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第123.5:舞い落ちた神楽

 ひと昔前と言っていいのだろうか

 私には沢山の姉妹がいて、下から2番目だった私は大好きなお姉様たちに可愛がられ、大好きな婚約者もいました。

 そんな私に転機が訪れたのは、9歳の時のことです 。


 凶悪な魔物が私と愛おしい人の日常を壊してしまいました。

 突然家を襲った魔物たち

 中でも黒い大きな魔物は疾く、常人を寄せ付けない動きで銀腕装備の私では身を守ることも危うい状態でした。

 せめて全身鎧系か真の銀腕であったなら、悲劇は回避できたのかもしれない。

 そんな私を庇ってあの人が魔物の牙を受けて、魔物は暁さんに食らいついたままどこかへ去りはじめました。


 焦りました。

 今この魔物を見失えば、自分は二度と愛しい人に会えない!

 そう思って、暁さんが落としたままになった暁天を拾って走り出しました。


 武術も習っていましたし体力も同じ年代の中ではある方でした。

 追い縋れるはずだと思っていました。

 いつの間にか景色が変わり、見知らぬ森の中に居ましたが、追いかけ続けました。


 どんどんどんどん距離が開きます、胸に穴の空いていたはずの魔物はそれでも無尽蔵に走り続けられる様でした。


 遠くになった魔物を追いかけ続けたせいでしょうか?

 足下の木の根に気付かずに転びました。

 僅か1秒に満たない数瞬、顔を上げた時にもう魔物の姿は見えませんでした。涙が溢れて、どうしようもなく怖くなりました。


 周りは見知らぬ夜の森。

 愛しい人との日常も温かい家も、そこにはありません。

 私は愛しい人の名前を呼びながら歩き続けました。


 やがて見つからない彼の名前を呼び続けた私は一先ず人里に戻ることにしました。

 でも道がわかりません、あまりにも無茶苦茶に走ってきたので自分がどっちからきたのかすら分かりませんでした。


 とりあえず空を飛ぶことにしました。

 銀腕の飛行盾を召喚して足下の森を見渡したのですが、絶句しました。

 知らない森でした。

 朱鷺見台どころか人家の明かりなんて見当たらず、見慣れた海も山も見当たりませんでした。


 私のいた国、少なくとも街の近くににこれほど大きな森はありませんでしたが、一先ず人里目指して一方向に進み、やがて空が白んできた頃小さな村を見つけたので場所を聴くことにしました。


 早起きな村人に話しかけたとき大きな絶望を味わうことになりました。

 言葉が通じませんでした。

 自分がいる場所が分かりませんでした。

 そのとき白んだ空の雲が切れて月と太陽が見えましたが、見慣れたそれとはどこか違うように感じられて、自分が遠くの世界に来たのだと、本能的に理解しました。


 言葉の通じない私をを村人は扱いに困りましたが一先ず、汚れてるのを見てお風呂にいれてくれました。

 失礼とは思いますがこんな小さな村にお風呂があると思わなかったので嬉しかった。

 お風呂の中で冷えきった身体を温めました。

 これからどうなるんだろうって、こっそり泣きました。


 お風呂から出ると簡単な食事を振る舞ってくれて、お腹の減っていた私はパンと穀物のスープを一息に食べました。

 少しお行儀が悪かったかも知れない


 そのときです!

 村の中に悲鳴が聞こえました。

 村人とともに外に出ると、大きな牙を持つ魔物が村の他の人を襲っているところを目撃しました。

 すでに私とそう年の変わらなそうな女の子が一人、貪り食われているところでした。


 思わず小さな悲鳴をあげてしまいました

 すると魔物は私の存在に気づいて、襲いかかろうとしました。

 その時、最初にお風呂と食事を用意してくれた村人が間に割って入りました。

 村人はまだ言葉も通じないどこのものかもわからない私を庇いました。


 なんとか致命傷は避けたものの、村人の、男の腕から血が溢れ、他の武器をもった村人は恐ろしさからか遠巻きに囲むばかりで動き出せません。

 私は命を奪う覚悟を決めました。

 今この見知らぬ恩人の男を死なせては自分は二度とあの愛しい人の前に堂々とは立てないと確信がありました


 そうして銀腕から光の鏃を飛ばして脳天を穿ち

 初めて生き物を、自分の意志で殺しました。

 今まで強力な魔法をもっていても生き物を殺すことをしたことはありませんでしたが、私は魔物を殺しました。

 村人たちは歓声をあげ、ケガした村人も腕を押さえながら私の頭を撫でました。


 「銀腕」ではなく「みつ」ならば弱い治癒魔法も使えたので男に治癒を施し男はまた喜びました。

 その後村人たちにも歓迎され10日間ほど村で過ごした私は身振り手振りでコミュニケーションをとれる程度には村にも慣れて、その間にいくつかの魔物の群れを滅ぼし、その後その国の大きな街を目指すことにしました。


 最初の村人の男ゴルフは私の名前をちゃんと呼べず、カグラからカンクルリア、転じてカナリアと呼ぶようになりました。

 ゴルフは危険な旅を厭わず、私のことを都につれていくと村の人達の前で誓いました。

 村人たちはゴルフと私のお別れの儀式を盛大に行いました。

 村人にとって都への旅はそれほど危険なものだったのです。


 徒歩の旅は苛烈でしたが、20日ほどかけて私たちは都につきました、ここならばもっと広い情報がわかるかも!

 そうやって私の気持ちも上向いて来ていたけれどその淡い期待は最悪の形で裏切られることとなるのです。




 朱鷺見台をはぐれて、1ヶ月以上経ってしまった。

 わかったのはマジカレイドの通信機能も暁天しか引っかからず、この世界は朱鷺見台とは離れていることくらい

 私のマジカレイドシステムの中に入っていた日ノ本産の食べ物ももうなくなってしまった。


 残っているのは、暁さんと交換したおもちゃの指輪とマジカレイドシステム、暁さんの暁天と、少しの武器や着替えくらい。

(泣きそう・・・です。)

 少し前まで、もう少しで大好きな人と同じ名字になれる、本当に家族になれると喜んでいた。

 授業中帳面の隅っこに、近衛神楽なんて書いてみたりした。


 だというのに・・・今や暁さんの安否も判らず。

 今の私は、言葉も判らず、何とか身振り手振りで少し意思疏通のできる様に成ったゴルフさん?の慈悲でいかされている様なものだ。

 この1ヶ月生きた心地がしていた日なんてない、この世界は本当に死が近しい、平和な日ノ本とはちがう。

 安心して眠れる日もないし、今の私にはただの風邪だって致命傷なのだ。


 この世界には、少なくともこの国には庶民の掛かることのできる病院や薬屋さんはない。

 そんな中で私は言葉すら通じない。

 身寄りもお金もない9歳の私に何ができるのだろう


 ゴルフさんはやさしい人だった。

 身寄りのない私をこの大きな街まで案内してくれた。

 あの村には帰れないかもしれないと覚悟を決めて私をつれてきてくれた。

 私は魔物を狩るくらいしかできなかったけれど。

 ゴルフさんはそれ以上何もさせなかった。

 子どもは大人に頼るものだと伝えている様に思えた。


 街について最初は宿を探した。

 私は他の大陸の人間かも知れないので商館と外交するお役人に私の言葉を知らないか訊ねるはずだった。

 他の世界みたいだからたぶん意味はない、私の目論みはどこかで働きながらお勉強をすることだった。

 何をするにもまずは言葉と文字を覚えないといけない。


 その前段階として、一先ず商館に顔を出したけれど、田舎者だと侮られたのか、それともそれ以前の問題だったのか先程から話し合いが進まない。

 商人のよく太った男が何やら指で数字を示してはどうだ!と言わんばかりの偉そうな顔をしている。


 ゴルフさんは最後に、ダメだと私に身振りして私の手を繋いで商館を立ち去ろうとしたけれど、その次の瞬間!

「~!?」

 商人の横にいた大きな男が曲刀でゴルフさんを背後から切りつけた。

 私はゴルフさん側の手をゴルフさんに捕まれていて、対応が遅れた。


 そして男たちはゴルフさんが倒れるとまだうめき声をあげている彼を踏みつけながら、私の前に迫った。

 身の危険を感じた私は即座に、マジカレイドの封印を解きました。

 普段から使っている、魔導鎧衣マギリンクパンツァーに偽装したものではない、ホンモノの私の力魔導鎧装マギリンクフォルトの力は見た目は同じ銀腕でも神話の神の王の力を模倣したもので、その力の片鱗を宿している。

 すなわち不敗・・・これを解き放つのは人の世の領域を乱すことになるので極力避けたかったけれど、私の生存本能は銀腕の力の中から不活性状態の光の剣を召喚した。


「こないで!ゴルフさんから足を退けて!!」

 私の言葉は通じない、この人たちからみれば言葉も話せない子どもが剣を構えただけのこと、銀腕に握られた不活性状態の剣は見た目はただの剣だ。

 男たちは一瞬ギョッとしたもののすぐにまた刃物をちらつかせながら寄ってくる。


 仕方がないので男の剣、ゴルフさんを斬った曲刀を軽く撫でてやると、曲刀は初めから繋がっていなかったかの様にその刀身を落とした。


 男たちは慌てた。

 恐らくはゴルフさんを殺せば。

 私を所有できるとでも思って居たのだろう。

 こんな我欲にまみれた連中のスキにされては、私の暁さんへの貞節も守ることはできない!

 私は言葉をわからないから、今のままではいつの間にか奴隷とかにさせられてしまうかもしれない。


 それだけは許す訳には行かない!

 私は徹底して身を守るために、男たちが怯んでいるうちに銀腕の魔導鎧装を完全解放した。

 魔導鎧装マギリンクフォルト神の王アガトラム

 これは、ケルトの神ヌァザの在り方を模倣した鎧装で、不完全な絶対勝利を再現するものである。

 これはあらゆる困難にあっても、必ず目的は達成されるが己の力量で足りない時には失う物があるという概念を現したものだ。


 完全無欠の絶対勝利の概念は私の魔法では再現することができなかったためにいまの形となった。

 またこれら鎧装は完全解放して使うと魔力をかなり消費するため、長時間の稼働は無理だ。


(世界を書き替える力、お姉様からは余り使わない様にいわれたシステムだけれど!)

 通常時の銀腕の変身の様に全身を魔力の光が包み、パンツァーでは霧散する光がフォルトではぼんやり包み込む様に残る。


 そして私の身体をそのまま延伸したかの様に銀腕と胸当て、脚甲が繋り全身を包み込む全身甲冑の様な形の、しかし全長6mほどもある巨体を現した。


「ー!?」

「~~!!」

 はじめは下卑た表情を浮かべていた男たちが、曲刀を切られて狼狽えて今や完全に混乱した様子になり、あるものは腰を抜かしてへたりこみ、あるものは叫び声をあげてとっとと逃げ出した。



 商館の中は今や阿鼻叫喚の様相を呈していて、足元で腰を抜かしている肥満体の男以外は走ったり後ずさったり、私から逃げ出そうというものばかりであった。

 私はそんな連中には見向きせず。

 すでに事切れたゴルフさんの亡骸を抱き上げて、鎧装を通してその血の温みを感じて・・・・


 ただ慟哭した。

暁とはぐれた後の神楽の話になります。

一部本編と被らせてお送りいたします。

他者語ですが続きます。



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