看板娘
--看板娘--
あらすじ:ホットドック万歳。
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今は売れつつあるホットドック屋。
始めるのは苦労した。非常に苦労した。本当に苦労した。
最初に自分の夕飯のパンにウサギ肉とカラシ菜モドキを挟んだだけのサンドイッチを作った。
まあ、この時は自分のご飯を美味しくしようとしたんだけどね。
だけど、パンをスープに浸しながら食べる文化とは馴染まなかった。硬いパンはそのままでは食べにくいし、パンに物を挟んでしまうとスープに浸せない。なのでコレットさんとミル君は興味を持たなかったんだよ。
小さな口でパンをちぎって食べるコレットさんの為にサイズを変えたり、パンの厚さを変えたりして食べやすくしてみた。食事を楽しみたかったし、何よりパトロンに食べてもらわなければ意味がないじゃない。
小さく改造を繰り返して興味を持って貰ったところで、材料を増やす提案をし、開発資金を手に入れた。お小遣いより少し多いお年玉程度の額だけどね。
伝説の大聖女オヨネ様の話が伝わっていた事も有利に働いたと思う。
異世界から来て農業を改革し味噌と醤油を伝えた。彼女はこの世界の国の危機を救い、この世界の農業と食文化を改革したらしい。ただ、ちょっと遠い国の話だから、この街では味噌と醤油は手に入りにくい。つまりお高い。
同じ国に来ていればもっと食生活が豊かだったに違いない。惜しい。
そんな訳で、オヨネ様と同じように異世界から来た私の食文化に興味を持ってくれた。
豊かで食べ物に溢れていて美味しい世界。それを食べてもらいたいと言う気持ちを語った。熱弁した。
食事の改善の為に貰った資金だったけど、このままでは1回の食事で無くなってしまう。だから、サンドイッチを売って増やす事にした。それに知らない人の反応も知りたかったしね。
最初は5個の改善版肉サンドを作った。
大きなバスケットに入った小さな5個の肉サンドを抱えて、朝のダンジョン前広場まで売りに行く。
「肉サンドいかがですか~。手軽に食べられるウサギのサンドイッチですよ~。ちょびっとピリカラ。小腹がすいた時のオヤツにどうですか。」
一生懸命考えた売り文句を、小さな声で呼びかけた。あの時は震えていた。冒険者の皆は何かしら食料は持っているだろうし、ダンジョンの中では肉が取れる。売れなかったらと思うとドキドキする。小細工として軽いオヤツと謳ってみた。
味見くらいはしてくれるかもしれない。
今では大声で呼び込みを掛ける事が出来るけれど、あの時はビビリまくっていた。何せ、ダンジョンに入るような体育会系のガタイの良いオジさんがたくさん居た。それも武器を持って。
ダンジョン前の広場には今日のお肉を狙って準備運動をする沢山のオジサンたち。
剣を振り、槍を回し、弓の具合を確かめている。
ブンブン、ブォオォン!
太陽に煌めく白銀の刃。轟音をうねらす槍の旋風。静かに鳴る弦の音さえも怖かった。
…近づけない。
「よう。アマネ。今日は何しているんだ?」
子供冒険者教室の先生をしてくれる人が話しかけてくれて本当に助かった。涙が出そうだった。初日は彼が売るのを助けてくれて、冒険者の人達を知ることができたし、私の事も知って貰えた。
次の日また、その先生を探した。しばらくは毎日最初にその人を探した。
その内に先生の紹介で知り合った人に助けて貰い、そのまた知り合いに助けてもらい。いつしか大声で呼び込み出来るようになった。
子供より弱いと言う評判まで付けてくれたのは余計だけど。確かにミル君より弱いけど。ウサギより弱いけど。
女神様の呪いだし。私が弱いんじゃ無いんだし。
今日の売り上げが明日の材料費だった。
けど、肉サンドなんて誰でも真似できる。家で肉を焼いた時に少し余らせて挟んで持ってくれば良いのだ。実際にやっている人も出てきたし。その方が節約になるだろう。
アドバンテージはカラシ菜の塩漬けだけ。これだってすぐに真似られてしまうかもしれない。
なので少しずつお金を貯めてケチャップモドキを作った。
あの時はハンバーガーを目指していたんだ。ミンチの肉は手間だけど自分でできるし。パテにする時に小麦粉を混ぜればツナギになる上にカサ増しも出来る。野菜を入れてもっとボリュームを出しても良かったかもしれない。
では、なぜホットドックになったのか?答えは簡単。持ち運びに不便だった。
ハンバーガーは上と下のパンズに分かれている。運んでいる内にパンの隙間からソースが漏れたのだ。食べる時も反対側から崩れた肉とソースがはみ出してしまったりする。
浄化の魔法で綺麗になるとはいえ、くるんだ布は真っ赤に染まりべちょべちょになった。元の世界のように耐水コーティングされた紙じゃない。ただの布切れなんだ。
荷物の中がべちょべちょになるのは、やっぱり気分がよくないので不評だった。
そんな折にお肉屋さんでソーセージを見かけた。保存も効くので多少のまとめ買いもできる。毎日自分でミンチを作らなくても良くて、それどころかお肉も切らなくても良い。ホットドックに変更した。
もともと乾燥トマトは余り好まれてはいなくて、酸味の強いトマトスープ的な物が有っただけだった。トマトケチャップは斬新だった。モドキだけど。
ケチャップの試作を小さなパンに塗って子供ダンジョン教室の先生に渡す。
「変わった味だな。やけに赤いけど、辛くないんだな。甘いというか。まぁ、美味いな。」
数を作るためにパンもパン屋で買うようになって、玉のままで長持ちする玉ねぎのみじん切りを追加して、腹持ちするように大きくしていった。お客さんの意見が反映されてきた。
その頃には私が『猫の帽子屋』の居候だと知る人が出来てきて、武器屋の雑貨の類いも売れる様になった。
「アマネちゃんって『猫の帽子屋』から来ているんだよね、疲労回復のポーション持ってない?忘れちゃってさ。」
先生の友達の知り合いの隣で聞いていたお客さん。彼の言葉が商機だった。
そして、すっかり忘れていた『武器屋の勇者』の使命を思い出した。まぁ、女神様のお願いだし、大層なものじゃ無いけど。
ポーションとホットドッグが入った篭に『猫の帽子屋』の看板を着け始めた。
目立つように真っ赤なショールを肩にかけその背中に看板を描いた。
私は『猫の帽子屋』の看板娘になった。文字通り。
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次回:『ワゴン』を作ってもらおう。




