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第10.7話:夜警

雑に一個ずつ埋めていきます。

 私ことアビー・ホーク少尉は、ホーリーウッド防衛隊第三夜警部隊の副長。

 でも元をたどれば我がホーク家は、ホーリーウッド家の家臣ではなく、オケアノス家の家臣の家柄だった。


 先々代の当主の頃に、同じくオケアノス家の家臣であった、キルケル家がオケアノス家の姫と若君を弑逆し、最後に残った幼い姫に自分たちの息子を縁組して、実質オケアノス家をのっとったという。


 その時に我が祖父は、一族が200年仕えたというオケアノス家を離れることを決意したという。

 その後ホーリーウッドに移ったわがホーク家は旧知であったボーキュパイン家の紹介でホーリーウッド家に仕え始めた。


 私が4歳のときに3つ年上のギリアム様にお使えすることになり。

 その後ギリアム様が15歳で軍官学校に行くことになったためその御側メイドとしてお供することになった。

 ギリアム様には恋愛結婚をさせるとかで、ここに至るまで婚約者などいなかったギリアム様であったがもう既に年頃といってよく、もしも若君が若い情熱をもてあましている様であれば私もお情けを頂く覚悟をしておくようにと暗に言い含められていた。

 私はホーリーウッド市を発つときにはその覚悟もしていたのだけれど。


 王都にて、出会った没落した貴族の四女で王城でメイド見習いをしていたあの方が、既に皇太子に輿入れしていたフローリアン様からのご紹介でギリアム様の御付となった。

 軍官学校に付き添うのは私だけれど、ギリアム様はあの方と懇意になり、在学にとうとう妊娠までさせてしまった。

 そこで結婚式を王都でささやかに挙げて、先にホーリーウッドに奥方を帰し、卒業後すぐさまホーリーウッドに帰り20で父となった。


 私たちの年度は軍官学校の卒業生の質が悪く、私の様な才の乏しいものが、魔戦技課次席などという栄誉をいただいてしまったが、おかげで私はメイドの身のまま長くお仕えし、奥方が不慮の事故で亡くなられたときにはまだ若いギリアムさまが奥方がなくなってすぐに、女性と関係をもっては体面が悪いと、周囲から気の知れた女性を遠ざけたため、私も夜警隊に転属となった。

 5歳になったばかりのユーリ様が母親の死に泣きもせずに、ただただ母親の好きだった花を摘んでささげていた。

 

 夜警隊は一時的な処置で、数年以内に女性だけの近衛を立ち上げる予定があり、そこへの配属を考えているというエドワード様のお言葉もあり、私は夜警隊勤務となった。


 それからさらに2年半、24歳の冬。

 あの夜定例の夜警隊の行軍訓練のため。われわれの部隊はホーリウッド南西の砦近くのキャンプ地に簡易宿舎を設営していた。

 まぁちょっと頑丈なテント程度のものだ。

 そこに恐ろしいスピードで走る馬(しかも鞍もつけていない裸馬だ。)と少女が駆け込んできた。キャンプ地だと気づいたのか急に停止した少女と馬、馬はそのまま倒れこんでしまい少女は息も絶え絶えでゲホゲホ言っている。

 われわれはただ事ではないと、少女に飲料水を与えて、落ち着くのを待った。


 それから書状を渡されたデルフィニウム隊長が隊に命令を下し、ホーリーウッドへの報告に向かった3名と、少女、エレノアの警護に3人残る以外は、一路ウェリントンへ向かうこととなった。

 ウェリントンは遠い、エレノアの乗ってきた馬は僅か2時間ほどでココまで駆けてきたそうだが、到着してから10分ほどで死んでしまった。


 われわれは急いで仕度を進めエレノアの到着後30分ほどでキャンプ地を出発した。

 

 その後ウェリントンで見た光景を私は生涯忘れない。

 意味もない拷問を受けて死んだであろう男の子、頭を鈍器でつぶされた老人。

 まだ体温の残っている、既に事切れた少女を辱め続けている男。

 その近くにまだ両親とおもわれるものと、乳飲み子の無残な遺体が転がっていた。

 人間の出来ることだろうか?村の家々には火が放たれて、家という家にまだ温かい遺体がいくつも打ち捨てられている。


 生存者が見つからない、見つけられない。

 あの少女は、エレノアはこんな結末のために駆けてきたわけではない。


 あの子の守りたかったものを何かひとつでも見つけられなければ、われわれがいくら賊を捕らえようとも殺そうとも、意味がないのだ。

 既に13名の賊を殺害し、無力化した賊も捕虜にしている。


(でもそれもあのエレノアという少女には意味がないかもしれない・・・。)

 その時だった。

「ホーリーウッドからの救援ですか!?少し早い気がしますが!!」

 舌足らずなのに力強い、幼い女の声が響いて。

 私は聖母に感謝した。


 それからはあっという間の出来事だった。

 この幼女、アイラ・ウェリントンと名乗るまだ6歳にもならない子どもが、実質部隊の指揮をとっていた様なものだ。


 一度部隊が捜索した建屋にも入り、生存者を救出した。

 隠れていた賊を発見した。

 生存者、死者の名簿を作ってくれた。

 建物を割り振り、野営のための食料の備蓄の開放もしてくれた。

 この幼い子どもが、自身も両親と兄を失い、近しい人々を失った。

 眼を腫らして泣きじゃくっていいはずの子どもが、自分の父を、母を、兄を埋葬するための棺を、家家を解体して作ろうと言い出したときには、隊員たちは隠れて泣いたものだ。

 

 それでも私たちは、この子の助けがなければ、こんなにも迅速に村人たちの埋葬を行えたなかったし生存者ももっと減ってしまったかもしれない。

 

 真夜中にホーリーウッドに着いたあと、門番から不思議な指示を出された。

『3番広場まで馬車を護衛し、残りは賊の護送を』

 彼女たちを一度保護するため5番広場経由で、夜警隊の宿舎に戻りたかったが、なぜか3番を指定された。

 信頼の置けるものをといわれれば、隊長はまぁ副長の私を連れて行くだろう。

 なにせ唯一の女性のため、ウェリントンの生存者たちに懐かれている。

 生存者は女性ばかり8名だった。

 一人は妊婦だ。

 何があっても、自分の年金すべてなげうってでも、この8人は守ってみせる。 

 そのくらいの年金も蓄えもあるつもりだ。


 ひそかにそうやって意気込んでいたのだけれど、3番広場で待機していると周囲を囲まれた。

 一体何者が!?この哀れな避難民を狙うのか?

 一人は明らかに格上で、勝てる気がまったくしないほどの覇気を纏っている。

 表情はまるで好々爺なのだが・・・・ってあれ?


 その圧倒的上位者は見知った顔であった。

 ホーリーウッド近衛隊黒騎兵隊の隊長メロウド・ボーキュパイン様だ。

 ギリアム様の側近でもある彼がなぜ?

 メロウド様はこっそり私に目配せして会話を続けた

 そしてあの賢いアイラちゃんが、まるで旧知であるかの様にメロウド様と会話して。


 私は、半分夢見心地のまま、懐かしいディバインシャフト城へ・・・。

 そして懐かしい実に2年半ぶりのギリアム様とユーリ様との対面と果たした。

 あぁ、ユーリ様は今7歳半くらいか・・・相変わらずキレイな方だ。

 その後は私が聞いていて大丈夫なのかわからない話が目の前で繰り広げられて

 私が守る予定だった8人はホーリーウッド家の庇護下に入った。


 そして今日は遅いからと城から退去させられて、宿舎で待つ仲間たちと酒盛りをしたけれど、あまり味わっていられなかった。



 翌日、ギリアム様から呼び出された私とデルフィニウム隊長は、簡単な聴取と、生存者たちの情報を妄りに人に話さないことを約束させられた、隊員にも徹底し、代わりに全夜警部隊員に特別手当として月給の1/4に相当する銀判1枚が支給され、今回の事件にかかわったわれわれ第三夜警部隊には全員にその8倍に相当する金貨1枚が支給された。


 それから・・・

「アビー、少し予定より早いのだが、君に新しい辞令を用意した。」

「は!」

 ギリアム様は相変わらず優しい眼をしていて少し安心した。

 手渡された辞令に眼を通す。

「いつぞやおっしゃっていた、女性だけの近衛の増設ですか。」

「そうだ、まぁ察しのいい君ならわかるだろう。サークラたちの護衛だ。」

「はい、侯爵家に迎えられるということですから、それは必要なことでしょう。」

 満足そうにうなずくギリアム様に私は少し見ほれる。


 それから半年掛けて、信頼できる女性隊員をホーリーウッド防衛隊や辺境部隊から集めて新設の碧騎兵隊を増設した。

 そこで隊員に軍官学校仕込みの魔法と剣術槍術の訓練を毎日施し、今では立派に近衛隊と名乗れるだけの能力を持ったつもりだ。

 人数は12名しかいないが、全員が魔法と盾と細剣を高い練度で習得している。

 

 そして今日、メロウド様とスードリ様からの要請でこのたび新たに一人の碧騎候補を迎えた。

 彼女の名前はエレノア・ラベンダー・ノア。

 2年前、キャンプ地に飛び込んできた娘だ。


 彼女はかつて私も袖を通していた、ホーリーウッド家のメイド服姿のままで私に頭を下げた。

「エレノア・ラベンダー・ノアです!今日から、お世話になります!教官!」

 少し泣きそうになったのは、この11歳下の少女の胸が私の4倍くらいあったからだ。

 決して彼女の強い意志を持った瞳に感動したわけじゃない。

 

まだ埋まっていない視点が溜っているので、合間を見てがんばります。

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