クロスボウ
--クロスボウ--
あらすじ:筋肉オジサンの笑顔が眩しかった。
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「ありがとうございます。次の注文も良いですか?」
とても可愛らしくなったワゴンの値段が、最初に約束されていた金額から変わらなかった事にホッとしながら新しい仕事の話を切り出す。
ワゴンの出来で信頼できると感じたから、次もここで注文しようと思う。
いや、金額とか出来上がりの可愛さはともかくとして、丁寧に磨かれた綺麗な仕上げ。可愛い見た目なのに、ちゃんと目的通りに動く細かさ。微調整も簡単に出来る工夫。見事な出来栄えはさすが本職の人だと思う。とてつもなく可愛いけれど。
次の注文は量産してもらう都合上、適正価格を提示してもらうつもりだけどね。
ワゴンは自分で使うものだし、安くしてもらえて嬉しかったけど、商品として売りに出すものはしっかりと信頼関係を築ける値段にしておきたい。それに安くしてもらって奥さんに怒られたら可哀そうだし。
そして新しい仕事は、もちろん知識チートを活用するつもりだ。
「良いぞ。また面白いのを頼むぞ。」
サイモンさんが、再び良い笑顔でニッカリと笑う。
「クロスボウって言うのですけど、知っていますか?」
「知らないな、どんなのだ?」
この世界に無くて良かった。ミル君やコレットさんには確認していたのだけど。本職とは言え、どこか抜けた所のあるコレットさんと、まだ10歳と若いミル君からの話では少し不安が有ったのだ。
前の世界の記憶だとウィリアム・テルくらいしかクスボウを使っている人を知らないけれど、それでも昔の人でも思いついたんだから、こちらの世界でも同じアイディアを出す人が居たかもしれない。と不安に思っていた。ウィリアム・テルがいつの時代の人か知らないけど。
私はワゴンの時と同じように木に書いた絵を取り出して見せる。もちろん注釈も付けている。
「弓みたいに遠い場所を攻撃するための武器です。この部分が弓になっていて、あらかじめ弦を引いておいてここの金具で留めます。で、矢をつがえてこっちのスイッチを操作したら矢が飛んでいきます。」
「ふんふん、この足踏みってのはなんだ?」
サイモンさんは説明してない注釈を読んだ。
やっぱり文字が読めないと言うのはブラフだったみたいだ。しかも最初から説明していない注釈の部分を質問してきているという事は、もう隠す気も無いらしい。
そして、クロスボウ。武器屋だから新商品を入れてみたいじゃん。異世界から来た新しい武器。きっと売れると思うんだけど。絶対!
「そこを足で押さえておいて、体全体で弦を引いておけば、今までの弓のように腕力だけで引くとき以上に遠くに飛びます。同じ距離なら破壊力も上がります。」
文字が読めないという設定に気付かなかったフリをしてそのまま答える。ツッこんであげない。
「なるほど、飛距離が出るのは魅力だな。」
サイモンさんは突っ込まれなかったことを気にせず続けた。少し悔しい。
「ついでに、撃つ時は弦を固定しているので、弦を引くことによって生まれる手振れにの揺れがでません。命中率が上がりますよ。」
「で、連射は出きるのか?」
「弓ほどの連射は出来ません。弦を増やして最初から2本つがえておいたりと複雑な構造にすればできると思いますけど、とりあえず狩りに使うだけなら要らないでしょう?後は使い方を工夫するとか。」
「使い方の工夫とは?」
「同じものを2台用意して1人が撃ってる間にもう1人が矢をつがえて準備をして交互に撃つとかどうですか?」
「狩り向けじゃないな。2人居るなら違う方向から獲物に近づいた方が逃げ場を失くせしたり後ろを取りやすくなるからな。後は重さとスイッチと…、なんだ、前回断った板バネなんて使いやがって、ゴルドのヤツ怒るぜ。」
次々と読んでいない注釈を読んでいく。
言葉をワザと間違えて引っ掛けに使うつもりだった注釈もスラスラと読んでいく。ツッコまれたら読める事を指摘してやろうと思っていたのに。悔しがる顔が見れなかったのが悔しい。
「無理なら良いんです。そこは強弓にする手の1つとしてアイディアを盛ってみただけなんで。竹の補強でもそれなりに強くすることはできますよね。それに、これでもスイッチの部分でも妥協してるんですよ。トリガーにするにはスプリングが必要みたいだったし。」
スイッチはテコの原理を使った物にした。ハンドルの上面に有って弦を押さえる方を重くしてあり、反対側を押さえるとテコで持ち上がって弦が解放される仕組みだ。鉄砲なんかで使われているトリガーなんかはスプリングで動作しているのか再現できなかったので、アイデイアを出すのに苦労した。
「これで簡単にしてあるのか、流石は賢女様。」
むぅ。膨れっ面してやる。トリガー使えなくてむちゃくちゃ悩んだんで、試作までしたんだから!
黙ってカゴから出した試作を見せる。
幼い頃に作った割り箸のゴム鉄砲みたいなオモチャだ。不細工な出来でかろうじて発射するための構造が解る程度の品物だ。いびつに削られた木の枝を、輪ゴムの代わりにあちこち紐で縛って留めてある。結構面倒くさかった。割り箸ってすごい。輪ゴムって偉大だ。
サイモンさんは動きを確認してため息を吐く。
「流石は賢女様だ…、ゴルドに怒られに行くか。母ちゃん、ちょっと出てくる。ゴルドのトコだ。」
そのまま加治屋さんに連行され、ゴルドさんにメチャクチャ怒られた。
細かい部品が多いってさ。
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次回:パン屋さんで『ホットドック教室』




