第-34.5話:狂乱
狂い姫さんのお話になります。
※11/11追記:モルガンとの年の差が間違っていたので修正しました。
※11/12追記:↑がモルガンとサブリナを間違えていたのでモルガンに修正しました。
こんにちわ、私の名前はリリー・マキュラ・フォン・オケアノス
名前が示す通り、イシュタルト王国の四方を守護する侯爵家の1つオケアノス東征侯家の長女で現在12歳。
父にして現在の東征侯オルカ・ヘルモード・フォン・オケアノスと母サブリナ・ルナメア・フォン・オケアノスの間に生まれた私は、恵まれた容姿と、魔法の才能があって、領民からもよく慕われていると思っている。
父オルカは母サブリナにほれ込んでいて、それ以外の室を迎えなかったが私が8歳になっても息子が生まれず、周囲から散々に側室を取るように言われて家臣の娘モルガン・キルケルを側室に迎えた。
そもそも私が王様から跡継ぎの許可を得ているので必要もないのだけれど。
直後に母サブリナの妊娠が発覚、私が9歳のときに双子の弟妹が生まれた時点では、父は一度もモルガンを抱くことはなかった。
当時36歳の父に対して輿入れしてきたモルガンは14歳私とたったの5歳しか歳の離れてない娘を無理やり側室に入れてきたキルケル家には正直ドン引きだ。
モルガンは目立つ美人ではなかったけれど、私とはすぐに仲良くなった。
たった5歳しか離れていないから、姉の様に慕った。
なんとなく母と雰囲気が似ているので詳しくたずねると、彼女は母の姉の三女なのだそうだ。
私の母の出身が重臣のセレッティア家、母の姉が嫁いだのが、新興のキルケル家。
そんなモルガンが僅か15歳でこの世を去ったのはとても悲しい出来事だった。
母が双子を産んだ直後ちょっと実家に呼び出されて帰って、そのまま病死したということだったが・・・。
慶事と凶事が一緒に来て、オケアノス領内は少し空気が悪くなった。
その頃私から見れば祖父に当たるセレッティア子爵とモルガンの父であるキルケル男爵(キルケル家はそもそもただの家臣であったが、モルガンを嫁がせる際に騎士爵となりモルガンが亡くなった際に世襲可能な男爵となった)が裏庭で話しているのを聞いた。
その内容は、キルケル男爵が実の娘であるモルガンを斬ってしまったというものだった。
「せっかく苦労して侯爵家に潜りこませたのに、子どものほうとばかりつるんで、子どもの一人どころか、1年経ってもまだ一度も抱かれていないということに腹が立った」
ということだ。
このときから私は、キルケル家とその話を知っているのに付き合いを続けているセレッティア家に対して不信感を覚えた。
モルガンはまだ生理が安定していない娘だったので体が出来上がっていないと判断し、父は抱かなかったと思われる。
母のときも結婚してから閨をともにしていたにもかかわらず、初めて抱かれたのは2年ほどもたったあとだったという。
母はいつも自慢げに、「貴女もそのように大事にしてくれる殿方を夫に迎えるのですよ?」
と、語っていた。
あれから3年がたって。
弟妹は大きくなったけれど王様から世継ぎの許可をえているのは私だけだった。
弟のトリトンは父に似て赤毛の将来は勇猛になりそうな顔立ち
妹のアクアは母に似た金髪の可愛い顔立ち、結論的にはどっちも可愛い!
8歳まで完全に一人っ子だったから、もう弟妹なんて生まれないんだと思ってたけれど9歳で一気に二人も下の子ができて、ソレがこんなに可愛いだなんて・・・世の中の姉が弟や妹が可愛いというのが良くわかった。
トリトンとアクアが3歳になったので、じきに王様に謁見させようという話をしていた頃。
水害の発生した地域を視察に向かった両親の馬車が水に流されたという知らせが入ってきた。
不安だった、母は死んでしまったかもしれない・・・。
私は愛しい弟妹を不安がらせまいと気丈に振舞った。
父には、オケアノスの能力『水棲』があるから馬車が壊れてなければ水の中に沈んでも死ぬことはない、そう思っていた。
それだけに翌日入った、両親が水に沈んだ馬車の中から溺死体で見つかったという知らせをそのまま信じることなどできようハズがなかった。
(コレは陰謀だ・・・。)
キルケルか?セレッティアの爺様か?それとも他の家臣たちのなかに犯人が?
そういう風に疑っていることを知ってか知らずか、キルケルは私にすぐさまオケアノスを継ぐ様に意見してきた。
セレッティアの爺様は・・・・。
「リリ様、ワシの孫の中にリリ様より2つ上の男子がおります、リリ様のはとこですな。つりあうものも他におりませぬし、婚姻されて、政治は暫くわれらにお任せください。」
なんて、いけしゃあしゃあというものであきれてしまった。
「お爺様ご存知ですか?オケアノス家の当主で、溺死するものはいないのですよ・・?」
当主の条件は「水棲」の発現なのだから・・・。
それを知ってか知らずか。
「ハッハッハ古い伝承ですな。所詮は伝承だったということです。」
好々爺然とした人好きのする笑顔だけれど、目は笑っていない。
キルケル、セレッティアおそらくは両方がクロだ・・・。
両方というよりは、もともとこの二つの家は一つだ。
これは、セレッティア家がキルケルという家を作り、使い企てたひどく杜撰な主家乗っ取り計画だ。
私が東侯になる資格を持っているけれど、婚姻させてなし崩し的に奪おうということならば、婚姻を断ればいい、家督を継いで最初にすることは、セレッティア、キルケルの粛清だ。
私は、あの二人を絶対に許さない。
モルガンを、父を母を、死に至らしめたその欲をもろともに葬りさってくれる。
私が、セレッティア家からの縁談を断ったあと、セレッティアの爺は、トリトンの擁立を目指して活動を始めた。
物心ついている私よりは、トリトンのほうが懐柔しやすいと判断してのことだろうけれど・・・。
トリトンもアクアも王様への謁見を果たしていないので、私の侯爵家継承の障害とはならないし、私の残されたたった二人の家族を、腐った大人の手にゆだねてなるものか・・・。
両親の葬儀から5日たった。
侯爵家の継承のため、忙しい毎日を送っていた私はこのところ弟妹たちをちゃんとかまってやれて居なかった。
(今日は休息日だから、午後はたくさん二人と過ごそう。)
そう思って、一度私服に着替えるために自室に戻った私の眼に飛び込んできたのは・・・。
「トット!!」
幼い弟が頭から血を垂れ流して死んでいた。
横にあるのは、来年の軍官学校行きのために父が私に用意してくれていた宝杖、その先端にベットリと血がついている。
「イヤァァァァァ!!」
悲鳴を上げたのは私ではなかった。
こんな場所に居るはずのない、書院勤めの司書メイド服の女・・・。
「リリ様がご乱心なさった!!」
あぁ、そういえば歴史資料を扱うのはセレッティア子爵の息子だったな。
こんな白昼堂々と・・・主家殺しをして、堂々と私に罪を着せるのか。
私は、弟を殺した罪を着せられた。
厳正に取り調べるといって、セレッティアの身内だけで固められた取調官たちが、取調べとは名ばかりで私の前で書類を勝手に書いていく。
私を信じてくれる家臣たちが、リリ様がそんなことをするはずがない!と声を上げてくれたけれど、投獄された様だ。
ある程度お話を筋書きして納得いったのか、取調官たちは私を密室で嬲る様になった。
自分の娘である私の母さえも、侯爵家という看板のために殺したセレッティア家の連中だ。
女なんて、野望のための駒か、抱き枕程度にしか考えていなかったんだろう。
こんな連中に侯爵家を奪われてはいけない、せめてアクアだけは守らないといけない・・・。
そう思うけれど、食事もほとんど与えられず、毎日男たちに痛めつけられて、どうしようもなかった。
さらに1週間くらい過ぎただろうか、セレッティア子爵が相変わらずの貼り付けた笑顔でやってきた。
「お爺・・・様・・・。」
私は毎日の暴行の手間を省くために服すら着せられていなかった。
体にはところどころ殴られた痕があり、男どもの欲望が拭い落とされることもなく、鎖で束縛されていた。
「おぅおぅリリ、かわいい孫よ・・・ずいぶんと汚らしくなったのう、あの美しかった孫はどこへいったやら・・・そなたがおとなしくセルディオと結婚しておればこんな惨めを見ずに済んだものを・・・・。」
「やっぱり、お爺様が・・・父も母も?」
殺したのか?と問いかけるだけの気力は残っていなかった?
ソレに対して眼を細めたセレッティア子爵は口を歪めて笑う。
「そうだ、私が殺した。食事に毒を混ぜて殺して、そのあと川に流した。サブリナまで殺すハメになったのは少し残念だったがね。まぁそなたとトリトンも送ってやるのだから寂しくはあるまい。」
「グゥッ殺す、殺す、殺す・・・・貴様の末裔すべて、殺してやる・・・。」
憎い・・コイツが憎い・・・、モルガンと両親とトリトンの仇が目の前に居る。
なのに体力の落ちた私では、いや、体力があっても、この鎖を断つことは出来ないか・・。
「そんなことを言っていいのか?ん?アクアはワシの孫、そしてひ孫の嫁となることが決まったぞ?お前はアクアも殺すのか?」
私の尊厳を犯している間に、そんなことまで手を回したのか・・・。
「アクアは王様に謁見していない。侯爵継承の権利を頂いていない。」
「継承の権利がなくとも、継承可能なものが一人しか居なくなれば、王様もアクアのほかに継承させようとはおもうまい?」
「王様が、私の処刑を許すものか!すべての罪は審らかにされる。」
「だから王の手が伸びる前にそなたを殺すのだ。明日、公開処刑だ。せいぜい体を清めておけ」
「・・・・・ッせめて最後に、アクアにあわせて・・・。」
「ならん、ワシの言うことを聞かなかった罰じゃ。」
そういってセレッティア子爵は部屋を出て行ってしまった。
入れ替わりに知らないメイドが二人はいってきて私の体を清拭し始めた。
「くっさ・・・なんで私が、こんなお役目を・・・・」
「文句いうんじゃないよ!あたしらみたいな流れ者を雇ってくださった子爵にちゃんと恩を返さないとだからね。」
流れ者か・・・。
「貴女たちが、どういう甘い言葉で使われているかは存知あげませんが、長生きできませんよ?」
あの男たちが、こういう裏側を見せた以上あとあとこの女たちも殺されるだろう。
「あぁん?政治に負けた小娘が舐めた口きくんじゃないよ!」
「あたしら頭悪いけど負け犬にはつくつもりねーから?」
聞く耳はもってくれないか。
体を乱暴に拭かれる、もうちょっと、やさしくして欲しいものだ。
翌日、私は、大衆の面前で首を刎ねられることとなった。
罪状は弟を王様に謁見させると侯爵の継承権を失う可能性があるため、両親を殺し、弟を殺し、侯爵家を未曾有の危機に貶めたことを自白したためだという。
この場でも私の擁護をする民衆や兵士が出たが、老若男女の区別なくその場で殺害された。
私は、私を慕ってくれる領民が虐げられるのを見ていることしか出来なかった。
私はひとつだけ絶対に忘れない。
何度生まれ変わっても、オケアノスを取り返してみせる。
そう念じながら、最後の瞬間を待った。
あとあと本編にかかわってくるかもしれないリリさんのお話でした。