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ああああ  作者: あぐる
7/8

6話 記憶の形

静岡県では2月23日は富士山の日です。

目の前が真っ暗になって自分がこの世界に1人、取り残されたような錯覚に陥る。

父が死に、ユウキは強いショックを受けた。

何を考えようにも頭は働かず父の姿が浮かぶだけ。

もう戻れない過去だと理解して涙が溢れる。

「ボクは...どうすればいいの...?」

スーンのロケットをより強く握ると、弱々しくそんな言葉が出ていた。

この言葉はマトとハヤトに言ったのか、ユウキが自分の不幸を嘆いた言葉かは分からない。

だがその言葉をマトとハヤトは前者の意味でとらえたのだろう。

「ユウキ、辛いだろうがどうするのか決めておいてくれ。

遅かれ早かれ、こうなっちまった以上決断しねーとならねぇ。

1つはウラヌスに残るか、もう1つは俺達と一緒に住むか。」

ユウキの反応は無い。

ハヤトは聞こえてはいると判断したが、どうしたものかと考えていた。

「___大丈夫だよ、ユウキ。」

その時声をかけたのはマトだった。

マトはユウキの手に付いている血を気にせずユウキの手を両手で包む。

その時、今まで何も反応を見せなかったユウキはゆっくりとマトの顔を見る。

「さっき父さんが教えてくれたんだけど、ユウキの『ユウ』っていうのは『勇気』とか『勇者』と同じ意味の言葉らしいよ。

ユウキが迷わず自分の道を進んでいけるように。

きっと、ユウキのお父さんもそういう願いを持ってたと思うんだ。

だから大丈夫、勇気を持って。

君は1人じゃない。」

その言葉は子どもらしくても、想いは伝わる。

ユウキはこの時懐かしい何かを感じた。

「あと、ぼくにはユウキの辛さの半分も理解出来てないと思うけど悲しい時はこうした方が楽になるよ。

ぼくも父さんに良くしてもらってたから。」

マトはユウキの手を離してユウキを両手で包む。

ユウキの心にまとわりついていたものが溶け始める。

____あぁ、そうか。

____これ、お母さんにもしてもらったなぁ…

それは親が子におくるように、マトのユウキへの優しさが伝わったようなそんな感覚だった。

マトの優しさを感じたユウキはやっと子どもらしさを取り戻して声を出して泣き出した。

その時のマトは兄のような優しさに満ち溢れていた。



________________________


しばらくしてユウキは泣き止んでいた。

そしてユウキとスーンの家に戻ってきていた。

その後はウラヌスの中で魔物の暴走種が出た事を報告して、外壁の強化をするように促したりした。

その後一段落して自分の村へ戻ろうという時にユウキの決断を待っている状態だった。

ユウキは意を決してハヤトに自分の考えをうちあけた。

「ボクも、連れて行って。」

その短い言葉にはどれほどの考えが詰まっているのか想像出来ない。

ただユウキの目には確かに強い意志がこもっているのがハヤトには感じられた。

「よく決断したな。

付いてくるからには俺達は家族だ。

変な遠慮はいらねーぞ?」

ユウキの緊張をほぐすように笑いかける。

それなら早く出発した方がいいだろうとハヤトは考えた。

ユウキにとってスーンと暮らした家だが、今は悲しみが多すぎる、そう思って準備した馬車へ乗り始める。

家から最後に出てきたのはユウキだったが、ハヤトは違和感を覚える。

そんなハヤトの様子に気付いたユウキはこう答えた。

「もし帰ってきた時に、ボクが居なかったら困るでしょ?

だからロケットを置いてきたの。

なんだか、帰ってくる気がして。」

これは決して逃避なんかではなく、ユウキの感のようなものなのだろう。

思ったよりも強い心を持ったユウキに安心しつつ、馬車を発車させ横目でユウキとマトを見る。

まるで兄妹のような2人は、昨日会ったばかりだと思えないほどの仲の良さだった。

これはユウキは昨日の経験で、そしてマトはこの旅で成長したことに理由があるだろう。

特にマトは魔物を倒し、ユウキを立ち直らせるという旅の前までならありえないだろう事を成し遂げた。

息子の成長を素直に喜び、これからの事を考え始めるハヤトだった。

そしてハヤトはこの後、とてつもない爆弾をマトに投下する。

「お前らすげー仲良くなったな。

こりゃー将来結婚もありえるかもな。」

ハヤトは笑いながらそんな事を言う。

マトはきょとんとした顔でさも当然のように返答する。


「父さん、結婚って男の人と女の人でするものじゃないの?」


この瞬間、空気が凍った。


「お前...まさか。」

ハヤトも笑うのを辞め、呆れたような顔になる。

この場において分かっていないのはマトだけである。

えっ?と訳も分からずユウキの方を見ると、少し拗ねたようにユウキがマトに怒る。

「ボク、女の子なんだけど?」

「えっ!?」

マトはユウキを男の子だと思っていたようだ。

「でも髪の毛短いよ?」

「あのなぁ、肩まであれば普通に女でも居るだろうが。」

ハヤトは呆れてからかう気も失せていた。

やっぱりこういうのも含めて、学園に行かせた方がいいかも知れないと本気で思い始めた。

「ふーん、男の子だと思ってたんだ。

どうせ言葉使いだって男の子っぽいですよー。」

ユウキはその後も、村につく頃までずっと拗ねていた。

その姿に昨日のような悲しみに満ちていた少女の面影はどこにもなく、失った幸せを再び掴んだような明るい少女のようだった。

やっとユウキの性別公開です。

これがやりたかっただけじゃないと思いたい。

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