3つの祝福
--3つの祝福--
あらすじ:勇者にされた。
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紫の瞳の女性が温かな飲み物を皆の前に置いてくれた。立ち上がって抗議していた、取り乱し気味の私も、お礼を言って口に含む、薄い。微かにハーブらしき香りがする白湯のようだ。少し悲しくなる。
「イケメンとは何でしょう?」
「…伝説の聖獣です…。」
哀しさが増した。
「ここに聖獣は居ないですね。申し訳ありません。」
謝られても困るけど。
「話を元に戻しますが、勇者様には、この親子の武器屋を救って頂きたいのです。」
女神様の要求が、ワカラナイ。
勇者の仕事って武器屋を救う事だっけ?
「あの、世界を救うんじゃ無いんですか?確か夢の中で…。」
「あぁ、アレはデフォルトのままでしたから。」
また出たデフォルト。デフォルトは有るのにテンプレは見当たらない。
「私は、まだ生まれたばかりの若い神です。魔道具はこの世界で使われ始めたばかりの物でして、魔道具を司る私に祈りを捧げてくださる方が少ないのです。長い時をかけてやっと100万の祈りを集める事が出来ましたので、100万個目の祈りを捧げて下さった方にお礼をしようと思い、この武器屋に顕現したのです。」
動物園のイベントかな?有ったよね。来場100万人記念に粗品進呈とか。
「聞けばこの親子。旦那様を亡くされて、遺された武器屋も経営が上手くいっていない様なのです。」
なるほどの白湯。ビンボーさんだ。貧乏さんだから茶葉をケチるんだね。
手元のお茶と紫の瞳の女の人を見比べると、彼女は頬を染めて俯いた。この武器屋の奥さんなのだろう。説明からすれば未亡人ということになる。奥さんは20代半ばに見えて、隣の子は10歳くらいに見える。この世界は早婚なのだろうか。
「そこで、勇者様に、この売れない武器屋を救って頂きたいのです!そして、私の布教をしてください。お願いします!」
「勇者関係無いじゃん!」
聖女どころか、勇者も関係無かったよ。村娘でもできそうだ。
しかも魔道具の女神様からは、布教の方が大事だという気がひしひし伝わってくる。ものすごく布教と言う言葉に力が入っていたよ。
「例えば、新しい旦那様を探す手伝いをしたら良いのでしょうか?そうすれば旦那さんが店を盛り上げてくれるでしょう?」
女神様は「その手が有ったか」と言うような顔をしたけど、コホンと咳払いをすると表情を戻した。初志貫徹するようだ。しなくて良いのに。
「勇者様の知識を生かして、新しい武器とか魔道具とか作って下さい!特に私が目立てそうな魔道具を!是非!」
「悪いけど、魔法が無い世界だったので魔法なんて使えないのですけど、魔道具って魔法の道具なんですよね?ソレ、私に作れるんですか?」
「魔法の無い世界に魔法の概念が有るのですか?貴女の記憶の中に魔法は有ったハズですけど。」
「作り話の中だけですよ…。」
科学も魔法も作り方が解らないのは一緒だけど、いきなり魔法の道具なんて作れっこない。
「それなら、アイデアだけでも無いですか?新しい人を召喚するためには、次の100万の祈りだけでは足りないのですよ。どうですか?だめですか?」
女神様の声がどんどん小さくなっていった。
知らないよ。女子高生に期待するな!
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「ゆ、勇者様には女神の祝福を授けました。3つも!」
気まずさが増したのか、女神様は慌てて3本の指を立てた。
祝福と言うとチートだよね。
他の人が持っていない特別な能力、それがチート。チート能力は異世界転移モノではテンプレだったし、ここは魔法が有る世界なので期待ができる。すごい魔法とか使ってみたい!目指せ!大魔法使いみたいな。
私が勢いよく喰いつくと、女神様は気を良くしたのか胸を張って説明してくれた。
「ひとつは『基本セット』の祝福。この世界の言葉が読み書きできるようになり、病気などの抗体が作られて、この世界の人間として不自由しなくなります。魔法の無い世界から来られても魔法が使えるハズです。」
うんうん、基本だね。
言葉から覚えていたら、武器屋なんていつまで経っても救えないし。物語も進まない。
それに魔法が使えると言うのは、すごくワクワクする。どんな魔法が使えるのだろうか?
だけど病気の抗体と言う事は、前の世界と同じように病気にはなってしまうんだね。もっと病気にならないとか、状態異常にならないとか、ハデさが有っても良いのだけど、セットみたいなので我慢しよう。他にも2つ有るみたいだし。
「2つ目は『女神の勇者』の祝福。祭壇を作り、祈る事で私と交信することが出来ます。本来なら神殿が必要なのですが、私にはまだ神殿が有りませんので…。」
女神の勇者の祝福は女神と話す事が出来る様になるだけなのか…。しかも、携帯型ではなく祭壇という据え置き型…。ショボい。
でも、何かをするにしても独りで悩まないで、相談をする先が有るだけでも有り難いかも。もしもの時に女神様に相談が出来るなら心強いだろうね。
ここは異世界だと言っていたので知り合いも居ないはず、よく相談に乗ってくれていた幼馴染のミーちゃんも、この世界にはいないだろう。
「3つ目は、『武器屋の勇者』の祝福!お店が儲かるとレベルが上がります。まさに今回のために考え抜いた祝福!勇者様とお店が共栄出来るのです!」
女神様がドヤ顔になる。満面のやり抜いた様な素晴らしい笑みだ。
けど、疑問に思う。
「私が戦う必要があるの?」
レベルって言うのは戦闘に関わるステータスの事だよね?勇者のレベルだし。
武器屋を儲けさせるために、私が戦う必要が有るのだろうかか?争い事の経験がない女子高生が戦えるのだろうか?しかもさっきまで勇者じゃなくても良いような流れだったのに…。
素晴らしいドヤ顔を見せていた女神様の時が止まった。
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次回:『森の恵み』を貰いに行こう!