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 とりあえず逃げている。

 今までの必死さに比べたら桁違いに必死に逃げている。


 もし捕まったら確実に死ぬからだ。


 俺が逃げている相手は二匹のゴブリン。

 棍棒片手に追いかけてきている。


 一週間ほどこの世界での生活を学び、冒険者ギルドで登録を終えて、初めてのクエスト。

 おれのステータスカードで「?」だった職業欄に「冒険者」が明記された。

 ゴブリン討伐というクエストを同居人でもある剣一姫、フィリー・ラポーズ、古場佐々子とともに受けたのだ。内容は一日のうちにゴブリン三匹を討伐するという超初心者向けの討伐依頼。

 ゴブリン一匹につき10銅貨、成功報酬は20銅貨、合計50銅貨という内容だ。

 はっきりいってしょぼい。


 ゴブリンが最弱種で、普通の人でも戦える相手なのだが、一応命を落とすこともあるので、報酬は出るようだ。ゴブリンは繁殖率が高く、放っておくと数の暴力が発生するので数減らしが必要なのである。そのためか、常にある依頼の一つであり、俺の同居人たちの日課ともなっている。


 街から1時間ほどに歩いたところにある大森林。

 多種多様な魔物が潜むこの森。

 奥地に行けば行くほど、凶悪で手ごわい魔物がいるという。

 大森林を抜けた先にある大きな山には、凶悪なドラゴンが住んでいるという伝説がある。

 ドラゴンは滅多に人前に出ることはなく、街に残っている記録では最後に人里に降りて来て大災害となったのは、今から数百年前ともいうから触らぬ神に祟りなしといった感じのようだ。


 話を戻すが、森の入り口付近にゴブリンは生息している。

 食糧集めのために少ない数で行動しているゴブリンが俺らのターゲットだ。

 大体、二匹か三匹で行動しており、30分も探せば見つかる。

 

「いたデス」


 草陰に隠れながら前に進んでいたフィリーが言った。

 子供くらいの低い身長、いかにも邪悪そうな顔つき、不健康そうな薄い緑色の肌。

 うーん、まさしく小鬼(ゴブリン)ぽい。


「三匹いますデス」

「では、私とフィリーで左の一匹を。佐々子と斑目で右の一匹を頼む。その後、全員で残り一匹をという策じゃ」

 一姫からの提案にみんなが頷き、突撃をかけた。


 俺はここで気付くべきだった。

 先に倒せなかったらどうするのかということを。


「やあっ!」


 一姫がゴブリンへと殺到し、刀を振り下ろす。

 ひょろひょろと明らかに刀の重さに力負けした剣の軌道。

 ゴブリンは最初こそ驚いていたもののヒョイと一姫の刀を避ける。

 フィリーがハルバートで一突き――ゴブリンが避ける前にいた場所へ。


 ガキィンと一姫とフィリーの武器が交差する。

 

「何やってんのお前ら!?」


 俺はゴブリンにショートソードを叩き込みながら吼える。

 佐々子は手にした薙刀をぶんぶん振り回して俺ごと威嚇している。

 

「お前は俺もぶった切る気かよ!」

   

 俺たちの身長の半分くらいとはいえ、ゴブリンもそれなりに力はある。

 持っているのは木の棒だが、殺傷能力は十分にあるだろう。

 俺の攻撃もなかなか当たらないというか、腰が引けてるせいか、届いていないことが多い。

 斬るというより叩いているというのが合っているだろう。

 

「これはまずいのじゃ」


 俺が一匹のゴブリンと悪戦苦闘していると一姫が言った。

 一姫とフィリーは戦っているゴブリンとにらめっこしたまま、何もしていない。

 そうこうしているうちに、奥にいたゴブリンが雄叫びを上げながら近づいてくる。


 ちょうど、戦っていたゴブリンの脳天に俺のショートソードがめり込んだ時だった。


「皆の者、撤退じゃ!」

  

 一姫の言葉に即反応して、フィリーと佐々子は逃げだした。

 まるで訓練されているかのように、一目散に、脱兎のごとく逃げだしたのだ。


「……え?」


 取り残された俺の目の前にいるのは、今しがたの攻撃で昏倒しているゴブリン一匹と、棍棒を振り上げながら雄叫びを挙げて近づいてくるまだまだ元気なゴブリン二匹。

 無理だから、いきなり複数なんて無理だから。


 俺も脱兎のごとく逃げだした。

 逃げ足だけなら誰にも負けねえ。


 俺は森の出口を目指して走り続ける。

 少しずつ、少しずつではあるが。ゴブリンから距離を稼げてる。

 これならば、このまま逃げ切ることも可能だろう。


 可能だった――茂みの中にお尻が三つ並んでいるのを見つけるまでは。 


 本人たちは隠れているつもりなのだろう。

 頭隠して尻隠さずを地でやる奴がここに三人もいた。


 このまま通り過ぎれば、確実に奴らに見つかるだろう。

 俺を置いて行った罰だと思えばそれもいい。

 だが、女の子を置いて一人で逃げるなんて、俺もそこまで性根は腐ってない。

 俺はくるりと振り返り、ゴブリンに向かって叫ぶ。


「こいおらぁ! とことんやってやんぞコラァ!」


 まあ、必死に戦いましたとも。

 体中に青痣をつくって、傷だらけになりながらも、なんとか倒しましたとも。

 最初に倒したゴブリンも俺の一撃で絶命していたようで、俺の初クエストは成功に終わった。


 討伐証明としてゴブリンの爪を剥がして持ち帰る。

 街へ戻って冒険者ギルドからの初報酬、銅貨五〇枚を受け取る。

 

 ここである事実が判明する。


 ゴブリン退治が彼女たちの日課という話だったが、なんのことはない。

 彼女たちは()()()依頼を達成できたのである。

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