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事件の概要をうかがいます

「この箱なんだがね、何か効果があるものなのかを調べてほしいんだ」

「効果……ですか?」


 一般に売られている錬成術の箱は、見て楽しむオルゴールとたいして変わらない品物ばかりだ。そこへさらなる効果を付けることはできるが、そうなると恐ろしく高価な代物になってしまう。


 しかも見せられた箱は、一見して高価な置物には見えない。木製の小箱は蓋飾りのように飴色の金属の蔓が絡んでいるものの、宝石一つついていないのだ。

 貴族の――例えばシーグの部屋にあったとしたら、地味で見落とされるような物だろう。


 こういう系統はやっかいだ、とわたしは知識として知っていた。

 魔術的効果を優先して作られた代物の可能性が高い。

 だからこそとてつもない高価な品なことがあるからと思ったせいで、うっかり尋ねてしまった。


「事件は貴族の家で起こったんですか?」


 するとその場の空気がさっと固くなる。

 あれ、まずいことを言ったのかな……。

 わたしの横にいたエンデも「あちゃー」と言いたそうな表情をしている。


「あ、あの、ごめんなさい。聞いちゃいけないことだったんですね……」


 慌てて謝ると、長卓の向かい側に座っていた男が言った。


「いや、問題はない。錬成術士なら魔術効果のある品が高値で、貴族ぐらいにしか買えないことを知っていて当然だ」


 黒髪に灰色の瞳で、三十代に近い年頃に見える男性だった。

 精悍な顔立ちに、鋭い目つきがよく合っている。今まで緊張して気づかなかったが、彼は一人だけ、警備隊の制服を着ていない。その髪と同じ黒い上着を着ており、まるで影のようだ。

 一度言葉を切った彼は、わたしに自己紹介してくれる。


「私はエイリス王子殿下の近衛騎士のガイストだ。リシェ殿、宜しく頼む」

「え、あ……」


 わたしはますます焦った。

 エイリス王子は、この国のただ一人の王子だ。

 その近衛騎士。下手をすると一生関わることがなかったような人が出てきたことと、王都で起こった事件にそんな人が関わっているという時点で、とんでもない事件がおきたらしいことを認識した。


 同時に、貴族は皆、シーグみたいな尊大な言い方をするんだなと思った。近衛騎士なんて地位を得られるなら、文官でも武官でも、貴族の子息に違いない。


「この箱があったのはオーベリ男爵家だ。男爵家の子息が自室で殺され、その部屋にあったものだ。子息の死因が……落雷による感電死に似ていた」

「落雷?」


 わたしは眉をひそめた。


「そうとしか言いようのない状況でな。遺体は焦げ、本人と確認できたのは顔の半面が運良く無事だったからだ」

「うわっ、遺体の損傷状況まで女の子に教えちゃうんですか?」


 心配そうなエンデ動揺、警備隊の人々もそんなことまで詳しく話せば若い娘は怯える、と言いたげな表情をしていた。

 エンデの言葉に一瞬だけ口を閉ざしたガイストだったが、そのまま続ける。


「それで、どうして錬成術の箱が怪しいと?」


 リシェが平気な顔で尋ねると、周囲がほっとしたように息をつく。


「その前に三件、既に同じような状況で貴族の子息が死んでいる。その部屋にはまったく同じ色形の箱があったのだ」


 続きを語ったガイストによると、彼らのうち二人はエイセル王子の知己だった。

 そのためガイストは王子からの弔辞を携えて屋敷を訪れ、二件共に、妙にみすぼらしい錬成術の箱が置かれていることに気づいたのだという。オーベリ男爵家では不吉だからと捨てようとしていたので、証拠になるかもと彼が引き取ったらしい。


「不吉というと、ご家族にはそう認識する理由があったと?」

「左様。その箱を飾ったご子息に、妹君が『みすぼらしい』から置物に適さないのでは、と言ったようだ。しかしご子息は頂いた物だし、飾ってほしいと頼まれていたという。妹君もご子息がその通りにしようというほど、高貴な方か、もしくは大事な人からのもらい物だと思ったらしいのだが……。その翌日に亡くなってしまったのだ」

「それは……明らかに怪しいですね」


 そんな話を聞いてしまうと、質素な箱がおどろおどろしい物に見えてくる。


「でも、そのような物なら尚更、王宮錬成術士に見て頂けば良いのでは?」


 当然の疑問を告げたリシェに、もともと険しい表情だったガイストが、さらに目をつり上げる。リシェは恐くて息をのんだが、彼の声は冷静なままだった。


「そうしたいのは山々だったが、子息が頂いたと言う位だ。貴族が王宮錬成術士に依頼して作らせた可能性もある。それなら、みすぼらしくても大切にしている理由がわかるというものだ。でもそうだとしたら、調査のために王宮錬成術士に渡してしまうと、敵の手にむざむざ証拠を渡すことになる」


 もう一つ理由がある。


「これは貴族の住む第一区画の事件だった。ここを担当している第一分隊には内密に持ってきたものなのだ。あちらに気づかれた場合、証拠品として求められたら渡さないわけにはいかなくなる。しかし第一分隊は、他の二つの貴族邸にあった同じ箱を、どうも秘密裏に処分したようなのだ」


 確かにそれは、きな臭い。

 ガイストの説明を、老いた警備隊隊長が引き取った。


「そのため、どうしても第一分隊に知られない形で解析を頼みたかったのだ。有名どころ、実績のある者に依頼したら、たちどころに知られてしまう。かといって、身元が不確かな者でもいけない。エンデが知り合いだからということでお願いしたのだが……できそうかね?」


 ようやく自分に依頼が来た理由がわかったわたしは、うなずいた。

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