ダンジョンに行こう
--ダンジョンに行こう--
あらすじ:必殺技は失敗に終わった。
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冬になって、森の恵みが乏しくなる。
雪が降り、青い大地が見えなくなる。
「アマネさんお待たせしました。」
「ん、私も今終わったトコ。」
声をかけてきたのはパン屋の娘、次女ドリアちゃん(13)、隣に三女ミリアちゃん(12)もいる。
雪掻きされたダンジョン前の広場で、いつも通りホットドッグを売った私は、広場の隣にある冒険者ギルドにワゴンを預けてきた。
ちなみに、ワゴンの車輪にはスキーを履かせて冬仕様にしている。車輪だと雪に埋まって進まなかったのよ。もちろん、スキーにもサイモンさんの趣味が表れている。先っぽが猫足になっているのがカワイイ。いつもながらに筋肉オヤジのセンスに感心する。
今日の格好は、いつもの村娘Aの茶色を基調とした服にスカートの上に毛皮を巻いている。毛皮は座った時や尻もちをついた時に水とか弾いてくれるので便利。スカートの下にはズボンもはいているので、さらに暖かい。
そして、何といってもショートソードとクロスボウを装備している。
森に行く時のようなナイフとか鉈じゃない。戦闘用の武器だ。
そう、ようやくダンジョンに挑むのだ!
ダンジョン。異世界の中の異世界。中は空間が歪み、様々な季節がある。モンスターが出る其処は死と隣り合わせの危険な場所だ。
と言うと、カッコつけすぎだね。近所の少しふっくらしたオバちゃんが行ける世界だからね。
元の世界でいえば、整備された名山と言った具合かな。村まであるし。確かに危険はあるけど、ちゃんと装備していればあんまり危険はない…。ハズだ。
12歳の制限が有る上に今までは7歳に負けるような女と蔑まれていた私だけど、やっと14歳に勝ったのだ。しかも冒険者教室に来るような子供じゃなくて弟のお迎えに来たお兄ちゃん。ネスト君(14)。
圧勝。
圧勝したのだ。これはもうダンジョンに挑戦しても大丈夫だよね。ね。
森は雪に埋もれていて辿り着くことが困難なので、冬の間はダンジョンに恵みを採りに行く。それが雪の降るこの辺りの習慣で仕事だ。
ダンジョンのお陰で季節的な値段の変動が少ないとはいえ、暖かい時期に森で採れていた物を買うって事は家計をかなり圧迫してしまう。それが冬場に多く使う暖炉の薪も含まれるとなると尚更だ。
ダンジョンについて散々脅されたので、入ったことのない私は不安だった。7歳児に負けていたのだから、周りの人が不安に思う気持ちはわかるけど。
たまたまパン屋さんに仕入れに行った時に、パン屋姉妹が恵みの採取と薪拾いに行くという話が出たので同行させてもらう事にした。
ミル君は年齢制限にかかるし。コレットさん?あの人は感覚で生きている人だから。付いていくと崖に落ちていそうで怖い。
だけど、ダンジョンに挑むには、それだけでは足りなかった…。
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ああ、長かった…。
仲間を探し出し、魔王『受付のおネェさん』に打ち勝つまでの長い物語。いや、長くはないけど。
ダンジョンに入るには冒険者登録をしてギルド証を貰わなければならなくて、受付に行ったらおネェさんに弱いからダメと言われた。それだけだ。
「7歳児に負けるような弱っちぃ娘を、危険なダンジョンに入れられるワケ無いじゃないの!」
「今日、採取しないと明日のパン焼きに間に合わないから。今度またね。」
「またね~。」
ドリアちゃんとミリアちゃんは手を振って薄情にもダンジョンに行ってしまった。
泣きたかった。私は16歳。制限の12歳よりも4つも年上だし、14歳にも勝っているのよ!
おネェさん相手にゴネてみたけど、どうにもならず、仕方ないのでダンジョンの前で夕方まで張り込みをして、私の実力を知る冒険者を探し出した。子供冒険者教室の先生をしてくれていた人だ。
この人に私が14歳に勝てるような実力があるという事を証言してもらうのだ!
ハンスさん(37)ガンバれ!
「ダンジョンには沢山の人がいるじゃないか。1人ぐらい足手まといが居たって大丈夫だよ。」
「馬鹿言わないで!少し森に入って迷子になる子もいるのよ!貴方がその迷子を夕飯までに探してくれるの!?」
火に油を注いでくれた。
「何を騒いでいるかね。規定通り12歳を過ぎていれば構わないだろう。」
ギルド長(57)が現れた。
受付のおネェさんがキレた。
「何か有ってからじゃ遅いんですよ!残業で捜査隊を組むのも、遺族への挨拶も私がやっているんですよ!」
ギルド長ってアレだよね。ギルドで一番偉い人だよね。受付のおネェさんより偉いんだよね。というか、受付のおネェさんの仕事が大変そうだ。遺族への挨拶って、それこそギルド長の仕事じゃないだろうか。
おネェさんを宥めるのに苦労した。主にギルド長が。
「仕方ないわね。ハンスが言うのだから実力は付けてきたみたいね。でも、7歳児に負けたって話が最近まで流れていたのも事実よ。だから試験を受けてもらうわ。そこのキール!貴方が相手しなさい!」
たまたま居合わせたダンジョンから戻ってきたばかりだろうキール君(16)にとばっちりが行った。
「え。オレ?」
「アンタと同じ年だし、丁度良いわよ。」
「男女の差とかは?」
「実力を見るための物だからアマネが負けても良いのよ。ま、アンタが負けたらお笑い種だね。」
そして、受付のおネェさんの手下となったキール君(16)との決闘(試験)を経て、やっとギルド証を貰うことが出来たのだった。
ごめんねキール君(16)。最弱の称号は君にあげよう。
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次回:迫りくる『乙女の危機』
 




