4話 ココロの種
ちょっと忙しい1週間でした。
ユウキと家を出て広場のようなところへ来た。
「じゃあ、ボクからちゃんと自己紹介をするね!
ボクはユウキ、6歳だよ。」
肩にかかるくらいの髪の毛に美少年とも美少女とも思える白く透き通った肌、そして何よりも無邪気でありながらどこか心を惹かれるような笑顔が印象的だった。
「ぼくの名前はマトだよ。ユウキと同じく、6歳です。」
自分と同い年の子どもの友だちが珍しいマトは無意識に人見知りをしてしまい、声が小さくなってしまった。
ユウキはとてもフレンドリーでどんどんと心の距離を詰めようとしてくる。
「ボクの名前はマトのお父さんとボクのお父さんが一緒に考えたらしいよ!
この辺じゃ珍しい名前だよね!!」
ユウキのコミュニケーション能力に驚きつつ、マトはふと考える。
__ぼくの名前はどうなんだろう、と。
ハヤトの昔話を何度か聞いたことがあるが、出てくる名前は父の名前同様に違和感があるような、大袈裟に言ってしまえば『変な名前』に感じていた。
しかし、目の前の新しい友だちは自分の名前をとても気に入っているように見える。
マトは自分の中の考えを正そうと心に決めた。
自分の価値基準で他人を判断したく無かったからだ。
「_____マト?」
マトはユウキとの話の途中出だったことを思い出して焦る。
「もうっ、どうしたのボーッとして。」
ユウキは子どもらしく口を尖らせて不機嫌な様子を見せる。
「あ、ごめん初めて聞く名前だったから。」
咄嗟に口から言い訳が出たが、そんな事気にしない様子でユウキは話を続けた。
「そうだ!ボクの宝物を見せてあげるね。」
話は続き、マトもだんだん普通に話せるようになってきていた。
腰にあるポーチからユウキが出したのは、ユウキの拳ほどの小さな壺だった。
だがそれはとても綺麗で吸い込まれそうな魅力があった。
マトはそのツボに興味を惹かれた。
「すごいきれい...、これどうしたの?」
「ボクのお母さんがボクにくれたの。
お母さんの事はあまり覚えてないけど、とっても暖かくて優しかった事は覚えてるよ!
この壺は開かないんだけど、何かいいものが入ってる気がするよ!」
「お母さんの事、好きなんだね。」
楽しそうに微笑むマトの言葉に人1倍嬉しそうに、うん!と大きく頷いた。
ユウキとマトはたくさんの事を話して今日初めて出会ったとは思えない程仲良くなっていった。
マトからすると、初めて出来た仲のいい友だちと言えるだろう。
________________________
ユウキと話をした後は2人で遊んでいたところ、辺りは暗くなり始めて日が傾いてきていた。
ユウキとマトは家に帰ると、既に夕飯は出来ていてちょうど良いタイミングであったため、すぐに食事を始めた。
4人で食事をしていると、ハヤトがマトとユウキに話しかける。
「お前らいい感じに仲良くなれたみたいだな。」
「うん、ボクも楽しかったよ!」
マトは照れくさそうにしている一方で、ユウキは元気よく答える。
そんなやり取りをみて微笑んでいるスーンという楽しそうな景色が広がっていた。
「それはそうと、ウラヌスの周りのか魔物がかなり活発になってる感じがしてたから遊ぶ時は村からは出るなよ。
つっても、この村の周りはティミッドドックぐらいしかいねーけどんな。」
「この村にはティミッドドックがかなり近づいてくるからねぇ。
いくら臆病だからって魔物だから怖いね。」
口ぶりからするとスーンも気付いていたようだった。
__だからだろう、ハヤトが油断してしまったのは。
夕食も滞りなく終えて、風呂に入ろうという時だった。
「そういえば、薪が少なくなっていたな。」
スーンは明日カマドでパンを作ってハヤトたちに振舞おうと思っていたのだが、普段あまり使わなかったせいか薪が心許無い数しか無かったため外に行って補充して来ようかと考えた。
村の外れに薪の備蓄を置いてあったのだ。
家を出る時、ハヤトに会ったがすぐに戻るという事を伝えて薪を取りに向かった。
その後風呂に入ったユウキを待っている間マトとハヤトは2人で話していた。
ユウキは綺麗な宝物を持っていた事や、ぼくも何か宝物あるのかなーという話だった。
「今じゃ無くても、いつか守りたいモノが出来る。
他人には譲れないモノを見つけられる。
そうしたらそれが大切な宝物ものだってわかる時が来るさ。」
マトはほへー。と難しそうに聞いていた。
ハヤトはそんなマトをみて微笑む。
そしてユウキが風呂から上がって来て、3人で話し始めた。
しばらく話をしていた時、それは突然の事だった。
「_____ッ!?」
ハヤトの様子が変わり、外へ走り出す。
何が起きたか分からないマトはハヤトをすぐに追いかけ、ユウキも少し遅れてそれを追う。
ハヤトがここまで表情を変える事は少なかったのでマトはとても焦っていた。
何が起きたのかという恐怖と焦りが、マトの足をより早めた。
数分後、辺りに家は無くほとんど森のようなところへ来ていた。
ハヤトが足を止めて、しゃがみ込む。
マトも足を止めてその場をみて驚く。
血だ。
それもかなり大量の血。
人間のものなら、相当危ない。
そんな中でも、ハヤトの行動は早かった。
「血はまだ固まっていないから新しいものだろう。
それにあれは.....スーンの....。」
そこにあったのは、血塗れのロケット。
間違いなくスーンの物だ。
それはスーンと仲が良いハヤトなら一目で分かるだろう。
当然マトはそんな事知らない。
だが、ハヤトの表情や言葉から察したのだろう。
何も言葉に出来ずにいた。
そしてもう一人。
そのロケットが誰のものか分かる人がいる。
マトたちを追っていたユウキがそこに来てしまった。
たった今この場に付いたのだろう、息を切らしながらそのロケットのところまでヨロヨロと向かい、血溜まりの中心でしゃがみ込みそれを拾って両手で大切そうに胸へ押し当てた。
「ウソだよ...。だってさっきまで一緒にいて...。
あ...あぁ、お父さん...。 どうして...。」
その続きの言葉は出なかった。
押し殺していた嗚咽が、我慢していた感情が邪魔をする。
マトには、そんなユウキにかける言葉など見つからない。
マトにはユウキの顔を見ることすら出来なかった。
次回はやっと戦います。