魔道具工房
--魔道具工房--
あらすじ:お店の特色が無かった。
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「こんにちわ。」
街に数件ある魔道具工房。
その中でも『猫の帽子屋』と取引のある『苔むした巌工房』にやって来た。
魔道具について教えてもらうためだ。
魔道具の種類はそんなに多く無いけど、作り方は何がどうなってるのかさっぱり解らない。ミル君にも教えて貰ったけど解らなかった。
「なんじゃ、おお、ミル!よく来た。今日はどんな用件じゃ?」
奥から出てきたお爺さんが私を無視してミル君に話しかける。白髭の魔法使い。それを地で思わせるようなお爺さんだ。
「こんにちわ。シュラン爺さん。今日は魔道具について教えてもらいたくて来ました。」
ミル君が卒無く挨拶する。私が10歳の時にこんな挨拶ができただろうか?さすがミル君。
「ふむ、まぁ、本職だから説明は出来るが、何が知りたい?」
「このお姉さん、アマネェが魔道具に興味が有って、話しが聞けたら良いなって思って来たんだ。」
天音姉さん。略してアマネェ。ミル君が付けてくれた愛称だよ。かわいいよね。
「初めまし…」
「魔道具にか、そんなモンに興味が有るなんてロクな人間じゃないぞ。この数十年、新しい魔道具も開発されとらんし、どうせ魔法が有れば魔道具が無くても問題ないからの。」
挨拶の途中で割り込まれた。ロクな人間じゃ無いのはこのじいさんだよ!
「そんな事言わないで。教えてくれないの?」
ミル君の泣きそうな顔にさすがのお爺さんも困り顔をする。
「そうさな、何が聞きたい?」
「魔道具の構造とか、作り方が知りたいです。」
「ふざけるな!飯のタネをむざむざ他人に教える馬鹿がどこにおる!?」
私の質問には怒濤のごとく怒るよ、この人。まぁ、解らなく無いけど。自分の技術を、飯の種を簡単に教えたりしないでしょ?
だいたい、あのポンコツ女神様が魔道具の作り方を教えてくれれば良かったんだ。
使えない加護なんて付けてないで、自由にどんな魔道具でも作れるようにしてくれれば問題は無かったんだよ。魔道具が作れなくちゃ、それを広めるなんてどう考えても無理じゃないか。
魔道具を買わせるつもりだったのだろうか?既存の魔法しか使えない魔道具屋さんから?
すでにある魔道具はほとんど魔法で代用できてしまうので、魔道具を広める目的には使いにくいと思うんだけど。と言うか、魔法でできる事を魔道具にしているんだしね。
 
「そこを何とか、教えてください。」
頭を低く、腰を90度に曲げる。私ができる最敬礼。
「息子にも教えなかったモノを赤の他人にホイホイ教えられるか!出ていけ!」
追い出された。
魔法の発展が見込めないので、魔道具の発展も見込めない。なので、このお爺さんは自分の代でお店を終わりにしようとして息子たちにも魔道具の作り方を教えなかったらしい。ある意味、潔い。
だけど、それに反抗した息子たちは実家に戻らなくなって、孫にも会えないらしい。
あまり可哀そうじゃないし、おかげでミル君が可愛がられているので、コネを生かしてこうしてお願いしに来ることができる。
しかし、教えて貰わないと武器屋を盛り立てる目途が立たない。
『猫の帽子屋』では武器も作れない、防具も作れない。新しい武器をホイホイ作ってくれるような、良い仕入れ先が有るわけじゃない。
なら魔道具で盛り立てるしか無い。幸い魔法には当てが有る。現代知識を生かして魔道具を作る、それが一番の近道に思える。
今日のシュラン爺さんは取り付く島がない。この後もずっと怒鳴り続けていた。
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仕方ないので出直した。ミル君に頼っていると思われたくないので独りで、お土産を持って。
とは言えお金が無いのでお菓子なんて贅沢な事は出来ない。せいぜい持って行けるのは森の恵みくらいだ。
「ごめんください。」
今度は、おばあちゃんが出てきた。
「あらあらあら。こんにちは。貴女がアマネちゃんね。綺麗な黒髪に可愛らしい瞳だこと。ほんとにカラスみたいに賢そうね。あの人ったらミルにカラスが集ってしまったなんて言うのよ。カラスだって綺麗なのにね。」
出てきたのは白髪のおばあちゃん。すらっとした体に緑のローブを纏ってふわっと笑う。細められた目から覗く緑の瞳がとても上品だ。
そして弧を書く薄い唇からは褒めているのか褒めてないのかわからない言葉が紡ぎ出されてくる。
多分、この世界でもカラスは人類の敵なんじゃないかな。
「ごめんなさいね。あの人の言う様に教える事は出来ないわ。」
この人は話の長いおばあちゃんで、とても長い長いお話の末に断られた。話の内容はカラスとシュラン爺さんの壮絶な戦いだった。どうでもいい。
そう言えば、話が長すぎて名前を聞かなかった。ミル君に聞いておこう。
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1週間ほど独りで通ってみたけどダメだった。『三顧の礼』なんて偉い人が3回も訪れる事に意味が有るわけで、役立たずが何度行ってもうるさい蚊と同じ効果しかない。
かといって、土下座や座り込みまでする気もない。魔道具が作れなくて一番困るのは魔道具の女神様だろうし、せっかく祭壇まで作ったのに返事をしてくれない人が悪い。
女神様が困ったら、もう1度出てきてくれるかな、とも思う。
そうすれば、簡単に魔道具の作り方も教えて貰えるかもしれない。
他にも数件の魔道具工房はあるけど。まぁ、縁も無いしそちらは期待薄なんだけど。
最後の1押しにミル君に独りで行ってもらった。泣き落とし作戦をしてもらう。
「アマネェは僕の為に頑張ってくれているんだ。算数や文字も教えてくれる。魔道具を覚えたいのも僕たちの為なんだ。シュラン爺さんお願いします。アマネェに魔道具を教えてあげて下さい。」
と言うことを上目遣いで涙をためて言うように仕込んで送り込んだ。
「仕方ねぇ、金貨10枚。教育費として持って来させろ。あの娘が自分で稼いだ金でな。魔石も只じゃ無いんだから。」
ミル君効果でも譲歩までしか引き出せなかったよ。
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次回:祝福と言う名の『呪』
 




