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図書室で笑う少女  作者: イイダマサムネ
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第4話 カフェにて

 学校から最寄りの駅近くにあるカフェに入ると、私と恵先輩は注文をすませてから店内の端にある席に向かった。店内には学校帰りと思われる生徒たちの姿もあった。学校帰りにだれかとお店に立ち寄ることに慣れていない私は緊張していたのだが、これなら他の人の視線を気にする必要ないと思い腰を下ろした。


 先輩がブレンドコーヒーに口をつける。


「どうしたの?」


「いえ、先輩はキャラメルマキアートとかもっと甘そうなのを注文しそうなイメージでした」


「よく言われる」と恵先輩は笑った。


 私は抹茶ラテを注文した。ストローを挿してから飲むと、口の中に抹茶の甘さとほろ苦さが広がった。


「先輩はファンタジー小説とか好きなんですか?」せっかくの機会なので、私は以前から気になっていたことを質問した。


「いろいろ好きよ。もちろんファンタジーも好きだけど、他にもスリラーやミステリー、サスペンス、恋愛ものも読むわ」


 恵先輩はコーヒーを飲みながら答えた。


「守備範囲が広いんですね。でも推理小説はそうでもないんですか?」


「なんでそう思うの?」


「先輩が入荷した推理小説が一巻でとまっていたからそうなのかなって……」


 恵先輩は目を広げて驚いた。それから口の端をあげた。


「ちょっと……春香さんそんなところ見てたの? もしかして私のファン?」


「いやいや、そうじゃないんですけど、すみません。わたしが好きになる本は先輩の推薦した本が多くて、たまたま気がついちゃったんです」私は慌てて胸の前で手を横に振った。


「ほんとかなー。……でもまあ、わたしも同じだけどね」


「え? 何がですか?」わたしは首を傾げた。


「春香さんの推薦で入荷した本、私も好きよ。先月に入荷したミステリー小説なんか手が止まらなかったくらい」


 そう、先月はわたしが推薦した本が図書室に入荷された。図書室に置かれる新しい本は図書委員の推薦によって決まることが多い。大原先生が偏りがないように選ぶが、推薦した本が入荷されるかは運次第となる。毎月四、五冊が入荷されるので、いちいちそれが誰の推薦によるものか気にする人は少ないはずだった。


「私たち、本に関しては考えることが似てるのかもね」先輩は目を細めてこちらを見た。




 それからしばらくは雑談で盛り上がっていた。私は本題に入る前の雑談として話題を振ったつもりだったのだが、気がつくとわたしは図書室のうわさを放り出してまったく関係のない話で盛り上がっていた。


「……先輩の家も狭いんですね」


「うん、しかもお父さんとか平気でわたしと姉の部屋に入ってくるし。年頃の女の子としては困っちゃうよね、姉はもう慣れたみたいなこと言ってるけど」


 先輩は両親と姉の四人で2LDKのマンションに暮らしているという。お父さんのデリカシーがないとか、プライバシーが保たれないとか、話題のほとんどに共感がもてた。同じ悩みを共有した私は、ほんの数分で親友のような親近感を覚えていた。


「……だから図書室は私にとっても大切な場所なの」


 それは恵先輩の言葉だったが、自分の口から出たと錯覚を覚えるほど、私は共感した。


 ふと窓の外に目を向けると、陽が沈んで暗くなっていることに気がついた。スマートフォンを取り出して時間を確認する。六時半を過ぎていた。雑談も楽しいがわたしは別に相談しなければならないことがあることを思い出した。


「……そういえば、例の戸締りの件はいつまで続くんでしょうね」


「うーん、理事長がお祓いをするまでかな? 正直、検討もつかないよね……他にも利用する人が多いから困るよね……」先輩は渋面を作ると、腕を組みながら唸った。


「……実は幽霊に心当たりがあるんです」


「え!?」


「わたしも来年は受験じゃないですか。だけど実家は狭くてうるさいので勉強が捗るとはとてもいえない環境なんです。だから図書委員の仕事が終わったあとに居残りで勉強する日がわりとあったんです。もしかしたら、そのとき家に帰宅が遅れる旨を伝える電話の会話がたまたま外に漏れて幽霊と勘違いされたんじゃないのかな……と」


 わたしは用意しておいた嘘を吐いた。実は最初から、この幽霊騒動の発端はわたしにある可能性が気にはなっていた。事実はわからないが、その時の言い訳として考えていたことを使うことにした。


「いつからそういうことをしてたの?」


「今年の春以降、二年生になってから度々あったかな……」私は抹茶ラテが入っていた容器を口に当てる。


「……なるほど」


「勝手に図書室を使っていたことを、先生に謝罪した方がいいですかね?」


 どうあれ図書室を勝手に使っていたことを咎められるかもしれない。けど、あまり気にしていなかった。勉強のために少し遅くまで残ることもあった程度の話を用意するだけで、この件は収集に向かうと予想していた。


 なぜなら、顧問の大原先生もこの事態に辟易していたし、図書室で本当に勉強している生徒たちもたくさんいるからだ。そこに幽霊などという曖昧な原因よりも、具体的な可能性が提示されたら、常識的にそちらを原因と考えるだろう。


 先輩は右手を顎に当てながら、わたしの言葉について考えているようだ。


「……それって何曜日に? 春香さんの当番は金曜……だっけ? と言うことはその日の夜の話になるのね」そう言って恵先輩は笑みを浮かべた。つまり、私が言いたことが伝わったのだろう。


「そうなりますね」わたしもそう言って笑みを浮かべた。本当はもっと事情を説明する予定だったのだが、先ほどの雑談でお互いを理解できたので、それはもう不要だった。


「なるほど……その日にたまたま理事長が見回ったのかもしれない。もしくは他にもそういうことをしていた生徒がいたのかも知れないわね。そしてその生徒の声を聞いた理事長は職員室に鍵を取りに行った。その間に生徒は帰宅してしまった。理事長は誰もいない図書室を見て幽霊だと勘違いをした。……確かにそういうこともあるかもね」


 そう、これは、そういうことにしませんか? という話なのだ。恵先輩はそれを汲み取ってくれた。


 三年生の恵先輩は他の図書委員だけでなく大原先生とも親しいと思った。でなければ恵先輩だけ先に事情を説明することもないはずだ。それに理事長がいつ幽霊に遭ったのかわたしは知らない。理事長が見回りをした曜日が金曜以外だとすぐに矛盾してしまう。


 この話を成立させるには他の図書委員と連携する必要があるのだ。恵先輩なら上手くやってくれると私は考えた。それにこれなら私だけがすごく怒られることもないとも思ったのだ。


 もしかしたら本当に私が発端の可能性もあるのだが……それは気にしないことにした。私の願い──私だけのあの時間と空間が取り戻せるなら、それ以外はどうでもよかった。


「オーケー、大原先生には上手くそのあたりのことも含めて話しておくわ。わたしも協力すれば悪いようにはならないでしょ、安心して」恵先輩はそう言って頷いてくれた。


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