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第157.7話:アスタリ湖攻略6

 アスタリ湖ダンジョンの本格的な攻略が始まってから7日経ちました。

 私は今回攻略に加わらず留守番の身ですが、昼はカグラ様やサーリア殿下のお世話を、夜はユーリ様のお世話をさせていただく充実した時間をすごしている。



 現在ユーリ様や、サーリア殿下が指揮を執っておられるアスタリ湖ダンジョンの攻略は、連邦を挙げてのダンジョン攻略の第一弾として、新装備の実地試験や今後の軍隊の運用の試験をかねている。

 サテュロス大陸全体がひとつの連邦となったことで、公には仮想敵というものが隣国から、大陸外のものと、たまに発生する魔物によるものに変わった。

 今まで個人の冒険者がこっそりと探索していた様な旧国境沿いのダンジョンなんかも、国が状態を管理し素材なども計画的に採取できるようになる。


 今は冒険者の利益の問題もあるので、今まで密売していた様な素材を国が買い取れる用になったという程度のものではあるけれど・・・。

 魔物は大陸中どこにでも生息しているけれどその分布は非常に不安定で、普通の動物の様に繁殖をしているからか、狩れば数は減るし、動物と違って劇的に進化して、地域の分布が大きく変わることがあるので、素材の安定供給が難しい。


 それに対してダンジョンの魔物はすでにそのダンジョンに適した進化が完了しているからか、ダンジョン外の魔物とは大きく形質が違うものの、その性質は安定していて増える数も外の環境よりも多いため、ある程度安定した素材の採取が可能である、国がこれを管理することで産業の素材として十分に成り立つ、そのため国内にあるダンジョンはすでに数百年単位で素材の計画的産出が行われている。

 もともと取れる量が少ないダンジョンなんかは完全攻略を禁止しているところもあるほどだ。

 完全攻略とは、その土地がダンジョン化するに至った基点の様なものを壊すこと、魔法的歪みや魔力の吹き溜まりの様な場所が基点であるとされ、これを失ったダンジョンはその力を急速に落とす。


 いま私たちが攻略しているアスタリ湖ダンジョンや、南方でハルバート殿下が攻略前の調査を実施している紅砂の砂漠ダンジョンは攻略することで完全にダンジョンとしての機能を失う見立てらしいので素材の長期的産出は見込めないが、変わりに周囲の土地が通常利用可能な土地に変わっていくそうなので人の住む領域が大幅に広がることになるだろう。

 ジークハルト陛下やエドワード様、クレアリグル様の最終目標は、そうやって大陸全土をある程度豊かにしたうえで、現在の連邦を、さらに一体化させて、完全なひとつの国家にしていくことらしいけれど、そもそも現時点では人の住む領域は足りている。


 長い間、イシュタルト王国全体としては土地をもてあました状態であったし、ペイロードに至っては完全にあまらせた結果ペイルゼンに土地を貸すということまでやっていた。

 しかし今回の戦争の結果として、イシュタルトが独占していた鑑定石システムやペイルゼンの技術を組み合わせることでより発達した魔石回路の技術は赤ちゃんの致死率も下げて、これから爆発的に人口が増えていくことが予測された。

 そのための領域拡大という面もあるけれど、一番は大陸内の物理的隔たりの低減だ。


 イシュタルト王国が戦後完成させたスクリュー船は、アイラ様が開発し名づけたスクリューの魔法を用いた魔導力船で本来大陸内を旧ペイルゼンとペイロードまで繋ぐ河川と、クラウディア市からスザク市を繋ぐ河川の物流を助けることを期待したものであったが、その後大陸の周囲を巡回する新しい航路用に1000人ほどを乗せて移動可能な大型のスクリュー船「ウェリントン型」が開発された。

 これはイシュタルトの魔導工学の権威エレーノ・マジノフ技師が一年生の水練大会で活躍したアイラ様の魔法の説明を受けて感銘を受け、そこから改良し開発にいたった船で、従来の帆船に魔法で風を起こして帆走する方式よりはるかに効率よく動力を得られるという。

 エレーノ技師はアイラ様の名前を無断使用してウェリントン型という船を開発したが、事後承諾でジークハルト陛下やアイラ様にも許可を取っているので、一介のメイドである私がとやかく言う必要もない。

 この船の登場で大陸間の物資や人員の移送も一気に加速した。


 さすがはアイラ様だ。

 私は魔力の放出量の関係で使えなかったスクリューの魔法だけれど、あれは素晴らしい魔法だった。

 それを操るための魔石回路を開発したエレーノ技師もさすがは王国の魔石回路製品の3割を開発か改良した方だと思う。


 ただそれらがあっても、たとえばホーリーウッド地方からオケアノス地方に物資を輸送するには最短距離で行くには角笛と砂漠が邪魔になる。

 少量の物資を輸送するのにペイロードやペイルゼンからオケアノスやトライブ(旧ドライラント)に向かうなら航路よりも陸路のほうが本当なら早いはずだけれど、それにはアスタリ湖が邪魔になる。

 そういった隔たりを取り除くことでよりこの大陸は豊かになるはずだと皆さんががんばっていらっしゃる。



 今回私はカグラ様やサクヤ様、サーリア殿下のお世話をする様に命じられているのでダンジョンにはついていっていない、ただユーリ様がおっしゃるには現在のところおおむね順調で重傷者も出していない、3日目までは少しだけ予定より遅れていたけれど、慣れたことで遅れは取り戻せたそうだ。

 そして昨日からはとうとう事前偵察のできていない区域に突入したそうでこれからはさらに慎重に調査を進めるとおっしゃっていた。


 先の戦争中、オケアノスはクリスタルバレーを攻略するために3000人規模の派兵を行い、無秩序な調査を行った結果、攻略には成功したものの200を超える死者を出し、けが人も程度の差はあれ800人以上出したという。

 それを考えれば今のところ十分に成功しているといっていいだろう。


 私は待つことしかできないけれど、ユーリ様に対してすでに心配する様なこともなく。

 サーリア殿下のお連れになった近衛メイドのヨミーさんとラスティナさんと毎日楽しくお仕事をさせていただいている。

 お仕事といってもサーリア殿下やカグラ様にお茶をお出ししたりサクヤ様の遊び相手を務めたりという程度で、ホーリーウッドにいるときよりも暇なくらいなのだ。



「カグラ様、サクヤ様のお昼にはパン粥か、麦粥どちらをお出ししますか?」

 サクヤ様はもう普通のパンも召し上がるけれど、今日はおなかがグルグルしている様なので、消化によいものをお出しすることにした。

 私が念のため母親であらせられるカグラ様にお尋ねすると、カグラ様はサクヤ様を抱き上げて、胸元に抱いてお尋ねになる。

「サクちゃん、好き嫌いないからどっちでもいいよね?」

「まんま?・・・ま?」

 サクヤ様はカグラ様の問いかけにあまり関心がないのかカグラ様の胸をペシペシと手でたたいている。


(もしかするとまだおなかが減ってらっしゃらないのかもしれない、少し遅くしようかな?)

 さらにサクヤ様は甘える様にカグラ様の胸に顔を埋めてグイグイと押し付ける様にした。

「もうーサクちゃんってば甘えちゃって・・・」

 うれしそうに微笑むカグラ様だけれど、これはもしかして・・・?


「カグラさん、もしかしてサクちゃんはおっぱいを欲しがっているのではないでしょうか?」

 サーリア殿下がタイミングよく私が思っていたのと同じことを仰った。

「え?ですがもう例の件で卒乳してしまってますよ?」

 例の件というのはユーリ様たちが行方不明になっていた件のことだ。


 その期間プリムローズ様もサクヤ様も乳母も王都に残っていたため、そのまま通常のやわらかめの食事に移行してしまわれた。

 授乳中のお二人は非常にかわいらしかったし、リリ様は2歳半ばまで授乳をたまにされていたのでもう少し見て居たかったのだけれど、成長は喜ぶべきことだ。

 それが・・・。


「ですがほら、カグラさんの胸に顔を押し付けていますし、ためしに一度見せてあげてはいかがですか?」

 サーリア殿下が提案する。

 カグラ様はそもそも妊娠出産をしたわけではないので、母乳は出ることはないけれど、サクヤ様はカグラ様の乳房を吸うことがお好きだったので、もしかしたら体調が悪いことで不安になっていて、甘えたいのかもしれない、そうであれば乳を吸うだけでも有効かも・・・?

 そう思って清潔な布をお湯でぬらして待つ。


「サクちゃん、ちょっと吸ってみる?」

 そういってカグラ様が胸元を開くとサクヤ様は両手で右の乳房を持ち上げた。

 すぐさまカグラ様一端乳首を手で隠しては私から受け取った布で胸を軽く拭いてからサクヤ様に開放した。

 するとサクヤ様は目を瞑ってカグラ様の胸を吸い始めた。


「本当にすいたかったんだ・・・久しぶりでくすぐったい。もしかして、おっぱいも飲みたいのかな?ごめんねおっぱい出なくって・・・」

 カグラ様は申し訳なさそうにしてサクヤ様の頭をなでていたが、それを見ていたサーリア殿下が声をかける。

「カグラさん、他人のものでお嫌でなければ、私のおっぱいをあげてみてもよいでしょうか?」

「嫌なんてことはありません、乳母さんもいましたし、私はおっぱいが出ないのでアイラさんのおっぱいを頂いてましたし」

 サーリア殿下もご存知のことだけれど、サクヤ様はアイラ様がおなかを痛めて産んだプリムローズ様の双子の妹なので実際にはそれが自然なのだけれど、対外的にはサクヤ様はカグラ様の実子ということになっているので、アビーさんや、メイドさんたちの前では隠さないといけない。


 それを考えればサーリア殿下もユーリ様の胤を受けアルタイル様を授かった身でいらっしゃるので、血のつながりはないまでもまったくの他人ということでもない、といえないこともない。

(だとすると、私もまったくの他人というわけじゃない・・・ってことになるのですか・・・?あの姫様と・・・。)

 何かおかしくって、少しクスリとしてしまう。


「ナディアさん?どうかしましたか?」

 いつの間にかカグラ様が私の顔を見つめていらっしゃる。

 急に笑ってしまったから、少し怪しかったかもしれない。

「いいえサクヤ様がとても可愛らしいので、幸せな光景だと思いまして・・・」


「ヨミー、ラスティナ、私が今からサクちゃんにお乳を貸しますので、二人は外に出ていてください。」

 サーリア殿下が自分のメイド二人に指示を出す。

「アビーさんも退室をお願いします。ナディアさんはお世話のために残ってね」

 カグラ様が柔和な笑顔で仰り、3人は退室を始める。

 サーリア殿下は従軍用の礼服を着ていらっしゃったけれどメイドたちの退室を確認すると上着とチュニックワンピーススカートを脱いでしまわれた。

 すると上はコルセットだけとなり乳房が惜しげもなく晒された。

 お湯でぬらした布をサーリア殿下にお渡しすると軽く拭われて、それからサクヤ様をカグラ様から預けられた。


 サクヤ様は「うー、うー」といいながらサーリア殿下の乳房を触るけれど、 口をつけるそぶりはない。

 カグラ様は何かを察したみたいで、サーリア殿下の後ろに回ってサクヤ様の顔を覗き込んだ。

「サクちゃん、サーリアおねえちゃんがおっぱい飲んでいいよって言ってくれてるよ?貰う?」

 カグラ様がお尋ねになるとサクヤ様はサーリア殿下の乳房から手をお離しにならないままで、殿下の目を見つめられた。


「サーゃん」

 サクヤ様がいつものか細い声でサーリア殿下をお呼びになり。

「はい、なんですか?」

 サーリア殿下も優しくサクヤ様の声にお応えになる。

「マンマ?」

「はい、どうぞ」

 サクヤ様はやっぱりちょっと甘えたくなっていたのか、優しい殿下に甘えて


 その後、殿下のおっぱいを少し飲んでから、麦粥と堅焼きのビスケットを一片召し上がった。


 こういう留守番中のサクヤ様のお話を夜にユーリ様に報告するとすごくうれしそうに聞いてくださるので毎日のサクヤ様の動きも目が離せない。

 そしてそれ聞いて喜ぶユーリ様の様子をお伝えるするとアイラ様とアイリス様がお喜びになるのでサクヤ様の行動観察は私の日課の様になっている。



「はは、見たかったなぁサリィのおっぱい貰ったんだね」

 目を細めてそのときの光景を思い浮かべているらしいユーリ様、ずいぶんと男性らしく、いいや父親らしくなられたものだ。

 今も武器の手入れをしながら、私の話すサクヤ様のことを聞いてくださる。

「明日は、ユーリ様たちの攻略はお休みなのですよね?」

「そうだよ、だから今夜はゆっくりとナディアの話を聞いてあげられる。」

 そういうとユーリ様は盾の剣を収納されて私の座っているベッド、私の隣に腰をかけられた。


 自然な動きで私の腰に手を回して、抱き寄せられる。

 以前のユーリ様であればまずなさらなかった様な、直接的に過ぎる接触。

 大人の男性になられたというのはわかるけれど、もうあの可愛らしいユーリ様はいらっしゃらないのだと思うと少し寂しい。


 そのまま軽く口を吸われた。

(・・・あ♪)

 私は、ユーリ様に接触を求められるのが好きだ。

 一度は否定した自分の気持ちだけれど、今は素直に受け入れることができる。

 それにしても不思議なのはユーリ様とアイラ様のあり方・・・幼少期のアイラ様はユーリ様にほかの女が寄り付くのを警戒していたし、嫉妬もされていた。


 それがサーリア殿下やクレアリグル様とのことには割りと積極的に受け入れていた様に見える。

 私にも、時期が良いから新婚旅行にでも行くつもりで楽しんでくるようにと、お言葉を頂いた。


 そしてユーリ様、幼少期のユーリ様は女性を厳しく見ていた。

 というより、警戒されていた。

 私と、慣れてきてからはトリエラと、何人かのメイドには心を開いていたけれど、アイラ様と出会うまで女性と恋仲になる様なことなんてなかった。

 それでもまだ好意的に接していらっしゃったのがサーリア殿下であったが、結局アイラ様に出会うまでユーリ様は女性に恋をされなかった。


 アイラ様は軍官学校1年生のときの水練大会の時に私にいつかユーリ様の愛を受け入れる様にといってくださった。

 ユーリ様もそれを受け入れ、たぶんあのときにユーリ様の中で、恋愛に対する観念が変わったのだと思う。


 それにしたってまさか本当に私のことを求めてくださるとは思わなかった。

 あの頃は子どもだから、結婚とか、子どもを作ることの意味をよくわかっていらっしゃらないのだと思っていたけれど、お二人は忘れずに私のことをその中に引き入れてくださった。。

 私をメイドのままで家族にしてくださった。


「それでね・・・昨日から未調査の領域を探索してるわけだけど、シア先輩の見立てでは、あと2日くらいで攻略が終わりそうなんだ。今までこのダンジョンは最初まっすぐ北東の方向に進んだけれどそこから入り口を中心に円を描くように地下にもぐって行ってて、深くなるにつれて徐々に円が小さくなって、もう1層分くらいで入り口の真下に到達するんだ。今まで聴いている古代樹の森や、ヘルワール、クリスタルバレーみたいに人工的な構造物ならいかにも最後らしい場所だよね。確かに昨日あたりから壁に人工的な文様や不思議な材質のテーブルみたいなものなんかが目立ってきてるし・・・魔物もカエル型以外見なくなった。僕も終わりは近いと思う。」

「それではもうすぐホーリーウッドに帰れるのですね。」

 それは喜ばしいことだ。

 願わくばこのまま災禍なく終わればそれが一番なのだ。


「それでね・・・君だけに時間を割けるのは明日の休みまでになるけれど、明日何かしたいことある?」

 ユーリ様は私に、明日の休みの過ごし方を決めさせてくださる様だ。

「そうでございますね、この2週間ナディアめは十分にユーリ様に可愛がって頂きましたし、明日はぜひカグラ様とサクヤ様も含めてみんなでどこかお散歩でもしてすごしたいです。」

 そう私の気持ちをお伝えすると、ユーリ様は目を細めて。

「じゃあ明日はお昼からお散歩しようか。」

 と仰った。

「お昼から・・・ですか?」

 せっかくの最後の休みにそんな遅くからだなんて・・・そう一瞬考えたけれどその理由はすぐに身をもって理解することになった。



攻略といいつつ、攻略に参加せずに留守番をしているナディアの話で、長くなりそうな攻略道中部分を大胆に取り除いてみました。

なお多人数で慎重に慎重に攻略しているので、アイヴィとトーマのこと以外に目立った事故は発生していません


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