勝負
--勝負--
あらすじ:ダンジョン前でオヤジ達が暴走していた。
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私の挑発に、俺が俺がと弓を持った人が群がる。
ヤジを飛ばした人を選びたかったけど、どの人だったか解らなくなってしまった。
「じゃあ、そっちのお兄さんにお願いします。こちらに来てください。的の中心に近い方が勝ちです。あ、魔法はナシで。先にお願いします。」
的はサイモンさんが弓で当てられるギリギリくらいに置いて貰った。さらに的の中心を狙うのだから難しいくなると思う。あと、風の魔法を補助に使う人がいるので魔法は禁止だ。
「ライアン!手加減してやれよ!」
「負けたら恥ずかしいぞ!」
壮大なヤジの中、ライアンと呼ばれたお兄さんが打つ。
当たった!
上手い人だった。ド真ん中では無いけど、かなり中心に近い位置に当てた。サイモンさんとゴルドさんの弓の腕を見て決めた距離なのだったけど、やっぱり本職は違うらしい。
お兄さんは右手を挙げてガッツポーズをしている。
私が勝つにはド真ん中に当てるしかない。
「うわっ、これは難しいですね。」
「どうした黒猫!逃げるか!?」
ヤジが飛ぶ。
皆が見守る中、緊張して構える。立て膝を突き半身になって脇を締める。
よーく狙って…。
打つ。
バシュッと風切り音の後に刺さった矢は、ギリギリ負けていた。悔しい。
「参りました。私の負けです。」
歓声が上がる。
「すげェ。ライアンと同じ距離を飛ばしやがった。『7歳児に負ける黒猫』が!」
負けても良い気分でやったデモンストレーションだけど、やっぱり負けると悔しい。しかめっ面でホットドッグを勝った人に渡す。笑顔に戻れなかった。
「おめでとうございます。商品です。」
「ありがとう。すごいねコレ。クロスボウだっけ?威力の勝負なら負けていたよ。」
矢の刺さり具合を見て慰めてくれた。
クロスボウの矢の方が的に深く刺さっていた。
最弱な私が屈強な大人と同じ事が出来る、それが今回の売りだったから。だから、負けても良いと思っていた。けど悔しい。
「次、オレの番ね。」
「あ、オレもやりたい。」
冒険者のオジサン達が次々と自分の弓を持ってサイモンさんとゴルドさんが作った射的場に並んでいく。
「クロスボウいかかがですか~!私でも的に当てられるクロスボウですよ~!」
気を取り直して笑顔で売り込みを続けよう。
「はい!終わった人からダンジョンに行く!あんたらが早く帰って来ないと私が帰れないじゃない!!」
この広場を管理している、冒険者ギルドのおネェさんが怒鳴り込んでくるまで騒ぎは続いた。
冒険者ギルドの受付のおネェさんは強かったよ。
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昼食を兼ねて反省会を開いた。
「1つも売れなかったぞ。」
「なぜ売れなかったんだ?」
「デモンストレーションで負けたからじゃないか?」
「アマネが選んだのがライアンだったのも悪かったな。」
「知らないわよ。そんなに上手い人だったの?」
私のだけの責任にされては堪らない。そもそも始める前は2人とも負けても良いと言っていた。
だから、私がデモンストレーションをしたのだ。
2人がやるより、弱いと評判の私がした方が効果が解りやすいからね。
「狩りは上手くないが、矢を当てるだけなら上の方かな。」
「あの距離を当てられる奴はそうはいないな。オレじゃ当てられん。」
「みんなは当てるのが難しいって解っていて、それでも売れなかったの?」
「そうだな。何人か捕まえて話を聞いてみた。ひとつはカネの問題だな。今までの弓で十分狩れるから必要ないって奴らだ。ずっと同じ場所で狩りをしているんだ、狩り方を変えるほどのメリットが無かったんだな。」
私の質問にゴルドさんが解説してくれた。
「狩り方と言えば、2連射する奴らも嫌がっていたな。奴らは1発目で挑発して、2発目でトドメを刺すような狩り方をするんだ。1発目でモンスターの顔を自分に向けさせて、急所を狙いやすくする連中だな。だから連射ができないのは辛いんだろうな。中には3発目まで打つ奴も居るしな。」
なるほど、必ずしも自分に有利な方からモンスターに近づけるとは限らないからね。習性を利用してパターンを作る人も居るんだね。
「最大の欠点は重たいって事だな。こいつはみんな口をそろえて言ってたぜ。あいつらはダンジョンの中で走り回っているからな。」
「ダンジョンの中って走り回るものなの?」
ダンジョンの中ではトラップとかモンスターとかを警戒しながら慎重に進んでいくものだと思っていた。
「移動の時間は金にならないからな。どうせ慣れた場所だし、ギルドが整備しているからな。狩りの時間を長くするために走って移動する奴らは多いぞ。まぁ、走らなくても軽い方が楽だし、万が一の時に逃げるのも楽になる。」
「なあ、アマネ。クロスボウを軽くする方法は無いのか?」
ちょっと悩む。本体を木製じゃなくてアルミ製とかカーボン素材とかにできれば軽くなるんだろうけど…。技術的にも知識的にも難しい気がする。炭をどうしたらカーボンに出来るんだろう?
「ないことは…無いけど、今のままじゃ無理なんじゃないかな…。」
「あるのか?」
「ホントか?」
「いや、詳しい作り方が解らないよ。新しい素材を作る話だからね。」
「木や鉄を使わないって事か?」
「そういう感じ。使えれば便利だけど、私には作り方が解らないからね。」
アルミやカーボンを矢のシャフトに使えれば売れる気がする。弓道部の子が使っていたのはそんな素材の矢だったと思う。それに今までの弓が使える軽い矢ならば需要が有りそうだ。
作れればだけどね。
「そうか、まぁ、しばらくは無理だな。作れるようになったら教えてくれ。」
そういう事で、クロスボウは失敗に終わった。
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「ホットドッグいかがですか~。『猫の帽子屋』のホットドッグですよ~。」
次の日も朝から元気にホットドックを売りに行った。
ダンジョン前の広場に人垣ができている。
「おい、線からはみ出しているぞ。」
「次はオレの番だな。見てろよ!」
「コラ~!さっさとダンジョンに行ってこ~い!」
「もう1回、もう1回だけ!」
「帰ってきてからやれ!」
次の日から弓による射的が流行った。
冒険者ギルドの、受付のおネェさんの怒鳴り声が、ダンジョン前広場に響き渡っていた。
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次回:負け続きな『収穫祭』




