい魔法の言葉か?」
戦争を考えたから、ライターでも戦争に使えるんじゃないかと質問したつもりなのに。意味が解らない。まぁ、的外れな答えだったって事だけは解ったけど。
「人間の知らないドラゴンの言葉です。魔道具の女神様から賜りました。」
私の言葉に室内がざわつく。
「…そなたは聖女か?」
代官様が声を高める。
「違います。聖女ではないと女神様が断言していました。それに女神様が帰ってからは、いくら呼び掛けても返事はありません。」
やっぱり同じ話を繰り返すんだな、とシュラン爺さんとのやり取りを思い出す。
「なぜ、女神様はそなたに伝えたのだ?」
「『猫の帽子屋』の奥様が旦那様を無くし貧窮した末に、魔道具の女神様におすがりしたそうです。なんというか、それに巻き込まれたと言いますか。多分、あの方の事ですから投げた石が当たったから、くらいの適当な気持ちで選んだのでしょう。」
選らばれた理由は知らないので適当だ。ついでに非難めいた感じにしておく。
「…そうか。…その魔道具は魔法でも再現できるのか?」
難しい質問だ。
魔道具にする以上、魔法陣を使っている。その魔法陣は魔法を使うときに必ず必要になる。だから魔法でも使えないことはない。だけど魔道具として使って貰いたい。女神様の布教のためにも、収入のためにも。
「この魔道具に使われている魔方陣は複雑な物を組み合わせて作っています。複雑な魔方陣を組み合わせて使える魔法使いの方が居れば魔法として使えるでしょう。」
言い訳は用意しておいた。
複雑な魔方陣を使える人も、魔方陣を組み合わせて使える人も私が知るかぎり居なかった。脳内の魔方陣をイメージだけで書き上げるには沢山の文字があると難しいからだ。文字数が多くなったら頭の中で魔法陣を作ることは困難だ。完全記憶能力でも無い限りはね。
それに、たくさんの文字を使った魔法陣を使えたとしても、魔方陣を複数組み合わせて使える人は居ないいと思う。魔道具ですら、複数の魔法陣を使った物は無かったのだから。
まぁ、ダミーを混ぜたりしてセキュリティのために複雑に作った今回の魔道具の話で、シンプルに作れば冷風の魔法なんて簡単に出来てしまう。
「魔道具だからこそ出来る方法だと考えます。」
一応、頑張って考えた言い訳だ。通用してくれると嬉しい。
「女神様は他にもドラゴン語を伝えられたか?」
「魔道具を広めてくれとおっしゃっていました。そして『猫の帽子屋』を盛り立てる様にと。」
これも悩みどころだ。ドラゴン語を知っていると答えれば魔法にしようと言われてしまう。かと言って知らないと答えると新しい魔道具が作れない。だから誤魔化すような言葉にした。
魔道具を作ること以外にはドラゴン語を使うなと女神様に言われているように聞こえれば良いのだけど。
「できればこの家に逗留して色々教えて貰いたい所だが。」
「女神様との約束の『猫の帽子屋』を盛り立てる事を違えることはできません。」
上流階級の生活には憧れるし、ご飯の心配が無くなるのも嬉しい、だけど肩が凝るのは面倒だ。
ミル君とほのぼのしていたい。
「残念だが仕方ないな。これは預からせてもらっても良いかな?」
「献上いたします。私としては冷蔵庫の魔道具が広まって美味しいもの、ミルクや海の幸などが食べられるようになれば嬉しいと考えています。」
「ありがとう。後日また連絡する。」
置物と化していたガーファンクルさんと一緒に丁寧に退室して、足代として金貨を貰った。ずっしりと重い。
さすが代官様。太っ腹だ。
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次回:3人の『護衛』




