エピローグアナザープラス:プロローグアフターEX
両刀読了+生まれ直し120話辺りまでを読了してからの閲覧をお願いします。
西暦2018年を境に、私の、私たち家族の環境は一変した。
十家のひとつ、近衛家本家の次男だった虎徹が引き起こした前代未聞の大失態。
嫉妬と欲望にまみれた浅はかな行いにより、私の大切な神楽と、その婚約者の暁君が行方不明となり、他にも妹と同い年の少女を含む5名の死者と2名の行方不明者、数名の怪我人を出した。
事件の後処理と、敵対した細川分家、彼らにより引き抜かれて所属の藩に対する背信行為を行っていた柴田藩、佐々藩、蒲生藩、筒井藩の元藩士らの妨害工作、そして他国からの破壊工作に対応して時間をとられてしまったけれど、私はすでに利用法を確率していた魔法をこの世界に広めることを思いついた。
その後2019年には主上の許可を得て、十家で合同会社コモンマジックを設立、魔法力とその利用法等を確立したことを表明した。
これに対して幾つかの国や団体さんから強迫めいたクレームが幾つも届いたが、その内容は概ね「実態のない虚偽の情報を流して世界を混乱させた悪質な詐欺師には天罰が降る」ということであったので、私たちがこれこれこの様な送り主から強迫文が届いたと公表した後に、そのクレームの送り主として記名されていた人物の屋敷や会社などに落雷が相次ぎ幾ばくかの被害(死者、負傷者はゼロ)が出たらしいけれど、私たちに責任はないだろう。
初めは魔法力を利用した発電、充電システムを作り販売した。
その発揮できる性能には使い手による個人差があったため、販売にあたっては窓口となる事務所を幾つか設置し、消費者の魔法力やその回復力の測定を行い、魔法力利用可能度として評価し説明した。
日ノ本から広まり始めたこの魔法力利用の技術に関する論争は瞬く間に世界に広がり、幾つかの国では内戦にまで発展したが、元々順応力の高い日ノ本では大した混乱はなく、受け入れられた。
魔法力を引き出しエネルギーとして利用するための装置はブラックボックス化され、内部の回路や刻印は特定の手順以外で開封すると全てランダムな回路と刻印に切り替わる様に設定された。
魔法科学の技術の根幹は十家によりほぼ完全に隠匿されたものの、ブラックボックス化を施した心臓部は多くの国の企業に安価に卸し、魔法力利用のハードの開発は世界的に激化した。
コモンマジックはその会長など上層部の存在は入念に隠匿され、私の使い魔達が広報部員として顔を晒したが、その内情は世界に伏せられた。
魔法の存在は世界に認められ、隠匿するものではなくなった。
誰もが当たり前の様に魔法力と電気、ガソリンのハイブリッド車を駆ったり
魔法を使った伝達システム、複製不可能なバイオメトリクス認証システム、魔法力コントロールゲーム機などあらゆるジャンルで魔法力利用システムは根を張っていった。
周辺国の中には、日ノ本は魔法力利用システムの隠蔽を止めて公表するべきだとする国もあったが、ブラックボックス化した心臓部以外の公開した技術群はそもそも無償公開となっているので、これ以上を求められてもと突っぱねて貰った所(そもそも心臓部の技術は日ノ本朝廷も知らないが)
周辺国①『日ノ本は我々が開発した魔法科学の技術を不当に盗み出した』
周辺国②『日ノ本は世界で共有するべき魔法科学の技術を不当に独占して、新たなエネルギー戦争を引き起こそうとしている』
と世界に対して主張した。
しかし、一度は魔法などという物はないと主張していた彼らの浅はかな宗旨換えと論拠なき権利の主張はほとんどの国から失笑されることとなった。
結局国に対しての国民からの不安を駆り立てることとなり、王室や皇室が排除され、大陸側では北緯42度以南の地域の一部が一時無政府状態となったり、インド、モンゴルなどが領域を広げる結果となった。
その辺りはまぁ些細なことだ。
少なくとも私たちにとっては・・・。
私たちにとってもっとも大きな変化と言えたのは、コモンマジックを立ち上げる直前のこと、それまで名前も思い出せなくなっていた使い魔の1体が、突然目の前に現れた。
そして、彼女は私に伝えたのだ。
必ず数年以内には神楽の、妹の帰還を果たして見せると・・・。
異世界は必ずしも時間の流れがこちらと同じではない、浦島太郎の様なことが実現しうる。
神楽の時間的矛盾と心身の健康への影響を極少にして無事にこの世界に還すには幾つもの難関が有り、その調整にはひどく時間がかかると言う。
その調整の為に、私たちには神楽と暁君の捜索をしない様にと伝えてきた。
私は迷った。
コモンマジックの設立だって結局、早く神楽を探すことに専念するためのものだったから、それでも私は自分の使い魔達を信じていたから、神楽達の捜索を断念した。
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神楽の捜索から手を引いたことを期に、私の名前は天乃天音になった。
虎徹を止められなかった責任を取り、黒乃に家督を譲り、天乃の嫁に入った。
かねてより婚約者だった天乃悠姫君が私の夫だ。
男性ホルモンの少なそうな顔立ちの悠姫君を半分もらって産まれてきたハルは可愛い、毎日がすごく楽しい。
その反動か神楽のことを探していないという罪悪感が毎晩の様に私を苛む。
けれど私が動くことで、調整を頑張ってくれているだろう使い魔達の努力を無にするわけにはいかない。
だから私は、ハルのママとして、そして下の妹達のお母さん代りとして過ぎる時間の目まぐるしさを言い訳にして、心の平穏を保ってきた。
そして今日は四つ子の卒業式だ。
「もーぅ、カナちゃんが寝坊するからぁ」
「ごめんね、セッちゃん」
「こーら、雪羅、彼方を責めないの、雪羅だって彼方を起こしに行って一緒に寝てたじゃない」
彼方と雪羅は言い合いしながら、刹那は二人を仲裁しながら並んで歩いている。
卒業式とは言うけれど、矢沢家が運営する朱鷺見台学園は、幼等部、初等部は共学、その後中等部、高等部では共学の朱鷺見台、全寮制の女子校桜沢、全寮制の男子校矢車へと別れ、その後共学の大学へと再度一本化する。
その何れかに進む物がほとんどなので、顔ぶれは入試組が少し加わるものの、どの学校に進んでもクラスの半分位は見知った顔になる。
だから周りを見回しても寂しさを見せる子はあまりいない。
私やリアは婚約者と同じ学校に通うために共学校、黒乃やテノンも私たちについてきたので一緒の学校に通ったけれど、3人は全寮制の桜沢に進学することを決めた。
それは多分私の負担を慮っての事だろう。
どうも私をママ業に専念させたいらしい。
「あぁ三人とも可愛いわ、ううん天音もお洒落してて可愛いわね」
「私はこの子達の保護者として参加してるから、ちゃんとした身なりをしないとね」
今日はハルの世話を黒乃に任せてきた。
そして、刹那たちの卒業ということで、普段は多忙に世界を飛び回っている母も帰ってきていて、本当なら4人いたはずの3人娘達を忙しなくカメラで撮影している。
刹那は打掛に木履姿で実に淑やかに歩いている。
彼方は振り袖姿で、雪羅はちょっぴりだけ気合いの入った洋装。
服装ひとつとっても彼女達の個性がよく出ている。
3着ともテノンの作で、本当は神楽のための和ロリドレスとやらもテノンは作ってくれたのだけれど
「ごめんね母さん、神楽を探すの、卒業式に間に合わなかったよ」
母に代り、妹達を預かって置きながら、私は保護者の役目を果たせなかった。
今だって、使い魔に任せきりで・・・
「うん、でも仕方ないわよ、三人の話ではまだ死んだ気配はないみたいだし、いつか見つかるわ」
母は、神楽を失った私の過失を責めたことは一度もない。
もしかしたら母も刹那達みたいに、神楽の気配の様なものを感じ取っているのかも知れない。
一度も悲観的な言葉を吐かない。
私にもその気配が感じ取れれば、すぐに見つけられたかも知れないけれど。
なぜか私には、知覚可能な全ての世界に、神楽の存在が感じ取れないのだ。
恐らくは使い魔達が言っていた調整とかと関係あると思うんだけどなぁ。
「とりあえず、今日は四つ子のおめでたい日なんだから、しょんぼり顔はダメよ?天音はお姉ちゃんなんだから、あの子達のために天音だけが今出来ることがあるでしょ?」
母は三人から目とカメラを反らさないままで、穏やかに告げる。
私は、いつか帰ってくるはずの神楽の為に、今何が出来るのか、何をするべきなのか。
「お姉様、今日私は卒業歌で独唱を任されたんです。楽しみに見ていてくださいませね」
と、いつの間にか私のすぐ隣に戻ってきていた刹那が、彼方、雪羅との距離が遠くなって私と母だけだからか、表情がちょっぴり甘えん坊モード。
彼方と雪羅を見ると、校門の前で雪村家の養女の華燐ちゃんと話をしている。
「わかった。しっかり見てるから、泣きすぎて鼻声にならない様にね、お姉ちゃん、母さんと一緒に見てるから」
三人は一度教室に入らないと行けないのでここで一度お別れ。
「はい、それではお姉様、お母様、また後で」
満面の笑みで手をひらひらとさせた後で、ちょこちょこと妹達の方へ歩いていく刹那は、年齢不相応に大人びて見えて、でもやっぱり相応に子どもっぽくも見えて可愛らしい。
あの幼い妹たちが、神楽の生存と帰還を信じて疑わないのだから、私も姉として、いつか神楽を迎える時に姉としてしっかりと、受け止められる私でいないと・・・。
「刹那!彼方!雪羅!」
名付けに迷った父が遺した72の候補からくじ引きで決めた名前だけど、この子達を呼ぶのにこれ以上しっくりくる名前はない。
振り返って、三者三様に手を振り返す妹達は、私の頭の中で名前と結び付くイメージそのままだ。
今この星に神楽は居ない。
「しっかり卒業してきなさい!」
だけど、私もこの子達も、今を生きている。
やがていつかくる未来の『今』に神楽を迎える時があるのを信じて、その時を笑って迎える為に。
今この一瞬を笑って生きよう。
「「いってきまーす!」」
「行って参ります!」
一人だけ揃わない声に、三人ちょっとずつ違うお揃いの笑顔に、私は過去を振り切る勇気を貰った。
平等はここで終わりです。
引っ張った割りに落ちて居ませんが、平等は両刀と対になる予定の話だったのに2周目まではみ出させてしまったので、反省しています。
お目汚し失礼いたしました。




