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予想外のできごと

 シーグが『自分の家』に戻った後、わたしは再び創環術で術具を作っていた。

 敵のやり口はわかった。

 力量も、リシェでは敵わないかもしれない、という事も。


「だからって、諦める気はないのよ。絶対この手で捕まえる」


 調査を続けた上で、もし犯人がファンヌで確定すれば、必ず捕縛のために錬成術士の手が必要になる。きっと自分だけでは対抗できないから、別に人を呼ぶことにはなるだろうが、ここまで係わった自分を外すことはないはずだ。

 その時のために、あらゆる準備をしておかなくてはならない。

 雷に対抗できそうな術具を作り、備えるのだ。


 雷霆の翼を奪ったのが、今回の殺人犯かどうかは確証がない。でも必ず繋がりはあるはずだ。捕まえて吐かせればいい。

 でも本当に、雷霆の翼を奪った本人だったら……。

 それを思うと、作った翼を持つわたしの手が震える。


「殺してしまうかも」


 一年前、唯一の家族だったお祖母ちゃんを殺した相手なのだ。

 捕まえて、法的な裁きを受けるのを見届けるだけで、済ませられるか自信がない。


「恨みで動いてるのは、わたしも同じ……」

 ため息をつく。でも止めようとは思えない。

 机の上に手を突いてうつむくと、どっと疲れに襲われた気がした。


「一回休むか」


 わたしは一度自室に戻った。作った翼を数枚、外出用の鞄に入れてから、お茶を入れるために台所へ向かう。

 もう夕方だ。

 家の廊下は暗く、足下が見えにくくなってきていた。

 転ばないようにゆっくりとエントランスの階段を下りていると、不意に硝子の割れる音が響き渡る。


「え?」


 信じられなかった。

 この家は、シーグの家と通じている。だからお祖母ちゃんが厳重に術を掛け、招いた人間しか入り込めないようにしているはずだ。


「お祖母ちゃんの術が破られた!?」


 まさか、と思いながらわたしは音がした方向へ走った。

 台所に近い、庭へでられる大きな掃き出し窓がある居間だ。

 居間に飛び込むと、窓硝子は粉々に砕けていた。そして窓のすぐ外には、覆面姿の男が二人いる。

 館の中に入ろうとしたようだが、まだ建物自体の術は破られていない。


 わたしは混乱しながらも、服のポケットから錬成術の道具を掴み出し、外へ飛び出そうとする。

 まず先にやるべきは、この館から相手の意識を逸らすことだ。何度も何度も、お祖母ちゃんに言われた事だから、相手が侵入してきた理由に思い及ばなくても、体は自然に動く。口も呪文をすらすらと紡ぎ出す。


 一方覆面の二人は、わたしが自分から飛び出してくることに驚いていた。

 その隙に、石鍵を地に投げつけた。

 地面にぶつかったところで石鍵が裂けて円を作る。緑の水を湛えた鏡のような円から、一斉に飴色の蔓草がわき出した。


「なんだこれっ!」


 慌てて逃げた黒覆面のうち、一人の声にわたしは目を見開いた。


「なっ、エンデ?」


 間違いなく彼の声だ。今日聞いたばかりの人の声を、間違うわけがない。

 その一瞬の戸惑いが仇となった。


「やっ!」


 エンデと思われる小柄な方の人物に気を取られ、もう一人が背後に回ったことに気づかなかった。腕をねじり上げられ、腕を動かせないよう肩を抱き込まれる。

 足で反撃しようとしたら、エンデの声を持つ黒覆面に踏まれた。


「大人しくして、リシェ」


 足を踏んだ黒覆面は、やはりエンデの声で囁いた。


「ほんとにエンデ? なんで……」


 言葉はエンデが口に押しつけてきた布で封じられる。しかも何か変な匂いがした。

 めまいと強烈な眠気に、薬品が使われていることを察した。

 その時わたしにできたことは、飴色の蔓草が割れた窓硝子や壁を這い上り、埋め尽くすように塞いでいるのを目で確認することだけだった。

 これで誰も中に入れない。

 ほっとしたわたしは、そのまま意識を失った。

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