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150キロ彼方の証明 ~二宮浩太郎の独断推理ノート特別編~  作者: スズキ
特別編 「150キロ彼方の証明」 VSツアーコンダクター/菅野遼
12/15

十二・罠にかかった探偵



 十二・午前十時五十六分 旅館あさみな別館・うぐいすの間



「なに、まさかわたしが事件の共犯者だとでもいうの」


 二宮に指をさされた千尋は訳が分からず、しどろもどろになった。


「そんな事いっていないでしょ。え、まさか大川さん共犯者なの?」


「ンなわけ無いでしょうっ」千尋は怒りの声をあげた。


「冗談でそんなに怒らなくたっていいじゃない」


「じゃあ教えてよ。わたしが事件にどう関わっているっていうの」


「昨夜、僕らが現場に入った時の事を覚えてる?」


「覚えているわよ。被害者の愛人の悲鳴を聞いて、現場に行って突入したでしょ」


「大川さんが跳ね返った部屋のドアに激突して、鼻血を吹いたのも忘れていないだろうね」


 昨夜の嫌な思い出を掘り返された千尋は赤面した。


「わ、忘れてはいないわよ! だけどそんなの事件には全然関係無いじゃない!」


「関係無かったらこんな話しないよ」


 それを聞いた遼は顔には出さなかったものの、激しく動揺した。


 まさか、あれが重大なミスになってしまうなんて――


「え、どういう事?」肝を冷やす遼の隣で、千尋は間の抜けた顔をしていた。


「うーん。実際に目で見た方が判りやすいかな」


 二宮は部屋の外に出て、部屋のドアを現場に突入した時の様に軽く閉じた。


「さて、ここで大川さんと同じ様にドアを力強く押します。ぶつかったら危ないのでちょっと離れていてください」そういって二宮は力強くドアを押した。


 そのドアは勢いよく壁にぶつかり、跳ね返って二宮に激突するように思われた。しかしドアは空気抵抗により急速に速度が落ち、壁までは到達したものの、跳ね返らず、数秒経って動きが止まった。


「うそ、どうなっているの」


「どうなっているも何も、元々旅館のドアはどんなに力強く開けても、壁に当たったとしても、ドアを空けた人に激突なんかしないんだよ。この部屋に限らず、どの部屋も」


「じゃあどうして昨夜はわたしの顔に激突したのよ!」


「考えられる可能性は一つしかない」二宮は人差し指を上に向けて話を続ける。


「実はあの時、押し入れから抜け出すチャンスができて、壁側に隠れて部屋から出るチャンスを窺っていた犯人が、急に迫ってきたドアを反射的に跳ね返してしまった――この推理が正しければ、この事件の謎を一気に解決することが出来る」


 推論を述べた二宮は遼に目を向けて「菅野さん」と呼んだ。


「僕が部屋に入って遺体を観察していた時、あなたは僕のすぐ後ろに立っていましたね」


「それが何だと言うんですか。僕が隠れていたドアから出て、あたかも今現場に来たばかりだったかの様に振る舞っていたとでも言うんですか?」


「旅館の女将さんから聞きました。あなたは引率者用のマスターキーを持っていると。お風呂に入っていた天堂院さん達が鍵をかけた部屋にも侵入できるのは、マスターキーを持っていたあなたしか居ないんです」


 二宮の追及が続く。しかし、こんな所で引き下がる訳にはいかない。


「だけど僕が天堂院を殺したって証拠はどこにも無いでしょう。そもそもこの事件が殺人だって根拠も無い。自殺だったという可能性も十分あり得る」


 反論をした遼だが、それを聞いて二宮はにやりと笑った。


「それも間もなく証明することができそうです」


「どうして」


「実はですね。現場に残っていた証拠品の中に、天堂院さんが書いたという遺書があったんです。その遺書にはパソコンで書いた文章と、肉筆のサインがあったんです。このサインが、犯人が天堂院さんの字を真似て書いたものだとすれば、この事件は殺人だったと証明できます。そして偽のサインを書いた人物を特定すればそこで事件は解決です。今朝科研に筆跡鑑定を依頼しましたから、間もなく結果が届く頃でしょう」


「あっ、その鑑定結果だけど、さっき京都府警からわたしに渡されたけど」


 千尋が持っていた鞄から鑑定結果の入ったクリアファイルを出し、二宮に渡した。


「どうもありがとう。さて、結果は……」


 渡されたファイルから書類を出した二宮は、そこに書かれている文章を読んだ。彼の推理が正しければ、鑑定結果は“鑑定した筆跡は天堂院創大のものと同一ではない”と書かれているはずだった。


 しかし資料を見た二宮は顔をしかめ、眉間にしわを寄せた。


「結果は? どうだったんですか?」遼は表情が緩むのを抑えながら、二宮に尋ねた。


「結果はですね……“鑑定した筆跡は天堂院創大のものと同一である”……だそうです」


「なら決まりだ。天堂院創大の死は自殺だったということです」遼は得意げな表情で言った。


「それじゃあ、仕事があるのでここで失礼します。二宮さん達も、午後の準備をした方が良いですよ」


 そういって遼は部屋を出ていった。


 ――これでこの事件はお終いだ。あとはこのツアーを終わらせるだけだ。


 そう思いながら遼は軽い足取りですずめの間へと戻った。部屋に残された二宮は、自分の予想と全く異なる鑑定結果と睨み合っていた。


「大川さん、これ、ドッキリで仕込んだものじゃないよね」


「なんでわたしがそんな事するのよ」


「だけどおかしいよ、この結果」


「そんなの、わたしにいわないでよ」


「だとしたら、何か、見逃している所があるのかなあ」


 二宮は床に座り込んで頭を掻いて思案を巡らせるが、問題を解決する答えは出てこなかった。


 結局、謎は解けないまま彼らは旅館を離れ、バスに乗って最後の観光地、東映太秦映画村へと向かったのだった。




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