エピローグアフタープラス:プロローグアフター1
本編の時系列、ナンバリングとは離れた話になります。
あれから何日たっただろうか?
あれから、何人の襲撃を受けただろうか・・・?
近衛家の次男近衛虎徹が起こした結界破損事件、幸いそのときに迷い込んできた目ぼしい異形は妹と妹婿の暁君が片付けてくれた・・・二人の存在と引き換えに。
虎徹の尋問によって得られた情報によると、最後の一体であった巨大な狼型については討滅は確認されなかったものの、暁君と刺し違えの様な形で闇夜に消えたという。
そしてそれを追いかけて神楽も・・・
私は結界が極度に揺らいでいたために、転移できず、飛行魔法で現場に急ぐ中で、暁君と神楽、そしておそらくその異形の存在感を確かに感じていたけれど、ある瞬間を境にフっと消えてしまった。
おそらく別の世界に渡ってしまったのだと思う。
本当なら虎徹の捕縛後すぐに神楽と暁君の捜索を私が自分でしたかった。
でも私には立場があって、それは適わなかった。
あの人懐こい下から2番目の妹のフニャフニャした笑顔を、二人でいるとすごく幸せそうに、でもどこかいつもあきらめた風な笑顔を浮かべる妹婿を一刻も早く迎えに行きたかった。
朱鷺見台と境界を持つ世界は100を超える。
中には科学の発達した世界や、原始人みたいなのしか住んでいない世界、この世界とそっくりな歴史と文化を持つ世界に、そもそも人間型生物がいない世界だってある。
あの子が、あの子達がもしもそんな無人世界に飛ばされてしまっていたら・・・?
何日も生きていられるだろうか?
暁君は強い、分家の子でありながら複数の上級と下級の異能とを併せ持ち、北条院流と雪村流の奥義を継承できるだけの武芸の才もあった。
ないのは魔法力と家格くらいだけれど、虎徹の話では大怪我をしていたという。
神楽もとても強い力を持っている。
本人だけでは幼さと魔法力の量がやたら多いせいで操作も付与も不完全だったけれど、あの子に持たせたデネボラを使えば瞬間的とはいえ七天盾剣と六道耀刀を持たない状態の私と同等の力を持っている。
とはいえ暁君は大怪我をしていたという話しだし、神楽はまだ下の毛どころか歯も生え揃わない子供で、精神的に打たれ弱い。
もし暁君に追いつけなかったり、暁君が損なわれるところを見てしまっていたら・・・その脆さを思えば今すぐにでも探しにいくべきなんだ。
(だというのに・・・・!)
「・・・・!!?」
よくわからないケンカ腰の言葉を放ちながら本日3人目の暴漢が刃渡り20cmほどの短剣を袖から抜き、突き出してきた。
(なんて言っているのかしら?ちゅうぼうが?それとも稚児が?まぁいいや、どうせアソコかアッチの国の工作員だし。)
「~こっちじゃないわ、そっちよそっち~」
迫り来る男と視線を合わせて人差し指で地面を指差してやる。
すると私に向かって殺意を放っていた男はそのままの勢いで自分からアスファルトにナイフごと体をたたきつけた。
私は何も手は出していない、そいつが勝手に殺意を抱いて地球を殺そうとしただけ・・・。
頭蓋の砕けた屍は一切触れないままで放置して夜の見回りを続ける。
このところの襲撃の頻度を考えれば、私が朱鷺見台の結界地を管理している家の関係者だというのは確実に伝わっているでしょう。
虎徹のやらかしたことのせいで、この朱鷺見台が結界地であることがほとんどの国にばれてしまった。
中でも大陸にあるいくつかの近場の国は、日ノ本と経済的協定を結んでいる上に、戦中でもないというのに、結界地がばれた3日後には最初の刺客が現れた。
結界の解れを直すための祭具を見つけては壊す観光客・・・見つかりやすくしたダミーの祭具を十家の私有地の地下3mに埋めていたのに特殊警棒の様なもので叩き壊して回る男がいたので、逮捕して取り調べてもらったら「たまたま掘ったら出てきたのであれは発見者である私のものだ。私のものを私が壊して何が悪い」といった内容のことをのたまったそうで罰金刑、強制送還と入国禁止にしてもらったけれど、次から工作員は即時処分しても良いと立花様に許可は頂いた。
といってもか弱い乙女である私は、自分の手で人を斬るなんていうことはゲーム以外ではなるべくごめんなのでこうやって釣り出しては自決していただいているのだ。
破壊工作しようとしてごめんなさいと謝っていただいていると、言い換えてもいい。
不作法者に土下座のやり方を教えて差し上げているのだ。
(こんなことをしている暇は無い・・・)
大事な大事な妹と、その良人、あの二人が万全の状態で揃っているなら無人島や未開の星に放り出されても数ヶ月は生きていけるだろうけれど、暁君が重傷を負っているとなると一刻も早く探しに行くべき。
だというのに・・・
「~~~!!」
(あぁ、また・・・)
本日4人目となる身をもってわかる土下座講座の受講者の対処をしながら自分の腕を抱きしめた。
今地球にいない神楽のにぱにぱと聞こえてきそうな懐っこい笑顔を思い浮かべて、私は一人涙した。
責任ある、十家の継承者として主上からお預かりしている職務を果たさねばならない、ただでさえ私たちは虎徹の暴走を止められなかったのだから・・・だから私は迎えには行ってはやれないのだ。
二人以外にも犠牲になった人たちがいる。
国の命令で、潜入し私と対峙し、生きて帰ることのできなくなった者もいる。
私の中で人の命が軽くなりすぎているのがわかる。
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翌朝のこと、下の3人の妹たちの遅めの朝食の世話をしながら、流れたニュースを見て私は、私の献身を踏み躙る報道に怒り狂った。
「~朱鷺見台市で起こった謎の獣害事件は、近衛虎徹容疑者とその一族による訓練された動物を使ったテロルの疑いで本日正午にも容疑者の親類にも逮捕状が出る可能性があると・・・」
なおも続く報道に顔を顰めながらテレビを切った。
「3人とも今日はお外出たらだめよ、おうちで黒乃とテノンと過ごしてて、お姉ちゃんちょっと出かけてくるから、お約束ね?」
少し怖い声が出てしまったかもしれない。
3人が少し目をパチクりとさせている。
「はい、お姉様がおっしゃるなら、お気をつけていってらっしゃいませ」
それでも一番聞き分けの良い刹那が代表して返事する。
神楽がいなくなっても妹たちはあまり焦らなかった。
あの子達は、二度と会えなくなることなんて考えてもいないのだろう。
それだけ居て当然の存在・・・、生まれたときから一緒の4つ子だもんね。
私だって、双妹の黒乃がある日いなくなって、死んだって言われたとしても。自分の目で確かめるまでは信じられないと思うし、再会を疑わないだろう。
私はエプロンだけはずして、チュニックの下側がフレアのロングスカートになっている一見重ね着に見えるワンピースの部屋着のままで能力を使い、目的地に向かった。
立花様の居城、福崎城・・・。
城、といっても戦国期や安土・岐阜二頭時代の様な立派な天守閣のそびえる建物ではなく、最低限テロルや襲撃に耐えることができる作りになった地方の政治をするための建物だ。
城に入ってまずは受付に向かう。
「すみません、朱鷺見台の・・・」
「福崎市以外の藩民の方であれば右の番号札をお取りになってお待ちください。」
人の話を最後まで聞かずに、受付の女はだるそうに 番号札の機械を示す。
「通常の窓口で対応する範囲ではないので、・・・由布様か安東様は登城なさってますか?」
立花様の譜代の家臣で朱鷺見台の結界地のことを知っている方の名前を挙げるが、受付女は怪訝そうな顔をした。
「失礼ですが、由布様や安東様のご家族の方ですか?そうでなければお伝えいたしかねます。」
と微妙に返答に困ることを問うてきた。
「家族ではないですが、朱鷺見台の桐生が来たとお伝えいただければご対応いただけるかと思います。」
あぁこの受付だめね、とりあえず秘書官にでも繋いで尋ねて見ればいいものをなんだこの女?と訝しげに私の顔を見ている。
若い女が家老を尋ねていけば即座に色事を疑う様な出来の悪い者を顔にあたる総合案内に座らせているなんて立花藩の底が知れようというものね・・・。
「おや、これは桐生殿ではございませぬか」
右手側から私を呼ぶ声が聞こえた。
見ると見知った顔、そういえばこの方もまだお勤めで居らっしゃったな。
「十時のおじ様、ご無沙汰いたしております。」
由布様や安東様と同様代々立花家に重用されている十時家の現当主がそこにいた。
「各務夫妻のご葬儀のとき以来ですか・・・、もう3年ほど経つのですな。相変わらず若く美しい」
「いやですわ、十時のおじ様、私まだぎりぎり17歳でしてよ?そのおっしゃり様では本当はとんでもない年齢になっている様に聞こえるではないですか?」
軽く非難する様な口調で、異議を申し立てると十時様はあっはっはと笑いながら
ただでさえ皺の目立つ口元にさらに深い皺を作った。
「すまないねぇ、あれからずっと当主をしているのだと思うとついその様な言葉になってしまった。あの小さな天音お嬢さんがこんなに立派になるとは。お父君も草葉の陰で喜んでいるだろう。っと、君何をしておる、桐生家は殿にとっても大事なお客様だ早くお通ししなさい。」
「は、はい失礼いたしました!」
思わぬ足止めを貰ったが、十時様のおかげで短くすんだ。
受付女は気まずそうに入館証を渡した。
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「近衛家に対する報道はわれわれの意図するところではない」
これは十時様に通された部屋で聞いた立花様の第一声。
「ちゃんと映像も、音声データもすべて提出しているのに、どうしてあんなことになるのですか!照子さんなんて突然両親も弟も義妹もいなくなってしまったというのに、虎徹の暴挙を止められなかったとはいえ被害を最小限に食い止めた暁君をテロリスト側として報道させるなんて悪趣味です!」
ダン!とテーブルをたたくと、そう力をこめたつもりは無いのにテーブルの天板が砕ける。
無意識に魔法の力が発動している様だ。
「わかっているわれわれもあのデータは精査させてもらい、その上で君の報告と同じ内容で上に報告したのだ。しかし、結果はあれだ。主上や織田様があの様な、結界地の氏族を敵に回す様な判断をされたとは思えない、さすがにそこまで浅はかな方たちではない。途中に入るどこかの家が、意図的に誤情報を漏らしたとしか思えない。」
そういって立花様は苦しげな表情をしながら、それでも皇家や織田様の仕業ではないという。
だとすれば立花様と織田様の間に入るのはあとは・・・明智様か細川様か?
いずれにせよ・・・。
「私は主上から止めよと命を頂かない限り朱鷺見台を守ることを放棄いたしません、それは朱鷺見台の人間に対する悪意からもです。われわれも日ノ本人です、皇家と日ノ本の民草のためには尽くします、ただ仕掛けてきた人たちは日ノ本人であってもすべて工作員として処理してもよろしいでしょうか?」
本当に立花様の関わる策謀でないのならばそれでいいだろう。
「とめられまいな・・・主上はいつも十家や結界地の氏族への感謝を言葉にされておる。それがこの様な企てを望まれるはずも無い、どこかに黒幕は居ろうが、こちらから主上にはお伺いをしてみる。仕掛けてこない限りは穏便に対応してくれ」
仮に皇家が千年と言わず尽くしてきたわれわれを切るというのなら、お望み通り結界地を解き放てば良い、朱鷺見台という土地を捨て、十家と関係者だけを守るのであればたやすい。
日ノ本という極東の太陽は沈むかもしれないが・・・
どちらにせよ私たちを除けば封印は完全に瓦解する。
朱鷺見台は他の数多ある結界地とは規模が違う。
立花様から言質はとった、一応立花様から主上にも伺うことはしてくれるそうだけれど、途中で横槍が入ればそれも怪しかろう。
まったく、ただでさえ人手が足りないのに、品質の悪い工作員以外に国内にも敵が居るらしい。
「それでは、私はこれで」
ある程度の話合いを終えて私は城を後にした。
時間が惜しいので入館証は十時様が返しておいて下さるとの事なのでお任せした。
立花藩の警察隊や裁判所には照子さんや乾さんへの逮捕状の請求も、容疑すらかかっていなかった。
(ならば・・・あの報道は・・・。)
そこまで考えたところで・・・。
(つけられてるわね、1、2・・・・7人かしら?さすがに福崎の人通りの多いところで逮捕するとかいって絡まれると厄介だし・・・撒きましょうか。)
適当なコンビニに入りストッキングを購入、そのまま化粧室に入らせてもらう、まぁはかないけれど。
単にここから自宅まで能力で転移するために化粧室に入る口実が必要だっただけだものね、今日は普通のソックスをはいているし。
防犯カメラには私の姿は映らない様に魔力コーティングを施したので、後からカメラの映像を見ても私の人相はわからないだろう。
能力を使って転移すると一瞬視界が暗転して、それが終わると自室に戻って居た。
警備体制を構築しないと・・・、なにか敵がいるらしいわ。
住民というよりは私たち十家狙いの敵が加わったってことだと思うし、照子さんと乾さんの家をそれぞれ・・・。
「刹那~ちょっといい?」
部屋からリビングの方へ向かう。
「あ、お姉様お帰りなさい、思ったよりお早いお帰りでしたね」
テーブルにお勉強道具を広げていた刹那はすぐに私に気づいて駆け寄ってくると、キョロキョロと周りを確認している、どうやら周りに姉妹たちはいない様だ。
部屋でなにかしてるんだろう。
そしてそれを認識したのか刹那はとたんにそわそわしだす。
この子は普段妹たちの前ではお姉さんぶった態度を取るのだけれど、彼方たちが居なくなると途端に甘えんぼさんになるのだ。
ただ、今は先に気取った態度で挨拶をしてしまったので、切り替えるのもちょっと恥ずかしいといったところかな・・・。
「刹那ちょっとお願いがあるからお姉ちゃんのお部屋にきてくれる?」
普段ならば「私の部屋」と言うのだけれど、わかりやすい合図を出してあげると、刹那はうれしそうについてきた。
ぶんぶんと振る尻尾が見えそうだ。
妹を部屋に連れ込み、私はベッドに腰掛けた。
そうしてポンポンとひざをたたいて合図をすると、刹那は目をキラキラとさせて飛び込んでくる。
私のスカートに刹那の鼻が押し当てられ、私はその頭に手の平をおいて撫でる。
「うぇへへへお姉様~♪」
刹那は4つ子の一番上で、普段はお姉ちゃんをがんばっているけれど、本当は一番の甘えん坊、いつでも人懐っこい神楽とは甘え方が少し違って、二人きりというか、自分より上の姉だけと一緒になると溶けた様に甘えてくる。
髪型は私と黒乃と同じ様にシンプルなロングヘアで、幼い頃の私に良く似ている。
「うーん刹那はかわいいなぁ」
やさぐれた私の心を癒すしばしの触れ合いの時間・・・。
「あぁそういえばお姉様、私にお願いってなんですか?」
しばらくイチャイチャして気が済んだのか刹那が膝の上に座ったまま後ろ向きの上目遣いで尋ねてくる。
いつもよりも甘える時間が少し長かったのは、気にしていない様に振舞っていても本当は神楽が居ないことがこたえているのかもしれない。
「うん、あなたに預けている使い魔をね、しばらく返して欲しいの。あなたは千鳥と桜花が特に相性が良いみたいだから2人はそのままでいいんだけれど」
刹那には、私が回収したいろいろな世界の異形のなかでも特に知性と力を持っていた存在を使い魔化して預けている。
下の四つ子たちが属性魔法の類が苦手なのと、能力の相性が良いので刹那に何人か付けていたのだけれどその大半を回収することにした。
相性が良い子を残すのは妹たちにも護衛を付けておきたいから。
私が使役していたうちの力が特に強い子には私に先んじて神楽と暁君の捜索を始めてもらっているけれど、別世界で神様をやっていた様な存在も含んでいたからか、手元から放ったとたんに私は彼らの名前も数も正確には思い出せなくなってしまった。
因果をいじったりできる子たちだから、何か必要があってそうしたのだろうとは思うけれど・・・。
ひとまず、戦う力をほとんど持たない暁くんの姉の照子さん、乾さんの奥さんに、各務家の雫ちゃん、花子には黒乃が就くだろうから、後は世間擦れしていない昂夜君のところの3人が心配かな・・・?
頭の中で、護衛に使い魔をつける人たちを決めていく。
特に女の子に危害を加える様な輩なら精神汚染してでも黒幕を吐かせてから、因果を弄って生まれてこなかったことにでもしてやろう。
また数日たった。
朱鷺見台の状況は良くなかった。
暁くんたちをテロリスト側に仕立て様としたのは、細川様の分家だと判明した。
細川藩の領地の中にも結界地が存在しているのだが、分家預かりの土地よりも結界地の方が広いことを分家当主が快く思っていないみたいだ。
立花藩の結界地である朱鷺見台の失態を手がかりに、領内の結界地にも難癖をつけて実権を取り上げようというものらしい。
ただし立花様が上げた情報を分家当主ごときが差し止めることは本来出来ないので、本家の細川様が横槍を入れたか、預かっている権限で勝手に横槍を入れて握りつぶしたかがまだわからない。
日ノ本には大小7つの結界地があり、そこに接触する藩政を預かる12藩主本家には結界地の管理は結界地の氏族に任せるべしとの申し送り事項ががあるはずだし、氏族は結界の管理を主に行うため古来より定住しているので土地や財産、人脈を持っているだけで、税金などは藩の管理なので実際のところ土地の政治を差配しているとか牛耳っているとか、金ヅルにしているとかではないのだけれど何かを勘違いしているのだろうか?
分家細川家の単独の犯行ならば大したことではない、しかし民間報道局への誤情報のリークなどは守秘義務を持ち民の暮らしの一端を守るものとしては最低の下劣な行いだ。
結界地はこと国防にかかる問題であり、実際いま工作員が多数侵入してきている状態というのはかなりよくないが、幸か不幸か朱鷺見台は日ノ本最大最強の結界地である。
結界を補填する者や異形と戦えるものの数は多少不足しても、海外の工作員程度の相手であれば割りと誰でも出来る。
前に機会があってうっかり他国の結界地を観光してしまったことがあったけれど、そこの宗主クラスが、6歳の頃のマジカレイドシステムなしの下の四つ子より弱いとか勘弁してほしいものだった。
無論魔法力や異能の強さだけの話なので、実際に戦えばそうでもないのだろうけれど、魔法力を持たない暁君で、その結界地最強の戦士とやらとほぼ同格だと、私は見積もった。
朱鷺見台では異形が発生してもよほど大物でなければ基本2人1組か4人1組で対応してもらっているが、よその結界地では犬っころみたいな大きさの草食の異形ですら、氏族の戦士総出でかからねばならないという有様だった。
無論無害なら保護なんて余裕もなく、見敵必殺という状況。
朱鷺見台なら200人以上はいる下級戦士扱いの能力持ちでも日ノ本の他の結界地ならば上級戦士か師範クラスだし、下手な国なら宗主レベルだ。
うち以外の結界地の能力持ち下級戦士のレベルでは、朱鷺見台はほとんどの場合見習い戦士や裏方だ。
(まぁ扱い上見習い戦士でも実質上級戦士並みの戦力の暁君みたいな例外もいるんだけれど・・・)
あの子は生まれついての「隠形」と、「加速」を習得できる才能だけでも十分なのに、まじめで努力家でさらに「光弾」「跳躍」という異能を持っていた。
それと「火燕」というものも持っていたけれど、こちらは正直おまけみたいなものだった。
有効に運用するには本人の魔法力が少なすぎたのだ。
まぁ異能が強いのだから、魔法力が少ないのはいい、とにかく十家の本家筋でも異能を3つ以上持つものは稀だ。
大体は家柄の異能ひとつか、それ以外の何かを持っていることはあるけれどそれらはあまり強力ではなく、代わりにみんな魔法の能力を磨き、魔法の杖を開発して異形や、もしもの事態に備えているわけだけれど。
魔法が魔法力を消費して、この世界の理に沿う形で現象を起こすのに対して、異能は意思力を鍵としてこの世界に異世界の理を導入するものだと考えられる。
なぜならば魔法力はこの世界に確かに存在し科学的にもすでに計測できるけれども、意思の力は異能を用いなければ計測できないからだ。
それはつまりこの世の摂理では説明できない何かだということ・・・まぁ単に科学や魔法科学の発展が追いついていないだけかもしれないけれど・・・。
とにかく今私は朱鷺見台を離れることができない。
各国の工作員を排除し、長く不安定になったままの結界を安定化させる。
そして朱鷺見台の民の安寧を取り戻す。
それができて初めて私は神楽と暁君を探しに行くことができる。
なにが『およそ地球にできて彼女にできないことは何もない』だ。
なにが『普く天に福音を齎す者』だ。
妹一人探しにいけない、大結界ひとつ正常化できない。
せめて魔法や異能のことを隠す必要がなければ・・・結界の制御くらいはやる自信はあるけれど・・・。
ん・・・?
魔法とか異能のことって何で隠しているのだったかしら・・・?
いまや魔法のことはその力の寡多や土地的な偏りの発生理由までは不明だけれど、魔法を使う工作員というものもすでに少なからずいて彼らも彼らでその生活の種である魔法を隠匿しているため世間一般には広まっていないものの、その力は確かに存在している。
国も、地下組織も隠しているから、ほとんどの常の人には知れ渡らない。
けれど確かに魔法はこの世界に根付きつつある。
結界地を隠すのは国の崩壊につながりかねない重大な弱点となりうるからだ。
異能を隠すのは理解しがたいもの、説明できないものは古来より排除されてきたため。
ならば魔法は?すでに法という言葉の通りその規則性は判明しているし、魔法力の移動についての科学的な観測も利用も可能となってきているのに、蒸気や電力は良くて魔法力は大衆に明かせない?利用させられない?
あぁ・・・なんてばかばかしい・・・。
私はその一瞬の閃きに光明を見た思いがした。
次回までまたしばらく空きますが、次が『他者』の最後の更新となる予定なのでその際にはよろしくお願いします。




