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扉の向こうにいた人は

 お祖母ちゃんの家は、絵本で見た魔女の家そっくりだった。

 煉瓦造りの館には蔓草が絡みつき、異様な雰囲気を醸し出している。

 その上暗く冷たいエントランスは、夏の暑さに茹だるような日は異空間みたいに感じられて、わたしの期待をかき立てた。

 ああ、絵本で読んだ通りだ、と。


 でもそれだけだった。

 案内された部屋にお母さんと一緒に移動すると、そこは明るくてクッキーの甘い匂いに満たされていた。おまけにしゃらしゃらと涼やかな音を奏でる木が飾られていて、暗い雰囲気が全くない。

 唯一この部屋の中で魔女らしいものは、臙脂の重たげな色をしたドレスを着たお祖母ちゃんと、お祖母ちゃんが腰に鎖で下げた短い銀と金が混じり合ったような色のの杖ぐらいだ。


 魔女っぽいものが好きだったわたしは、そういうものをもっと見つけたかった。だからお願いした。


「おばあちゃん、お家の中探検してもいい?」

「もうじっとしていられなくなったの? リシェ」


 お母さんは困ったような顔をしたけれど、お祖母ちゃんは「子供なんてそんなものだよ」と言って、探検することを許可してくれた。

 ただ一つだけ忠告された。


「三階の奥の部屋は開けちゃだめだよリシェ……そもそも開かないとは思うから、念のためだがね」

「はーい!」


 元気よく返事をして、わたしはさっそく探検に出かけた。

 一階の台所を見て、煉瓦の竈の上にある鍋の中身がシチューであることを確認。次に勝手口を開けて井戸の場所を確認して普通すぎることにちょっと退屈になりかけ、台所の隣の部屋は扉に鍵がかかっていたのでがっかりした。

 二階は普通の部屋が並ぶばかりだ。


「魔女の家っぽくない……」


 ため息をついたが、そこでふと思い出す。

 三階の奥の部屋は開けちゃいけない、と言われたことを。


「じゃあ三階の奥には魔女っぽいものがあるかも」


 単純に考えたわたしは、こっそりと階段を上がった。

 三階は先ほど見た二階と同じように部屋の扉が両方の壁に五つ並んでいたが、廊下からして雰囲気が違った。お祖母ちゃんのドレスと同じ臙脂色の絨毯が敷かれ、廊下の灯りのために、壁には銀の燭台がある。


 その奥に、他とは違う扉があった。

 材質は金属だろうか、触れると冷たくて固く、飴色をしていた。扉に刻まれた蔓草の模様には、ところどころに金色の羽がついている。そしてちりばめられた赤い石。

 眺めているだけでも美しい扉だった。


 わたしはノブに手を伸ばした。金属の扉はとても重そうだったが、押すと意外に軽く開いてしまう。

 勢いあまって転びそうになったところで、わたしはぎりぎりで踏みとどまった。

 そして一歩足を踏み入れたその部屋の様子に、目を丸くする。


 真っ白な壁に、天井には青色や緑のガラスを使った、木の下から見上げたような空の景色が描かれている、とても広い部屋だ。

 扉の近くには大きな寝台があった。金で装飾した飴色の柱に、白い紗に銀の刺繍がほどこされた天蓋付きのものだ。


 そこに見知らぬ子供が座っていた。

 太陽の色に似た美しい金の髪の少年は、藍色の上着を着ていた。

 彼はわたしに背を向けるような向きで、光沢のある布が敷かれた広い寝台の上に無造作に座り、小さな箱を眺めている。


 飴色の箱は蓋が開けられ、星が鳴るような高く澄んだ音がこぼれていた。

 その音と共に、箱の上に浮かぶ瑠璃色の鳥がぱたぱたと飛んでいる。しかし鳥は丸い透明な硝子の花瓶に閉じ込められたように、一定の範囲しか飛べないようだった。


「錬成術の箱……?」


 思わず呟いたわたしの声に気付いたのだろう。少年が振り返った。

 明け方に輝く紫宵の星に似た色の瞳が、こちらに向けられた。


「君、あの扉を通って来たの?」

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