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武器屋の勇者様 ~ 祝福を受けたハズの女子高生の空回り奮闘記  作者: 61
1章:森の恵 ~飢えなくするために~
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勇者召喚

初めましてで、よろしくお願します。

--勇者召喚--



「…って…世界を…世界を救って…ください…勇者様!」



--------------------------------------------------



私、遠藤天音(16)はゆっくりと目を覚ました。


目に飛び込んできたのは木造の天井と3対の瞳。明るい室内の煤けた天井を背景に瞳達はこちらを心配そうに覗き込んでいる。


神秘的な翠の瞳と長い銀髪の美女。


落ち着いた紫の瞳と薄紅色の髪を束ねた女の人。


紫の瞳に好奇心を湛えた濃紺の髪の男の子。


「召喚成功です!」


翠の瞳の美女が嬉しそうに叫び、満面の笑顔で自己紹介を始めた。


「ようこそおいで下さいました、勇者様。私は魔道具を(つかさど)る女神、ロッテンプッテル。」


呆気にとられる。たぶん私の目は点になっているんじゃないかな。


なにせ目が覚めたら見知らぬ場所に制服姿で寝かされていて、3人からのぞき込まれている状態だ。無防備も良いところだよね。


勇者とかワケがわからない。


返事に困っている私をよそに自称女神様は話しを続ける。


「ここはダンジョンと共にある街、ユーハイムです。貴女様の居た世界とは異なる世界、つまり異世界に有ります。」



もっと返事に困った。



--------------------------------------------------



「なんで勇者なワケ?他にも有るでしょう?聖女とか、王女とか、令嬢とか!」


しばらく呆然としていた私の開口一番の言葉がそれだった。他にもツッコみ所は有るのに…。召喚とか、ボロ屋とか、魔道具の女神とかね。


召喚の魔方陣らしきものが描かれた木のテーブルから降りた私は、隣に置いて有った木の椅子に案内された。かなりボロい。いや、使い込まれている机と椅子だ。


(うなが)されるままにテーブルを降り、辺りを見回し、状況を咀嚼(そしゃく)しようとした。…うまく呑み込めなかった。


広めの部屋の中は生活感にあふれていた。


鍋やフライパンが壁に掛けられたキッチンに、4脚のイスが付いたテーブルと窓際にチェスト。暖炉の前に毛皮の敷物があるのが特徴的だと思うけれど、実用品らしく使い込まれていて毛がぺちゃんこになっている。


キッチンには鍋とヤカンが熾火(おりび)に掛けられて温められている。夕食だろう良い匂いがする。女の人と男の子は皮で継ぎ接ぎ(つぎはぎ)がしてある村人的な布の服を着て、並んで座ってこちらを見ている。似ているな。母子(おやこ)だろうか。


そんな貧乏そうな家の中で、柔らかな薄手の綺麗な生地の服を着て、あまつさえ魔法のような明かりを背後に従えている、自称女神様だけ存在感が違った。


アニメやテレビで見知っているので、異世界召喚というのは少しだけ知っている。だから理解できないわけじゃない。


ある日突然、今まで居た場所と違う世界に呼ばれて様々な役目をこなしていく。勇者だったり、英雄だったり、聖女だったり、お姫様だったり。


夢見たことくらいはあるよ。


異世界で聖女様として活躍するとか面白そうじゃない?国が困窮(こんきゅう)した所で王国を挙げて召喚されて、人々を癒して、国を癒して、王子様と結ばれる。あこがれるよね。


自分の身に起こるとは思っていなかったけど。


でも、女神様は勇者様って言っていた。勇者って…魔物と戦ったり、魔王と戦ったりして、男の子の役割じゃないのかな?私のような、か弱い女の子のすることじゃないよね?


だから、私の回らない頭が最初に思いついた事は「なんで私が勇者?」だった。聖女がやりたかった。女の子の夢だよね?勇者は無いよね?


「勇者にしたのは、召喚の儀式をデフォルトのまま使ったからで、別に勇者でも聖女で村娘でも良かったのですけどね。」


「じゃあ、聖女にしてよ!」


「面倒くさいんですよ。変更に時間もかかりますし。聖女にするだけで文言を大幅に変える事になってしまうのですよ。ただでさえ聖域でのイベントも面倒でスキップしましたのに。…それに、勇者だとコピペで済むんですよ。楽でしょう。」


立ち上がって抗議する私に、彼女はぽんっと手を打ちながら楽しそうに笑う。


女の子の夢を面倒くさがられた!私も聖女とか、王女とかやりたかった!


女神様は人差し指を(あご)に当ててトドメとばかりに、


「いまさら変更するのも面倒なので、勇者でお願いしますよ。どうせ聖なる力とか要らないですし、ね。」


と、のたまった。


100歩譲ろう、少女召喚の話の主流が聖女やら令嬢だとしても、勇者の話もそれなりにあるハズだ。


そもそも、もう少し(きらび)びやかというか(おごそ)かというか、召喚ってそういうものじゃない?わざわざ魔法陣まで有るんだし。聖域とやらの雰囲気を楽しみたいと言うか、自分が特別な存在だと思えるような、そんな感じで召喚してほしかった。少なくともボロ屋は無いよね。


「なんで聖堂とか神殿とかじゃないんですか!?どこですか?ここは!?イケメンはどこですか、イケメンは!?」


大事な事なので繰り返します。

イケメンはどこですか!?


国を挙げての召喚とか、(きら)びやかな聖堂とか、(おご)かな神殿とか、召喚したはずのイケメン魔法師団とか、ものものしいインテリ家臣団とか…、肉体美あふれる騎士団も、ダンディーな王様もニヒルな王子様も居ない。この際、悪役の司祭とかでも…イケメンなら…。…イケメンなら…。


でも、現実はボロい木造家屋のくたびれたテーブルでの召喚だ。祭壇ですらない。女神×1、未亡人×1、子供×1しかいない。



テンプレどこ行った!?



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次回:女神様が厳選した『3つの祝福』



本日、2/23 8時15分くらいから新作をアップいたします。


よろしければ、ご覧ください。


『裏路地占い師の探し物 ~勇者の殴り方は占えないんですか?~』


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