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図書室で笑う少女  作者: イイダマサムネ
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第2話 噂話

 そばにだれかがいるような気がして、わたしは細く目を開けた。カーテンの隙間から差し込む外の光がまぶしい。隣にはわたしの掛け布団に潜り込んで眠る妹がいた。


 頭の上に置いてある目覚まし時計に手を伸ばし、それを手探りで見つける。時刻は六時四十六分。わたしは掛け布団を妹の肩まで掛けてあげると、朝食の準備を手伝うためダイニングに向かった。


「おはよう、早いのね」


「うん、おはようー」と答えた。顔を洗うため洗面台に移動する。冷水で顔を洗うと、寝ぼけた頭がだんだんとはっきりとしてくる。それから朝食の準備の手伝いを始めた。やがて布団から出てきた父と妹が姿を見せる。家族全員がそろうと朝食を食べ始めた。


「おまえ、週末は帰りが遅いけど部活動が忙しいのか?」父がわたしに尋ねた。


「部活じゃなくて委員会。金曜は図書委員の当番だからね。……そういえば、十月は読書月間だから、もしかしたら今週から他の日も遅くなるかも」


「そうか、頑張ってるんだな」と、父はご飯を口に運びながらそっけなく答える。女子高生を娘に持つ父としてこの態度はいかがなものなのだろう、帰りが遅いことを心配しないのか? けど、そんな繊細さがあれば、友人みたいに個人の部屋を与えてくれてるよね、などと牛乳を飲みながら私は考えるのだった。「んー! おいし!」と、隣では妹がご飯を幸せそうに食べていた。




「今日はここまで、復習を忘れないように」


 四時限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。それと同時に、学生食堂で昼食を食べる生徒たちは駆け足で外に飛び出していった。あたりが急に賑やかになる。わたしは後ろの席に座る女友達と昼食を食べるため、窓側の方へ向き直った。


「ねえ、そういえばあのうわさ、聞いた?」友人がわたしに尋ねた。


「どのうわさ?」わたしはお弁当をカバンからとりだすと、質問に質問で返す。心当たりが多すぎた。女子高生の周囲は噂話で満ちていた。


 友達たちとのグループチャットでも、だれかがいつも会話をしていた。好きな男子の話とか、アイドルの話とか、音楽や漫画、ネットの話題とか。わたしはグループチャットに参加はしているが、流れるログを見ているだけで、会話には参加していなかった。みんな良い人だけど、会話の内容に興味が持てなかった。読書愛好家のグループでも作ろうか考えていると、


「図書室が閉鎖される件」友人が言った。


「……ごめん、なんだって?」わたしは唐突な内容だったので確認した。


「図書館が閉鎖されるかもって噂だよ。えー、図書委員だから知ってると思った」


「初耳だけど、なんかあったの?」


「なんでも、出たらしいよ」


「なにが?」


「……あれが!」と、もったいぶる友人の頭を叩きたい衝動に駆られたが、我慢した。


「詳しく。ほら、賄賂のおかずを進呈するから速やかに白状しなさい」


「わるいねえ。あ、続き? 出たと言えばもちろん……幽霊だよ」


「……なにそれ、小学校じゃないんだから」わたしはご飯を食べ始めた。


「でもね、見回りの用務員さんが体験した話がまた怖いんだ……」急に雰囲気を出しながら語り始めた友人を横目に、わたしは食事を続ける。


「月が雲に隠れてあたりがまっくらな闇に包まれた夜。八時頃に用務員さんが校内を見回っていたらしいの」


 この学校は郊外の山に面した住宅街を抜けた場所にあった。学校の周辺には田畑も多い。だから月のない夜は一メートル先が視認できないほど暗くなった。


「それで?」


「北館の一階をいつも通り順番に音楽室、理科室、美術室、図書室……と、手に持ったライトで廊下を照らしながら進んでいると、周囲から突然! ……女の子の笑い声が聞こえてきたらしいの」


 わたしは食事を進める手をピタリと止めた。


「その声はどうやら図書室から聞こえたらしいの。それに驚いた用務員さんは図書室のドアを開けようとしたけど、ドアには鍵がかかっているから、慌て職員室に鍵を取りに行ったんだって。そして、とってきた鍵で図書室のドアを開けると、中に恐る恐る足を踏み入れた……」


「……いたの? その……幽霊が」


「……誰もいなかったんだって。気になった管理人さんは隣の美術室も確認したけど、そちらも誰もいない。そして、どうやらそんなことが何回か続いたんだって」


「何回も!?」わたしは驚いた。


「そしたら、先月、うちら文化祭あったでしょ? その準備で帰りが遅くなった生徒たちも同じような声を聞いたんだって。そんな感じに騒ぎが少しずつ大きくなって、少しのあいだ閉鎖するかもしれないみたいなうわさも流れてさ。図書委員をしていてそんな笑い声とか聞かなかったの? あたしも夜行ってみようかなー、なんてね……もしもし聞いてる?」


 わたしは食事を中断して、いまの話を真剣に考えていた。閉鎖されるといっても無期限ということはないはず。だけど放課後の利用に制限がかかったりすれば、毎週楽しみにしている私だけの時間が失われるかもしれない。それは嫌だ。


「放課後、図書委員の顧問に確認してみる」


「それがいいかもね」


 それからは昨日見たテレビや雑誌の話に切り替えた。けど、『図書室が閉鎖する』という言葉が、わたしの頭に残って離れることはなかった。

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